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第38話「カードの真実、聖地巡礼へ向かおう」

和歌山県新宮市


外見:紫苑寺 咲

中身:緑川 湊

 

 早速、図書館に調査に行ってくれたようで昼前に咲からメールが来ていた。午前中は蔵の捜索で疲れていたせいで動けず、午後になってからこのメールに気付いた。



『お体の方は大丈夫でしょうか? 自分の身体なのにこう聞くのも変ですが。昔から検査とかしっかりしていたら違った未来もあったのかなとは考えてしまいます。ところで、頼まれていた件ですが、調べて纏めてみました。』



 その後には、さすが咲と思える程、丁寧に纏められた銀王丸の記述があった。その下にまだメールの内容も続いていた。


『本を借りようと思って、カードの発行手続きをしてしまいました。勝手に手続きをして発行してしまいましたが、何か作らなかった理由でもあるんですか?』


 その最後の文に俺は心底驚いてしまった。

 俺は、読書が好きだ。映画と違って何も制限されない空想の世界を安い値段でいつでも、何度でも見られるのが魅力的だからだ。

 しかし、家から徒歩5分くらいにある区立図書館の利用カードを持っていないのは不思議に思うことだろう。

 利用したくても利用できないのだ。そう思っていた。



 理由は簡単。

 区立図書館の貸出カードを発行出来るのは、その区に在勤、在学、在住している者に限られる。


 俺は学生だから、在勤はない。そして、高校も横浜市内だ。残る在住だが、俺は渋谷区に住んではいるが、戸籍は前の家のままになっている。そのせいで区立図書館の利用者カードを作ろうとすらしていなかった。

 実に簡単な理由だが、徒歩5分にある図書館で借りることが出来ないのは遠くにあるより拷問だった。手が伸ばせば簡単に読むことはできるのに持って帰る事は許されないのだから。

 しかし、どうやら戸籍に記載されている本籍とは別で、住民票を区内に変えてさえいれば、どうやら利用者カードを作ることが出来たのかもしれない。



 つまり、カードを作れずにもやもやしていたのは、どうやら俺の長年の勘違いのせいということらしい。



 そんなことより、銀王神社の話だ。それをわざわざ咲に調べて貰ったのだからそのことを考えなければ意味が無い。

 咲が纏めてくれた内容は、丹鶴姫を意識したのか共通点についてが多かった。

 例えば、丹鶴は元々、尼さんで地主的な権威を持ち、またその後の丹鶴姫はやはり権威者だ。銀王丸は今の渋谷東当たりに領地を持つ武将だったそうだ。

 そして、面白いのが二人とも源氏に仕えていたそうだ。


 俺が丹鶴に目をつけられた理由はこれが関係しているのか?

 そんな小さな共通点だけで目をつけられた訳ではないだろう。俺にはまだもう一つ、心当たりがある。それも早い内に確認したい。

 判断を下すにはそれを確認してからでもいいだろう。

 咲に、それを確認するようお願いするメールを返信につけたした。



               ○



 俺は、既に見慣れた女子の洋服へと着替え始める。ワンピースは、特に考えずに着ても可笑しくならないので女子のファッションに疎い俺でもどうにかなる。一着でコーディネートが完成するのがありがたい。

 というかズボンが圧倒的に少ない。あっても短過ぎて履こうと言う気になれない。


(傍から見る分には眼福だけど女子はよくもまあ、あんなの履こうと思うよなぁ)


 木と木が擦られる音がする。棚を閉める音だろう。俺の手にワイシャツのような素材の重量感ある服が渡される。多分、ワンピースだ。男物の服だと、このサイズの服がないせいか初めてワンピースを持った時はその重量感に驚かされた。


 シャツワンピースの襟ボタンを外すと頭から被ればすぐ着られる。

 そして一番の問題は髪の毛だ。咲の紙は日本人形のように黒くて長い。美波が言うには、寝起きに必ずブラシで整えろ、とのことだ。

 身支度を整え、洗濯物を持たされ、反対の手を引かれ、洗面所へと連れてかれる。



               ○



「今日は神社に行きたいんだ」


 いつものごとく俺の、咲の家に来た美波と自室で、ガラスのおしゃれな机を挟んで向かいあって座る。美波は、綺麗な脚を覗かせるショートパンツスタイルだった。

 それに対する俺は、まだ寝間着のままだった。病気療養中の俺が自分の部屋にいるからそれは仕方ないことではあるが、理由はそれだけではない。

 一人で着替えない約束を一方的に美波の方から決められたからだ。だから出かける時は必ず、美波が来るのだ。


「そういえば、まだ一回も行ったことないものね」

 

 神社にある手がかりを探す必要があること、前に美波が言っていた、咲が丹鶴姫と会う権利があるなら俺にもあるんじゃないか、という話を試してみたいのもあった。

 咲の話によると、丹鶴姫は神聖な場所や縁のある場所でないと出られないような事を言っていたらしい。


 咲の家から神社までは車で小一時間くらいだ。今回も諏訪さんにお願いして新宮の市街地まで車を出して貰う必要がある。


 その前に人前に出るのだから着替えるのが筋ってもんだろう。その結果が、先程の怪しいプレイに繋がって居る。



 洗面所に連れられて、美波に咲の黒くて綺麗な髪をブラシでなでてもらう。目隠しは既に取られているので、その様子を鏡越しに拝むしかない。

 男子二人では、こんなに密着して何かをすることはないと断言できる。しかし、咲と美波、というより女子という生き物はよく同性同士でスキンシップしがちなように感じる。咲の中身が俺だと知った上でするのは見られている意識がないのだろうか。



「咲の黒い髪は努力無しにこうな訳じゃないんだよ? 毎日のお手入れが大事なんだからキミもしっかり面倒見てね」


「はいはい、分かってますよ~」


「はいは一回だって。おじいちゃんの前で言ったらすぐバレちゃうよ」



 美波と会う度に言われるので既に耳にたこだ。


 身だしなみを整え、気持ちもしっかり入れ替え、自分は女の子、紫苑寺 咲だと言い聞かせる。どこぞの令嬢よろしく、お淑やかな少女を演ずる。


「諏訪さん、おはよう」


 朝食を準備するために台所で忙しなく動いている諏訪さんの後ろ姿に声をかけた。

 諏訪さんは、神社に行くおじいちゃんを家まで迎えに毎朝来てくれるらしい。そのついでに美波を朝連れて来てくれたようだ。



「あら、咲さんおはようございます。朝ご飯食べられますか?」


「はい、お腹空きました。その、あとで神社に戻る時に街まで送って貰っても良いですか? 」


「あら、買い物? 体調がよろしいようなら良いですよ~」



 身につけているエプロンで手を拭いながら軽い口調で返答され、何も不審がられている様子はなかった。


 朝食は6人掛けのテーブルに皆で囲んで食べる。そこにはお客様である美波の姿もある。

 焼き魚と味噌汁、ご飯と漬け物という日本の朝らしい献立だ。このアニメでしか見られなそうな朝食を実際に朝から作るのは大変だと、普段から料理する俺は知っている。俺なら朝は、やってもレンジで出来るご飯に缶詰でも感動する程だろう。

 しかし、魚が秋刀魚のような魚丸々一匹でなくて、切り身で助かった。切り身なら食べるのに苦労しないし、食べ方が汚くて疑われる心配もない。こういう所で育ちの違いが浮き彫りになるのだ。


(いつかの為に魚の綺麗な食べ方も調べておこう)


 そう堅く心に誓った朝食だった。


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