第十四話 赤鬼、青鬼、小鬼
大きな会場に、白と黒の胴着を着た高校生が、ぎっしりと詰まり、その中に耳にイヤホンを付け、早いテンポの音楽を聴き意識を集中する田村がいた。
『それでは、試合を開始したいと思います。第一、第二会場で個人演武、団体演武。そして第三、第四会場で、競技を行いたいと思います』
会場全体に試合開始の声が鳴り響く。
顧問の先生は、特に有名な先生と言う訳ではなく、ただの付き添いだが、これから試合に向かう生徒に「まぁ頑張れや」なんて声をかけている。
試合会場には、演武のそろった掛け声と木製の武器がぶつかり合う音が、響きわたる。
会場全体を見下ろせるギャラリーの上では、未だに田村は音楽を聴きながら、下を俯いていた。
「田村先輩、そろそろ・・」
女性の後輩が声をかけると、田村はようやくイヤホンを外し、立ち上がった。
「ん、わかった。私、第四?」
後輩の持つパンフレットを、覗き見る田村
「いぇ、先輩は第三です。子島が第四ですね」
「子島は、もぅ会場に行ったの?」
「まだ向こうで寝てます。」
後輩が指さす方向に、頭にタオルを乗せ、その場に横になっている奴がいた。
「コラっ!子島、起きろ」
田村は、横になる奴を叩き起す。
「んあ・・・もぅ俺の出番っすか?」
頭に乗せたタオルを取ると、男のくせに両サイドに分けた、長い髪が印象的な子島が、起き上がる。
「あんたは、第四会場よ」
「了解っす。まぁ・・適当にやってきますょ」
メヤニを目に残しながら、フラフラと会場へ向かう。
その姿を見て、田村は溜息をつく
「・・・ったく、やる気が見えないね。あの野郎」
「仕方ないですよ。元さんが、来なくなってからズッとあの調子じゃないですか・・・」
「元を倒さないと、一番になっても意味がないってか?・・・まったく、全国大会なんだからそれでいいじゃない」
「先輩、そろそろ行って、体温めないと怪我しますよ」
「そうでした。・・・じゃぁ行ってきますか」
第三会場で、後輩を捕まえて体を温める中、第四会場では長い髪を上でまとめ、木刀を持った子島が相手に一礼をして、武器を構えていた。
「始め!」
「シャァ!」
審判の掛け声とともに、目つきの変わった子島は木刀を振り上げ、対戦相手に飛びかかって行った。
「ねぇ、そろそろ呼ばれるんだけど・・・あんた、何してんの?」
三島の部屋で、子猫がちょこんと座る中、三島は、イヤホンを耳につけ壁に寄りかかるようにその場に座っていた。
「ん〜?何って、精神統一・・・」
「精神統一・・・プッ、アハハハハハっ・・・何言ってんのよ!一番あんたに似合わなそうな事して・・・何、私を笑い殺そうとしてんの・・」
猫がその場で笑い転がる中、全く今の姿勢を崩そうとしない三島に、仙田も笑うのを止めた。
「・・・あんた、やっぱり昨日から変よ。何かあったの?」
「別に・・・今日は、俺、生き残れるのかな・・って思ってさ」
「・・・まぁ、そんな事言ったら、私だって今は猫なんだし、どうなるかわからないわ。・・しっかり、私を守ってよ」
「おぅ、まかせとけ」
素直に従う三島に、違和感を覚える中、三島と仙田は、部屋から姿を消した。
そして、現れた場所は、うす暗い三島の部屋だった。
「おぃ、ちょっと待て、ここで暴れられたら、俺の部屋汚れちまうだろ!・・場所移動するぞ」
イヤホンを外し、ポケットに入れ、窓を開けるとベランダから飛び降りる三島と仙田。
