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華宮百合香は事実を受け入れざるを得ない 1

旦那様、というかおじいさまは机に向かって書類かなにかを書いていたところのようだった。まだ朝なのに、しっかりと襟付きのコートにクラヴァットをして、いかにも貴族らしい服装をしていた。白髪をすっきりと一房にまとめ、背筋をまっすぐと伸ばしているところなんていかにも紳士然としている。

おじいさんは入ってきた私達を笑顔で迎えると、

「おお、オルレリア、具合はよくなったかね?湯浴みをしてすっかり綺麗だね、すっきりしただろう?こんな朝早くから来てもらってすまないね」

とやたら私に気を遣うような言葉を見せた。やっぱり、ニセのオルレリア嬢だとわかっているからこそこんな話し方をしているのだろうか?いや、そうは思えない気もする。このおじいさんは元々優しい性格なんだと思う。

そう思って少し安心した私は、「はい、もう大丈夫です、おじいさま」と答えた。途端に、隣で頭を下げていたジスレーヌさんがぎょっとした顔でこっちを見てくる。

えっなにか私やっちゃった?と気づく前に、おじいさんは優しい顔ではっはっは、と笑うと、

「おじいさま、とは手厳しいね、オルレリア!今日の私はそんなに老けてみえたかな?」と冗談を言ってきた。

私はよく意味がわからず、正直に「いいえ、昨日も思っていたのですが、今日も白いおヒゲに濃紺の襟がよく合ってて素敵です。」と答えると、おじいさんはびっくりしたように目を大きく開けて、

「いやいや、娘からこんな褒め言葉をもらうのは随分と久しぶりだよ。」と言ったあと、また優しく微笑んだ。「お前は本当に優しい娘だね、オルレリア 」

一方の私は、一気に緊張が走って硬直していた。

やばいやばいやばいおじいちゃんって言っちゃったけどこの人お父さんなんだ!!これはかなり致命的なミスだ。道理でジスレーヌさんがぎょっとした目をしたわけだ。な、なにかいってごまかしたほうが良いだろうか、それとも、もう冗談だと思って流してくれたかな、えーもういいや聞かれたら「えそんなん決まってるじゃないですか冗談ですよ」って言ってごまかすことにしよう、

そうやって焦っている間にもおじいさん、じゃなくてオルレリア嬢のお父様、は言葉を続けている。いけない、もう少し集中して聞かないと……

「……んなにお前は優しくて聡明でユーモアのセンスもあるというのに、三度もこんなことが起きるとはどうしたことだろうね。私には解りかねるのだが、まあこうしたことには当人の考えもあるだろうし、何もお前が原因とは限らないのだからね。

例えば、先方が財政的な事情でもっと位の高い方と縁組せざるを得なくなったとか、お家の都合で違う兄弟の結婚を先に都合つけてやらないとならなくなっただとか、あるいは遺産が入って急な結婚をする必要がなくなったとか……理由は幾つでもあるものだよ。

だから、今回のことも、破談になったと言ってもお前のせいだと責めなくて良いんだからね。」

え。縁組。結婚。破断。

三度目?

なんだかこの話の方向って……

「えっ三度目の婚約破棄いっ!!?」

体から血の気が抜ける。足元がふらつく、と同時に笑えてきてしまった。二周目プレイ前とはいえ、公式サイトのおかげでオルレリアって悪役令嬢キャラでキツイ性格とは聞きかじっていたけどまさかここまで嫌われ者だとは。

「いやそれはどう考えても本人の性格のせいじゃないですかね」と言いたくなったが、笑いたい気持ちを抑えるので精一杯だ。私は一生懸命口元を両手で覆って笑いが洩れないようにしたが、肩がひくひくと揺れるのは止めようがない。私は下を向いてごまかした。

そんな私の様子を見てなにか勘違いしたのか、お父様は眉を寄せると、

「おおすまない、傷つけてしまったね、泣かないでおくれオルレリアや、私の小さな天使……なんて繊細な娘だろう」と言い、私の肩に手を乗せて慰めてきた。だめだ、そんなことされたら更に笑ってしまう、

あと少しで爆発してしまうところで、お父様は踵を返すと、急に暗く沈んだ声を出してこう言った。

「ところで……いや、言わねばなるまい、お前のためには隠していても仕方ないのだからね。

うちが雪のせいで財政的に厳しい地方だというのは、お前も子供の頃から知っているとは思うが、お前にこれ以上つらい思いをさせないためにも、やはり私はお前には早く幸せな縁談を見つけてやりたいと思っているのだよ。そこでなんだが……

ルイズと相談して、お前をグルスアンアーヘンにあるシュパリスホープ高等院に入れることにしようと思うのだが、お前はどう思うかね?もちろんお前が嫌だというなら無理強いはさせないが、あそこで少し、同じ年頃の娘達と過ごすというのは何かお前の気分転換になるかもしれないと思ってね。

なに、あそこへはお前の叔母さんが運営しているエルフェンプラッツ修道院から通うといいだろう、あそこは高等院がある中心市街にも近いし、適度に田舎だから息抜きができるし。

なんにしても、こんな辺境の田舎貴族の娘としてお前の美貌と才能を氷漬けにするのはもったいないし、父親として見過ごせないのだよ。

どうだい、オルレリア、私の優しいうさぎ、お前のお父様の言うことを受け入れてくれるね?」

そう言い終わるとお父様は私の目をじっと見つめてきた。

シュパリスホープ高等院。これ、どこかで聞いたことある、ってレベルじゃない。これってやっぱり、しっかり「薔薇の乙女のアラモード♡」の世界の学校の名前、主人公が通っていた学校だ。私、そうなんだ、これ夢とかじゃなくて。


薔薇の乙女のアラモード♡ 悪役令嬢オルレリア(2周目からのみ登場)


私の人生の舞台は、いよいよ本格的にゲームの中に転移してしまった。

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