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【幕間】~新たな姫~

和歌山県新宮市


咲と湊


第46話「感謝、そして選択」の咲視点のお話。


「咲、大丈夫か!? 」

「だ、大丈夫! びっくりした……」

 

 丹鶴姫が起こした風によって吹き飛ばされてしまいました。突然のことで、私はそのままお尻から倒れてしまいました。

 すぐに湊くんが声をかけてくれます。

 

 突然の突風にも驚きましたが、私の身体からあんな大きな声が出ることにも驚きました。

 

 汚れてしまった湊くんのジーパンを払います。せっかくお借りしてしまった洋服を汚してしまったら申し訳ありません。

 

「丹鶴、最後の審判というのは? 」


 湊くんは、私のことを一番に心配してくれたようで、私の無事を確認すると丹鶴姫と対峙しています。目の前に丹鶴姫が居ることも不思議ではありますが、こうして目の前に自分の身体が、その中に湊くんがいることがまるで幻のような光景です。


「ああ、わかってる。でも、咲は何も知らないんだ。少しくらい時間をくれても罰は当たらないんじゃないか!?」


 でも、少しだけ不穏な気配がします。その意味が分からなくとも湊くんの手が震えているのです。


「ふん、まあいい。すべて話すがいい、何もかもな」


 丹鶴姫の許可を得てもすぐに話だすことはありませんでした。これから話すことがきっと湊くんの判断を迷わせていることは間違いありません。


「咲、話さなきゃならない事があるんだ。まず、咲の身体のことだ」


 私は、突きつけられた現実をそろそろ受け入れなければならない時が来たのです。

 

 話が進むにつれ、湊くんの表情が固くなって行きます。それが、とても申し訳なくてなりません。

 真実を知らなければどんなに幸せだったでしょう。しかし、これが現実なのです。


 だから、湊くんがどんな選択をしても、私はその意思に沿うことを心に誓いました。


「――――そして、その選択を俺に託された」


 湊くんは、苦い物を食べたように、何か異物を吐き出すように、最後の言葉を吐き出しました。

 全ての元凶は私。それが、事実。

 それ以上でも、それ以下でもありません。


「そう、だったんだ……でも、そうだよね。湊くんが悩むことないよ。元の生活に戻るだけだよ。私が巻き込んでしまったようなものだし、恨まれたって仕方ないくらいだよ」


 正直、とても怖いです。でも、ここは「最後の審判」です。私が、一刻も早く受け入れ、湊くんを早く解放してあげることがせめてもの罪滅ぼしです。


「羨むことがあっても恨みやしないよ」

「羨む? 」


 私に向けられた優しさが耐えられず、視線をそらしてしまいます。

 罰を与えられても可笑しくない私に何を羨む所があるのか、わかりません。


「ああ、こんなにも素晴らしい場所。それに、美波という親友にも恵まれている。そして、咲のことを一番に想う暖かい家族もいる」


 思わず、顔を上げてしまいました。湊くんは、きっとそういうものがないと思っていたのでしょう。でも私は、渋谷での出来事を思い出します。

 キミは気付いていないだけで、大事なものを持っていることを知って欲しいと思いました。


「そんなこと言ったら湊くん、あなたも羨ましいと思ったよ。元気な身体。何でもある街。どこへでもいける自由。緊張したり、怖かったりしたけど、とっても楽しかった……ありがとう」


 私の嘘偽りのない言葉でした。ここ一ヶ月くらいの毎日はとても楽しかった。すべて湊くんが居てくれたおかげです。


「咲、俺のほうこそありがとう。そして、ごめんな」

「ごめんだなんて謝らないで。私、キミに出会えてよかった。決まったんだね? 」


 最後に、キミに会えて幸福でした。もっと一緒にいたかった。でも、ここで終わる。

 恨まれても仕方ないと思っていたのに、罪悪感を覚えさせてしまったことが最後の悔い。

 せめて、最後くらい笑顔で終わりたい思いで、必死に涙をこらえます。

 

 うなずくキミに気付かれないよう私は、涙を袖口で拭います。


 もう、考えることはありません。すべて終わります。その一言で。


「丹鶴姫、俺の選択は“生きること”だ」

「その選択、しかと聞き届けた! 」

 

 そう丹鶴姫が宣言すると、元の身体へとなっています。


 予想していた選択。


 でも少しだけ、あともう少しだけ、生きてみたかった……

 辛うじて残された意識の中、そう思ってしまいました。


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