「敵は?」
住宅街の道路に飛び降り、仙田に話しかける。
「まだ、ここには来ていない。大丈夫よ。この前みたいな大きい生物じゃないから」
「だとしても、住宅街で暴れたりしたら、大変な事になる。どこに行こうかな・・・」
「学校は?」
「冗談!こっから学校まで電車を使っても、七つも離れてるんだぞ!走れってか?・・・そうだ、近くに森に囲まれた神社があったな」
思いつくとすぐ行動。三島は、神社へ向かって走り出す。
「あっ!こら、ちょっと待て」
三島が走り出した事に気づき、急ぎ後追う仙田。
一方、その神社で寝泊りをしていた(一時的にです。決して大家さんに追い出された訳ではありません)伊吹は、ちょっとお先に敵と交戦中だった。
「こりゃまた・・厄介な敵さんだね・・・」
そんな事を言いながら、右手にまとった炎を敵に向かって飛ばしていた。
神社へ向かう三島達にも、遂に敵が姿を現した。
「うぉっ・・・なんだこりゃ」
三島達の周りには、人の形に似た頭はでかく、その割には細くて短い手足と、小さな体。「キィ、キィ」と鳴き、人と似ていると言ったが、一つ違う物が頭に二本の小さな角がある事だ。
皮膚は、チュパカブラみたくネズミ色で、大きさも子猫程度の大きさだ。
「小鬼ね・・まだこんなに生きてたんだ」
小鬼達に毛を逆立て、警戒する仙田。
「また、こんなに、たっくさんのお出迎え、厄介な事だね・・・」
武器を持たない三島は、手を開いたまま小鬼達を待ち構えた。
「キェーー!!」
一匹の奇声の合図とともに、小鬼達は一斉に三島達に飛びかかってきた。
仙田は、住宅の塀や電柱を飛び回り、小鬼達を避け、確実に一匹づつ敵の首に噛みつき、自らの牙で小鬼の首を折っていった。
そして、三島は、飛びかかってくる小鬼達を、避けながら手刀で叩き落とし、その手刀は小鬼の鼻や顎に入り三島の足元には、気を失った小鬼達が転がっていた。
だが、叩き落とせなかった小鬼達は三島に飛びつくと、あたり構わず、三島の体に噛みついた。
「くそっ!」
肩に噛みついた小鬼を剥がすと、そのまま小鬼の顔を塀へと押し付け、そのまま擦りつけた。小鬼は、顔を抑えながら地面でのたうち回った。
その光景を見て、一瞬だが噛みついていた小鬼達は、噛む力を緩めた。
その隙を見て、三島は一気に小鬼達を引き剥がし、硬いコンクリートの地面へと叩きつけた。
大きな頭が、アダとなった。地面に投げつけられた小鬼達は頭を押さえながら「きぃ、きぃ」と痛みの声を上げていた。
「よぉし、次!」
三島の掛け声に、怯む小鬼達。そして、その三島の態度に違和感を覚える仙田。
そして、小鬼達で会話をし始め、しばらくすると小鬼達は一匹一匹、黒い煙に包まれたかと思うとその場から姿を消した。
「・・・なんだ?」
「降伏したのよ。まぁ降伏できる奴らだけだけど・・・」
気を失った小鬼や頭を抑える数匹の小鬼達は、まだその場で「キィ、キィ」と鳴いていた。
「こいつ等は・・・」
「まだ戦う気があるなら、私達に襲いかかってくるんじゃない?・・まぁ多分、あまりの痛みで、降伏も出来ないんだろうけど・・」
そんな事を言っていると、その場でのたうち回る小鬼達は、炎に包まれた。
「ギィィィ・・!」そんな声を発しながら燃えていく小鬼に三島は思わず目を逸らした。
「伊吹の奴も、どうやら一匹、捕らえたみたいね・・・」
「酷い事しやがる・・・」
