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 夏の日差しはさらに強くなっていた。


 午後一番の授業は体育で、水泳だった。皆ゾロゾロと体育館へ向かい、隣にあるプールへの渡り廊下に長い列を作った。俊哉は皆んなから少し離れ、最後尾をトボトボと歩いていた。前景を埋める黒い頭の中に、霧島たちはいなかった。保健室で治療を受けたのち、校長室で説教をされているのだ。


 あの後、学級委員の適切な説明により、俊哉の暴力は行き過ぎてはいたものの、水口幹夫を助けるためのやむを得ない行為だった、ということで決着がついた。だからもう、この件について誰にも触れられたくなかった。同時に、自分の中に奇妙な化け物が棲んでいるような、得体の知れない感覚に陥っていた。


 更衣室で服を脱ぎ、皆、次々と冷たいシャワーの下をくぐり、腰洗い槽にジャバジャバと入っていく。更衣室を出る時、手洗い場に据え付けられた鏡に誰かが映っているのに気づいた。誰か、だと思った。そこに映る姿が理解できるまで数秒かかった。肩、胸、上腕二頭筋の隆起に目を見張る。上半身だけの少年は殺気立っていて、もう少女のような姿をしていなかった。


 基礎的な訓練をした後、級を決めるテストが始まった。


 俊哉は小学校低学年まで近所の水泳スクールに通っていたので、四年生ですでに百メートルを泳ぎきることができ、一級を取得していた。白い水泳帽に一級を示す赤い紐が縫い付けられていて、ちょっとだけ自慢だった。しかし、その上の準特級、特級となると、距離ではなくタイムでランクが決められていった。俊哉は長距離を泳ぐのは得意だが、スピードがまるでなかった。泳ぐ技術が未熟であること、全体的に肉体が貧弱であったことが要因だった。だから五年生になると、次々と周りに追い抜かれていったのだ。


「位置について、用意」

 飛込み台の上で前屈姿勢になる。

 また、駄目かもしれない。でも、何も考えず二十五メートルを全力で泳げばいい。そう言い聞かせて、俊哉は位置につく。強い日差しがつくる、自身の黒い影が、いつもより濃いように感じた。

 教師がホイッスルを吹くと、横一列一斉に飛び込み、飛沫を散らす。


 すべてを忘れて、クロールに集中した。フォームはそれほど上達はしていない。しかし、昨年よりも背が伸び筋肉が付いたことで、推進力の変化は感じられた。


 グイグイと水を掻く。息継ぎをするたびに、太陽の光がまつ毛を濡らす水滴にぶつかり、キラキラと幻想的な世界を映し出す。眩しい。息が切れる。自分の呼吸の音だけが、胸の内で大きく膨らんでいく。内壁に指がついたところで、体育係の生徒がストップウォッチを押した。すると、周りから、おおお! という感嘆の声が上がった。


 水口を助けたことで、俊哉はすでに英雄のような眼差しで見られていた。しかし、あの圧倒的な暴力を見せつけられた後なので、近寄りがたい英雄ではあった。しかし、ほとんど人と喋らない寡黙な英雄は、やがて饒舌な人気者に変わっていくだろう。


 タイムはグッと伸び、ついに準特級の証である緑紐を授けられた。

 少し自分が誇らしかった。


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