#1
港町であるスキードブラドニルは、海を渡ってくる商品や人で賑わっていた。
大きな街道も南北に整備されており、旅装備を売る店、護衛を雇うための冒険者ギルドも繁盛していた。
陸路や海路で到着した人達をターゲットに、小休止出来る広場やそこに店を構える屋台、軒下にもテーブルを並べる酒場などがあり、道行く人を呼び込んでいる。
「オジサーン、串焼き2本ちょうだい。」
「ハイヨ!毎度っ。」
ここは商業ギルドそばの小さな広場。
そこにある串焼きの屋台を、女剣士と女魔術師の2人組はよく通っていた。
「いつもありがとうな。…しかしここは冒険者ギルドからちょっと離れていて、大変じゃないか?」
女剣士―レミィは齧りつきながらながら答える。
「ここの串焼き知っちゃうと、冒険者ギルド前の串焼きはちょっと食べられないよ~。高いし…。甘辛いタレが肉汁と一緒に口の中に広がるのが最高!」
「丁度商業ギルドに買い取ってほしいアイテムが出たのです。ついでなのでオジサンが気にすることは無いのです。」
こちらは女魔術師のシシリーだ。
彼女たちは先程クエストを達成して、この屋台に足を運んだのだ。
「へぇ、ダンジョンにでも潜ったのかい?」
屋台の主人に”凄いねぇ”と言われればまんざらでもない。
「アタシ達の実力じゃまだ5階層までしか行けないけどね。」
照れながらも嬉しそうだ。
「珍しいモンスターでも出たのかい?」
「いえ…通路に落ちていたのです。」
シシリーがアイテムバッグから取り出したのは黒く輝く硬質な鱗。
「…ドラゴンフィッシュの鱗かねぇ?」
硬質な鱗を持つ巨大な魚で、ダンジョン内に水辺があれば潜んでいることもある。
「冒険者ギルドの鑑定ではドラゴンと言う話なのです。」
「5階層にドラゴン!? そんなことあるのかな。」
屋台の主人が首を傾げると、2人組も同じ意見だったようで、今から高ランクの冒険者をギルドが派遣し、調整することになったそうだ。
「まぁドラゴンに出てこられちゃな…。命あっての物種だしなぁ。」
「どれくらいの大きさで、どんな強さかは引き続きギルドで調べるみたい。アタシ達はダンジョンに入れない間は稼ぎがなくなっちゃうから鱗を売りに来たのよ。」
大きなため息をつくレミィ。
「…野外のクエストとかは?」
「駆け出しの冒険者さんに譲らないと、彼らが干上がってしまうのです。」
屋台の主人は腕組みした。
「そうかぁ、難しいんだなぁ…。」
「ね、オジサン! 串焼きのお肉ってワイルドボアだよね!? 仕留めてきてあげるからアタシ達にクエストの依頼しない?」
唐突にレミィが提案する。
「いやぁ…ありがたいけれど、専属で契約している狩人がいてね…。」
焦りながら屋台の主人がそう答えるとレミィはすぐ引き下がった。
「何か困ったことが起きたら2人にお願いするよ。」
屋台の主人がにこやかに言うと2人とも微笑み返し、
「うん、オジサンなら格安で引き受けるから!」
と言って商業ギルドへと向かって行った。
引き続き、串焼きを買い求めて来た客に焼き立てを振る舞いながら、屋台の主人は先程見せてもらった鱗について考えていた。
「卵を持った雌竜か…。危険だな…。」
その頃冒険者ギルドでも正体がおおよそ判明していた。
「Lv50台の黒竜だと…? 何でそんなものが浅い階層に出てきているんだ?」
ギルドマスターが頭を抱えている。
「Dランクの冒険者が拾ってきた鱗の大きさから最低でもLv50だろうって話です。…どこか他の場所から飛んできて棲みついたのかもしれませんね。」
「Aランクで倒せるかどうかかなぁ…。」
「相手の知能が高いから、話し合って移動してもらうのが最も被害が少ないでしょうね。」
一方サブマスターは、港街への被害を考えると戦いたくない姿勢を見せる。
そして護衛任務が多いこの港街では、多くの冒険者が出払っているのが現状だ。
「まずはどの辺に巣を構えているか、縄張りはどれくらいかを調査だな。」
「通常よりスカウト多めに手配しますか。」
こうして2日後には港街最寄りのダンジョンに入るためのパーティーメンバーが編成されていった。