黒くなっていく小鬼達を見ながら三島がそう言うと、仙田が「どうかな?」と呟いた。
「あんたのその意味のない、優しさのせいで、苦しむ小鬼達を楽にしてくれたんだからいいんじゃないの?・・・むしろ、こんな生き地獄を味あわせた、あんたの方が、私は酷いと思うわ」
炎は消え、炭となった小鬼は風に流され、跡形もなくなった。
「・・・これで、終わりか?」
仙田の言葉に心がきつく締めあげられる三島は、その気持ちを忘れようと仙田に聞く。
「いや、まだよ・・・伊吹と交戦中」
「なら、助けに行かないとな・・・場所は?」
助けに行く・・その言葉に溜息をつく仙田
「・・・多分、あんたがさっきから行こうとしてた場所。」
「マシで?・・・伊吹の奴、遂に路上生活?」
そんな事を言いながら、三島達は神社へと急いだ。
小さな鬼をなんとか、捕まえ魔法を使う事は出来たが、伊吹も目の前の敵にかなり苦戦していた。
「くそ・・・こんなに苦戦するとは正直、思ってなかったよ。なかなかやるじゃねぇか」
伊吹の前には3mはあろうか、そんな巨体の赤い肌をした鬼と青い肌の鬼がそれぞれ、金棒と大きな鉈を持ち、立っていた。
「・・・って言うか、小鬼とは兄弟じゃねぇのかよ・・あいつ等捕らえりゃ、お前等も燃えると思ってたのによ・・」
そんな事を言っていると、赤鬼が伊吹に向かって突進してきた。
伊吹は、大きくジャンプし赤鬼を飛び越えるが、その伊吹より上に鉈を構えた青鬼が伊吹に目がけ鉈を振り下ろす。
伊吹は右手を振り上げると、地面からは大量の土が青鬼めがけ飛んでいき、青鬼は鉈を振り下ろすのを止め、自分の身を防いだ。
バランスを崩しながら落ちてきた青鬼に、チャンスと言わんばかりに伊吹は、炎を投げ飛ばすが、青鬼の前に赤鬼が立ちはだかり、炎を金棒で吹き消した。
「くそっ!同じ五行の使い手か!」
伊吹は空の様子を窺うが、雲ひとつ見当たらない。
「水もなしか・・・」
赤鬼は、金棒を捨て、両手に炎を持ち、伊吹に向かって投げてきた。
「同じ、使い手に、同じ攻撃が効くと思うな!」
伊吹は、飛んでくる炎に右手を出し、待ち構えるが、炎が伊吹に到達する前に青鬼が炎に水をかけ、炎は一瞬にして消えた。
だが、消えた炎の代りに100度を超える水蒸気が、一気に伊吹に襲いかかった。
分厚いコートに助けられた伊吹の周りは、白い蒸気が包み込み、あたりは何も見えなくなった。
水蒸気が、パチパチと音を立て、鬼達の足音も気配も感じ取る事が出来ない。
「くそ・・・どっからだ?」
伊吹は、その場から動く事はなく、全神経を集中させる。
早く蒸気を晴らせようと、風を起こし、霧は晴れたが、周りには鬼達の姿はなかった。
「右に思いっきり飛べっ!」
三島の叫び声に反応し、右に飛ぶと、上空から金棒と鉈を持った鬼達が、落ちてきた。
伊吹が先ほどまで立っていた地面には、大きな穴があき、大きな衝撃が走った。
「伊吹、大丈夫か!」
「あぁ、お前のお陰で助かった」
三島が、伊吹の方へと近づいてくる。伊吹は地面に右手を置き、地面に埋まった金棒と鉈を地面にさらに深く、埋め込む。
「うわっ、近くで見るとかなり、でかいな・・・何あれ鬼?」
「どうみたって鬼だろ。・・ったく東洋の化け物は本当に化け物だな・・あいつ等も五行を操れるみたいだ・・」
「五行?」
なんか聞いた事あるな・・でも、覚えてねぇや。なんてリアクションを取る三島
「自然現象を、操れるって事だよ!・・ったく、一度説明したんだから、そんぐらい覚えろ!」
