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第18話「閉められた門、舞い降りた姫①」

3月28日(火曜日)

東京都渋谷区


外見:緑川 湊

中身:紫苑寺 咲


明後日には妹の結衣さんが帰って来ます。しかし、お父さんの時のように急に帰って来るわけではないのでちゃんと前もって心構えすることができます。 


 結衣さんとLINKで繰り返し連絡をするうちに文字から結衣さんの活発さを伺うことができます。ここは、みーちゃんのようで安心です。

しかし、帰って来るということはこれから、一人でこの状態を考える時間がなくなってしまうことを意味します。


(今のうちに、出来ることをしなきゃ……!!)


 こないだ駅の方に出た時に家の近くに図書館の看板があったのを思い出しました。

 私は何か調べ物をするときはいつも図書館でした。PCが苦手な私の為にいつもみーちゃんが一緒に付いてきてくれました。

 山から下りて、駅の近くにある図書館で集合してみーちゃんと調べ物が終わったら街の中を一緒に歩いてお買い物をよくしていました。それが遠足のようでいつもわくわくしました。


 家から出る準備をして図書館に向かうことにしました。しかし、いつもの図書館に行くような興奮はありません。財布の中を見ても図書館の利用者カードが見当たりませんでした。


(湊さんは家から200mも離れていない図書館なのに普段、利用していなかったのでしょうか?)

 部屋にはたくさんの本が置いてあったのに近くの図書館を利用していないのを不思議に思いました。

(近すぎて借りる必要が無かったのかな?)



 図書館までいつもバスか車で送ってもらっていた自分と比べるとずいぶん都会的な考え方だと思いました。


 部屋から出れば春の気持ちの良い陽気でした。マンション前にある小学校の周りに植えられた桜は、つぼみより咲いている花の方が多く、満開まで間もなくといった所です。その桜を見ながら坂を少し下がったところで脇道に入ります。


(たしか良い匂いがするハンバーガー屋さんを少しいった所に看板があったような…)


 前回、駅まで行ったときの記憶を思い出しながら歩いていればすぐにそれを見つけることが出来ました。青地の板に白い文字で「渋谷図書館」と、矢印だけが書いてあるシンプルな看板が小学校の白い外壁に取り付けられていました。

 

 その矢印が向けられているさらに細い路地に入ります。赤いレンガで舗装されていたハンバーガー屋さんがあった路地に比べて、だいぶ狭くなりました。しかし、小学校からの喧騒が聞こえ、校庭のおかげでビルや建物がないため、陽が当たっていて明るい路地です。

 そして、なぜかこの路地へと続いていた点字ブロックに従って角を曲がれば赤いレンガの建物が見えます。どうやら点字ブロックは図書館利用者のために設置されたもののようでした。


 私が住んでいる街の図書館と同じくらいのサイズですが、コンクリート造りで見た目が見るからに古いものでした。いつもの図書館と全然違う見た目に、中はどんな違いがあるのかと段々と楽しみになってきました。


(都会の図書館には一体どれくらいの所蔵があるのでしょう! 一体どんな本があるのでしょう!?)


 しかし、その高揚もすぐに覚めることになりました。なぜだかレンガの門は、黒い鉄格子で閉められています。

 B2程の紙がラミネート加工されて結束バンドで鉄格子につけられていました。


『本日、休館日』


 こうもタイミング良く休館していることがあるのかと珍しく憤慨しそうになりました。しかし、門の横に備え付けてある掲示板を見るとどうやら毎月の定休館日だったようで明日は開館しているようです。


 図書館でこのような入れ替わり現象があり得るのか、他に事例はないか、調べたかったのですが、休館では仕方がありません。また改めて来ることにします。


 ですが、一回外に出たのにまたすぐに家に戻るのでは、何かもったいない気がして先程のレンガで舗装された道に戻り、駅の方へと進むことにしました。

 前回は、家の前の道を脇道に入ること無く、大通りまで坂を下りてしまったのでここから先は未知の領域です。これは別に調べる必要はないのですが、自然と興味が湧いたのです。

 

 レンガ造りの歩道は、小学校と図書館の周りだけですぐにアスファルトの道になりました。そのまま住宅街を抜けると突然車の交通量が多い交差点にさしかかりました。


(あ、こんな所に大きな鳥居がある!)

 

 交差点の向こう側に突然大きな黒い鳥居が現れました。周りには、高層ビルが建った都会的な交差点にある鳥居が場違いに思えます。

 しかし、おじいちゃんが宮司をしている神社に昔から良く通っていたので私にとって神社という場所は落ち着ける場所でした。この大都会の中にある神社に興味を持つのは当たり前でしょう。


(そういえば鳥居の色にも何か意味があったような・・・)


 ですが、思い出す前に信号が青に変わったのでそのまま鳥居をくぐることにしました。鳥居をくぐった真っ正面に木で囲まれた神社が見えてきました。

 神社の入り口は階段を二〇段くらい上った少し高い場所にあります。階段横にある石柱には『銀王(ぎんのう)神社』と書いてあります。名前からは何の神様を祀った神社かは分かりませんでした。


(ここの昔の地名とかでしょうか?)


 階段を上ると入り口にちょっとした門と先程の鳥居より二回りくらい小さい鳥居があったのでそこで一礼します。門のせいで足下に段差があるので気をつけて入ります。

 すると階段の下からは見えなかった拝殿が、二体の狛犬によって守られているのが見えました。朱色に塗られた外観と屋根や柱に付いた金色の飾りが映えた神社です。その横にある桜もほぼ満開で周りが渋谷であることを忘れさせるくらいとても落ち着ける神社です。

 落ち着いて見渡せば、入ってすぐ左側に手水舎、右側に社務所があります。そして拝殿の右奥には一段下がったところがあり、公園があります。


 神社に来たらまず始めに、手を清めます。

 三月で桜が咲く程の気温ですが、ずっと外気にさらされた手水舎の水は冷たかったです。そのまま拝殿に進み参拝をします。神社では基本的には二礼二拍手一礼です。賽銭箱の前にもイラスト入りで参拝の仕方が貼ってありましたから確かです。


 今、私が願う事は一つです。

(元の身体に戻れてこの理解不能な事態が無事解決いたしますように!!)



続きます

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