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第34話「蔵の捜索、名の意味②」

和歌山県新宮市


外見:紫苑寺 咲

中身:緑川 湊

 

 一度、蔵から出て縁側に移動することにした。3人で話すような場所が蔵にはない上に、あまりにも陰気くさい。

 おじいちゃんが一声かけると、諏訪さんが三人分の煎茶をもってきてくれた。春の縁側にお茶を飲みながら老人の話に耳を傾ける女子高生二人という姿は端から見たらとても絵になるのだろうなと、思った。

 縁側に植えられた木の新緑は眩しいが、軒によって直射日光が避けられ、日本家屋は風がよく通り、涼しい。


「よし、一息ついたことだ。少し話すとするかな」


 おじいちゃんは裾についた埃を払い、座り直ると咳払いをすると大きく息を吸った。


「今からは、もう遠い昔、武士達が力を持ち出したくらいの時代だ。わしが奉仕する神社があったあたりには大変、力を持った尼さんがお寺を創建したんそうだ。その尼さんは当時、丹鶴と呼ばれていたそうだ。なぜ、その名で呼ばれるようになったかは知らないがな。しかも、当時としては珍しく、とても高齢まで生きたそうだ」



 そこで区切ると怪談をしている時に、相手が怖がっているか確認するように俺の目を覗き込んできた。そしてまた前を見据えて話し出す。本当の心をすべて見抜きそうなその目に少し気後れしてしまいそうになる。



「寺のあった時代は源氏の力がこの地まで及んでいたが、丹鶴の没後は廃れてしまったのか、資料が少ない。死後、丹鶴山と呼ばれていたらしいな。元々少し高台になっていて周りを海と川に囲まれているおかげで守りやすいのか安土桃山時代には城が建てられたそうだ。これだけは資料がまだ幾分か残っているが、その間に何があったかまでは分かっていない。だが、城があれば、あの辺は300年近く戦いの場にもなったと言える。そしてその城に住まう、姫もまた丹鶴姫と呼ばれたそうだ」


 また、話すのを一旦止めお茶をすすった。最近、話すだけでも疲れると、愚痴をこぼしすおじいちゃん。そういうおじいちゃんのシワは深く、年の功を感じさせた。


「城がなくなったのは明治時代になってからだ。明治維新が起こるまではあの場所に城があったのは確かだ。でもこの城は一回、大災害で壊れた。だが、不思議なのはこの災害に関する情報が極端に少ない。その時、この地を想いながら亡くなった人は多いはずだ。熊野の神とその丹鶴を筆頭に祀られているあの神社がわしの奉仕する神様だな」


 ここまでどこか遠くを見ているような目で語っていたおじいちゃんの顔に生気が戻ったような気がした。


「咲、実はわしは婿入りでこの家に来たのが60年くらい前だ。そして、この紫苑寺の血は女系にずっと続いている。かの姫が城を逃げ出したあの日から」


 話が終わると膝を叩き、その勢いで立ち上がるおじいちゃんはまだまだ元気そうだ。きっと長生きするのだろう。空っぽになった茶飲みを置いてどこかへ行ってしまった。


 図書館に行かなくてもおじいちゃんに聞けば大体の話を知っていたのではないだろうか。これだったら図書館には、これから行かなくて良いかもしれない。その口からまだ語られぬ過去がまだまだあるような口振りで去っていったから。


「美波はこの話どこまで知ってた?」


 咲自身はともかく、美波も知っていたのなら真新しい情報だと思っているのは俺だけになってしまうからだ。持っている情報のすり合わせがしたかった。


「ううん、初めて聞いた。城がなくなった災害と紫苑寺家が長らく続く家系だって所とか」

「逆にそれ以外は咲でも知っているということ?」

「うん、知っていると思う」


 これから調べていかないといけないことは決まった。それをどう調べるかが重要な課題になりそうだ。


「おじいちゃんは、災害の情報が少ないって言ってたけど、美波はどこで調べられると思う?」

「本人に聞いてしまうのが一番手っ取り早くない?」


もっとも確実で、もっとも可能性が低い美波の案に素直に頷く気にはなれない。


「それが簡単に出来たら苦労ないって」

「でも、咲は会話することが出来たんでしょ? だったら湊くんだってその権利があるんじゃない?」


 美波は権利があるという。


(しかし、さっきのおじいちゃんの話しぶりだと咲は丹鶴の末裔ではないか?)


 それなら俺は何らかの形で巻き込まれてしまっただけではないか。そんな部外者にも神様になった姫と話す権利があると言えるのか。


 もう一度、おじいちゃんの昔話を思い返してみる。

 寺があったが、そこの尼さんが亡くなるとその守りやすい地形から城が出来た。しかし、その城も何らかの災害で消失している。その後、そこで亡くなった人々を慰めるかのように出来たのが今の神社だ。


 一抹の既視感を覚えた。何か似たような話をどこかで聞いた気がした。ごく当たり前にあって、すり込まれてきたせいかぱっと思い出せないその何か。


 神社――――


 そうだ、俺の家の近くにある銀王神社だ。あそこも昔、お城があってその跡地に神社が出来た場所だ。

 神社の前にずっと銀王丸伝説とかいうポスターが貼ってあったから知ったんだ。

その関係しているかどうかも怪しい神社に一抹の期待をどこか持った。



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