鬼達は、抜けない武器を諦め、魔法の下準備を始めるため、呪文を唱え始める。
「え?だったら、どうするの?お前と同じ魔法使いって事だろ?」
「簡単な事だ。俺があいつ等が使えない魔法を、使えば済む話だ」
伊吹は、埋まった武器から刀を土を伝って、作り出すと三島に渡した。
「あいつ等を見た感じ、どうやら赤は炎、青は水の使い手だ。そして、埋まった武器を取れない、つまり土も金も使えないって事だ。」
青鬼は、体の周りに大きな水の塊を、造り出し、その内の数個を伊吹達に飛ばしてきた。
伊吹はとっさに、土で壁を造り出すが、水の塊は、そんな壁に大きな穴を作りながら貫通してきた。
だが、軌道の逸れた水は周りの木々にぶつかり、木はベキベキと大きな音を立てながら倒れていった。
「・・・だが、土に水は天敵だ。残すは、金なんだが、金属はここら辺からは、一切感じ取れない。あるとしても、さっきお前の武器に使っちまった。」
三島は、今持つ光り輝く武器を眺め、先ほどのあいつ等の大きな武器を思いだす。
「えっ?これだけ?あの大きな武器から取り出した金属はこれだけ?」
「うるせぇな・・・あいつ等、不純物ばっかしの武器を使ってたんだよ・・完璧な武器を作ったら、これしか出てこなかった。」
「別に不純物だらけでも、よかっただろ!なんでこれだけに全部使っちまうんだよ!」
「うるせぇっ、俺は完璧主義者なんだよ!」
そんな事を言い争っていると、赤鬼は土の壁を破壊し、伊吹達の前に現れた。
「とにかく、俺が赤をやる!お前は、青をどうにかしろ!」
伊吹達は、左右に散った。
「どうにかって、・・・どうやって?」
三島が問いかけるが、その返信は返ってくることはなく、赤に向かって土の塊を飛ばしながら、三島から離れていった。
そして、三島の前には青鬼が現れ、三島は覚悟を決めて刀を構えた。
だが、青鬼は三島に襲いかかってくる事はなく、しばらく睨みあいを続けると、その場から去った。
俺に恐れを抱いた?・・いや、敵として見てくれなかったのか?・・・
頭をフルに回転させる三島、そして、ある一つの答えを導き出し、伊吹の元へ急いだ。
小鬼や鬼達にやられた傷を庇いながら、森の中を走り回る伊吹は、その後を追ってくる赤鬼に勝機が見えて、待ち構える。
「よぉしっ!てめぇ、一人なら何とかなる」
伊吹が呪文を唱え始めると、伊吹の地面が揺れはじめ、伊吹の体を覆うように土で出来た大蛇が現れた。
「飲みこめ!」
大蛇は、伊吹の命令に従い赤鬼に向かって飛びかかる。
赤鬼は大蛇に炎をぶつけるが、大蛇は怯むことなく、赤鬼の体に巻き付き、締め上げる。
締め上げられた赤鬼は低い声で唸り声を上げ、口からは泡を吹き始める。
「一気に終わらせてやる!」
大蛇は大きな口を開け、赤鬼の頭から飲み込み始めようとする。
だが、大蛇と赤鬼の頭上から滝のような大量の水が降りかかり、大蛇は泥となって一気に崩れおちた。
赤鬼がその場に倒れこむ中、その赤鬼を庇うように青鬼が前に立ちはだかった。
そして、青鬼は伊吹に向かって、水の弾を飛ばし、伊吹はモロに喰らって、後ろへと飛ばされる。
「くそっ、・・・三島の野郎。死んだのか」
青鬼は、両手を上に掲げ、手の上に大量の水が集まり始める。そして、その集まった水の塊は段々と一本の長くて太い物になり始めた。
「あのヤロ・・・水龍を呼び出すつもりか」
