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第44話「語られる過去、決まる未来」

暗い闇の中


外見:紫苑寺 咲

中身:緑川 湊


なにもない部屋に入れられた人間がどれくらいの時間、耐えられるか実験した話があったのを思い出した。でも、その被検体がどれくらいで音を上げたのか、俺は覚えていない。


 俺は、どれくらい耐えられるだろうか?


 ただ、俺にはその実験と一つ違う所がある。どこにも救いのない闇に一人。ではなく、一人と一羽だ。


「なぁ、黒兎殿よ。こんな何もないところで考えろと言われても覚悟が決まるとは思えないのだが? 」

「それならさっさと覚悟を決めてくれればここから出られるぞ」


 幾度も、ここからの脱出を願ったが決して出してくれない。闇の中にいる黒兎という時点で可愛げがないのに、返答も可愛げがない。


 俺の選択が決まればいい訳なのだが、それが簡単に決まるわけない。この選択に俺の命だけでなく、咲の命までかかっている。

 俺が生きることを選べば、いままでの、何もない日常に戻ることになる。そして咲は、丹鶴姫としてこの世から存在しなくなる。

 俺が、死ぬことを選べば、咲に俺の日常を明け渡すだけで済む。


 丹鶴としての存在がどんなものなのか、丹鶴の存在がなぜあるのかが、俺には分からない。


「丹鶴はどうして、今も存在しているんだ?」


 黒兎はけだるそうに身体を起こした。大抵、寝ていることが多いやつだ。


「そんなこと、簡単だよ。丹鶴姫が死ぬ間際に願ったんだ。そこからボクも丹鶴姫もずっといる」

「それくらいは、なんとなく想像がつく。それじゃ、丹鶴はどうして死んだんだ?」


 生い立ちは調べられたが、死んだ理由までは調べられていなかった。黒兎は、普段から怠そうではあるが、質問には大抵何でも答えてくれる。


「それを聞くかい? ()()知ってしまったら、知る前には戻れない。知らなかった時の選択と知ってしまった時の選択は別ものだ」

「それでも……聞かなきゃ進まないだろ」


 黒兎がいう、その意味が俺にはまだ分からなかった。だが、俺にはその話を聞かなければならない気がしていた。


「そうかい。あんまり気の乗る話でもないし、長くなるからその小さな耳でよく聞いてくれよ」


 たしかに、兎の耳と比べれば人の耳は小さい。特に咲の耳となればなおさらだが、別にそんな嫌味を言わなくてもいい。


「丹鶴姫が死んだ、厳密にはこの世の依代をなくしたのはもう百年以上も前の話さ。それぐらいは知っているだろ?」


 そこまでは俺でも知っている。へそを曲げて話を止めてしまわないよう首肯で応じた。


「丹鶴姫はその名の通り、姫だった。民を一番に想う、それはそれはご立派な姫だったよ。だが、それがいけなかった。自分勝手に生きていた方が長生きできていたかもしれないぐらいだ。キミの好きなテンペストのプロスペロのようにね」


「なんで俺の好きな本、知ってんだよ……」


「そんなの些細な事だよ。ただ、プロスペロと丹鶴姫との違いは復讐心を持ったかどうかだ。丹鶴姫は、姫を慕っていた民に殺された。そして、姫はそれを受け入れた」


 プロスペロは、魔法の研究に没頭するあまり周りを見なかった。結果、亡き者にされそうになった。だが、魔法の力によって島で生きながらえた。それは、企てた者に復讐するためだ。

 でも、丹鶴は死を選んだらしい。


「だが、アレは運が悪かった。丹鶴姫が人ならざる者であるのは当時の人々は何も知らなかった。その御業は秘匿されていたんだ。その日、新しく人が入城する時に行う、御加護を与えるまじないをしていた。火を扱う儀式ゆえに窓を開けていた。新月の日だった」


 淡々と語る黒兎から感情は感じられない。でも、細かに語られるそれは、忘れられない出来事を語っているのだけは分かった。


「火が焚かれた明るい室内から月の光すらない外はとても見にくいものだ。それくらい経験あるだろ? そのせいで、姫に仕えていた従者は、外から覗く女中を見逃した……それから、城が攻められるのはあっという間だった。見慣れぬ儀式に人ならざるその業、姫は物の怪と烙印(らくいん)を押され、民を一番に想う姫は迫害された」


 その時の丹鶴を思うと、なにを言ったらいいのか分からなかった。ただ静寂な空間の中、俺が生唾を呑み込む音だけが聞こえた。


「そんな悲しむ必要はないんだよ。姫は殺された訳じゃない。結果はそうかもしれないけど、追い込まれた姫は己の命を引き替えに術を使った。それは、禁忌ともいえるような魔法。魂のみを土地に縛り、子孫を供物にする術だ」


「だから、その子孫である咲を必要としていると? どうして今更……」


「姫は不死身ではない。そろそろ力の限界がやってくる。そのタイミングにたまたま咲が当たってしまっただけだ。不死身だったら歴史書にも載らない小さな戦ごときで死ぬことはなかった」


 咲は、本当に運のない娘のようだ。だが……


「そ、それじゃ俺はこんなことに巻き込まれた? 」


「前にも言ったじゃないか。”主君のために主君として死ぬか” ”()()()()主君に違えても生きるか” だ。」


 確かに、前にも言われた。しかし「今度こそ」とは一体どういうことだ?

 でも、今の黒兎の話を聞いて、俺は一つの可能性に思い至っていた。


「その女中を見逃した従者の子孫が俺……? 」


「大正解! やっと自分が置かれている状況が理解できたかい? これだから人間って奴は面白い!!」



 兎跳びしながら、大喜びするそいつを見ながら、俺は全てを理解した。



 遠のく意識の中、俺は思う。


(魔法を使う丹鶴姫。あいつは、人間じゃない……)


冬休み中に書き上げたい!!

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