大蛇に力を使い過ぎた伊吹は、立ち上がる事がやっとで、動く事は愚か、対抗する力もなかった。
「くそ野郎が・・・」
青鬼の手の上では水の表面に鱗が浮かび上がり、次第に今か今かと、青鬼の手の上で暴れ出す。
そして、青鬼の呪文は最終段階に入り、より一層力の入った声が、森に響きわたり、龍の形もハッキリとしてきた。
だが、その水の龍は暴れる事も出来ずに、ただの水となってその場に落ちる事になる。
倒れる赤鬼を踏み台にして飛び、青鬼の頭上高く現れた三島は、刀を一振りすると、青鬼の両肘から上を切り落とし、上に出来上がりつつある龍とともに、地面に落ちた。
「ドォゥリヤ!」
三島は攻撃を止めず、地面に着地すると同時に、青鬼の大樹のような太い右足を切った。
立てなくなった青鬼は、その場に倒れ、大量の水をかぶった三島は刀を肩に置きながら伊吹を睨みつける。
「伊吹!てめぇ、何離れてんだよ!せっかく合流出来たってぇのに、離れすぎたら、狙い撃ちに遭う事ぐらいわかるだろ!」
両腕を失った青鬼は、痛みを手で抑える事も出来ずにその場にうずくまり、青鬼の周りには緑色の血が溢れ出していた。
三島は、青鬼の首付近まで来ると、刀を両手で持ち、上へと振り上げた。
「・・・おぃ、三島・・」
思わず止めようとしてしまう伊吹。だが、その言葉と手はすぐに引っ込めた。
青鬼は、蹲りながら目を閉じる事なく刀の行く末を、見守る。
三島の額には、脂汗がにじみ出てくる。不規則な呼吸を整えようと深く息をし始める。
青鬼の後ろで倒れていた赤鬼は、三島を止めようと人差し指を、三島に向け炎を溜め始める。それに気づいた伊吹は声を荒げる。
「殺れ、三島!・・・赤鬼が復活する!」
「黙れ!知ってんだよ。そんぐらい!」
「急げ!種火はそこら中にあるんだ。呪文なんてすぐに終わっちまうぞ!」
「わかってる・・・わかってるんだ・・」
刀を握る指に力が入る。
だが、刀はカタカタと震えはじめる。
仙田は、木の枝に上がり「何やってんのょ・・」そう呟きながら、その光景を見ている。
「三島っ!」
赤鬼の指の先には、大きな火の弾が出来あがり始め、離れている三島もその熱さを肌で感じるほどだった。
「くそっっ!」
三島は、青鬼に刀を振り下ろす事もなく、青鬼から離れた。
三島が離れるとほぼ同時に、術が完成した巨大な火の玉は赤鬼の指から離れ、三島に向かって飛んできた。
飛んでくる火の玉を避けると、三島は倒れる赤鬼に刀を前に突き出しながら突進していった。
刀は、赤鬼の首にブツリと突き刺さり、三島は突き刺さった刀をそのまま、上に押し上げた。
刀が赤鬼の首から離れると同時に、緑色の血が首から上に向かって吹き出し始め、噴き出す血は、周りの木々と同じくらいの高さに達していた。
三島は、未だに刀を離さず、そのまま青鬼に向きを変える。
「わかっただろ、あんたに俺達は倒せない。」
吹き出していた血は次第に落ち着き始め、血まみれになった三島は青鬼に話しかける。
三島の言葉が通じたのかどうかは、わからないが、青鬼は黒い煙に巻かれながら姿を消した。
森には所々、火が残り、極端に抉られた地面、大きな水たまりが出来上がり、そこに全身怪我だらけの魔法使いと、全身血まみれの少年、全身毛まみれの猫が取り残されていた。
自分の怪我を抑えながら、魔法使いは、刀を地面に降ろしたまま上を見上げ放心状態の少年に近づいていく。
「おぃ、三島・・・」
ただ立ち尽くす三島に、声をかける伊吹。
伊吹の言葉がスイッチとなって、三島は突然、思いっきり叫び出した。
「あぁぁぁぁーーーっ!!!」
一通り叫び終えると、不規則に呼吸をしだし、刀を持ったまま、フラフラと覚束ない足取りでその場に倒れる赤鬼の所へと近づいていった。
赤鬼の首の切り口からは、綺麗な筋や部品一つ一つの肉の塊がハッキリと見える。
「違う・・・違うんだ」
小さく呟きながら、引きつるような過呼吸を起こし始め、三島は持っている刀を赤鬼の首の上に置くと、小さく赤鬼の首から肉を切り落とした。
持っていた刀を手から離し、変わりに先ほど切り落とした肉を手にし、その行動を不思議と思う伊吹と仙田。
「・・・おぃ、三島。大丈夫か」
切り落とした肉を、眺める三島に遠くから話しかける伊吹。
だが、その言葉も今の三島には届いてはいなかった。
そして、三島は、一度口に溜まった生唾を飲み込むと、手にしていた肉の塊を、一気に口へと押し込んだ。
「三島っ!」
伊吹は、その光景を見て、急ぎ三島に駆け寄り、三島の口を無理にでも開かせようとする。仙田は、三島の行動にただ、立ち尽くす事しか出来なかった。
三島の口の中は、今までにない味をしたゴム繊維に似た食感が広がり、とても食べれるような物ではない!と、脳が無理だと話しかけてくる。
伊吹の外からの攻撃も、脳みその中からの攻撃からも頑として口を開かなかった三島は、無理やり口の中の物を喉へと押し込んだ。
三島のとった行動は、虚しくも胃がそれを拒絶し、押し込んだ物は、再び三島の口から吐き出され、三島はその場に両膝をつく。
三島の胃は、まだ入っているのか、再び暴れはじめ、そのたびに三島は顔を歪ませる。
「馬鹿野郎!何考えてやがる!」
「違うっ!俺は好きで殺したんじゃねぇ!・・・スリルを味わいたくて青鬼を殺すのを躊躇ったんじゃない!・・・俺はただ伊吹を助けたかっただけだ!危険に飛び込んだ訳じゃない!」
三島は、伊吹の言葉には反応を示さず、自問自答を繰り返し、しばらくすると、落ちている刀へと手を伸ばした。
伊吹はそれに気づき、三島が刀を手にする前に、刀を地面の下へと沈めた。
「伊吹!てめぇえ!」
三島は、伊吹に鬼のような形相で睨みつけながら、立ち上がると、怪我人の伊吹を殴り倒した。
ようやく金縛りの解けた仙田は、三島を止めようと、不本意ではあるが伊吹の前に立ちはだかり、三島の腹へと強烈な頭突きをお見舞いする。
「何やってんのよ、元!止まれ」
鳩尾にヒットした三島は、一度怯み、その隙を見て伊吹は、三島の頭に右手を乗せた。
すると、三島は力が抜けてたようにその場に倒れ込んだ。
三島が倒れた事にとりあえず一安心と、腰をその場に下ろし深く息を漏らす伊吹。
「元!ちょっと元!・・・伊吹、あんた元に何をした!」
仙田は、三島に駆け寄りながら、そう叫んではいるが、伊吹には「ニャー」としか聞こえてはいなかった。
「おぉ、にゃんこ。お陰で助かったよ。・・・ったく、何考えてやかるだ、三島の奴」
ポケットから煙草を取り出すが、水浸しに気づき、その場に投げ捨てる伊吹。
「・・・・にしても、新しい仲間か?にゃんゴロ」
「ニャー?」
「まぁ、お前みたいな奴ならすぐに殺せるから、別にいいか・・」
ケタケタと笑いながら伊吹はそう言うが、仙田が両手から仕込んでいた爪を出した事には気付かなかった。
「ウニャーーッ!」
「オギャーーーーーっ!!」




