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第15話「知っている顔、思い出す友との会話」

第13話「知らない世界、羨ましい友達」続き

3月27日(月曜日)

和歌山県新宮市


外見:紫苑寺 咲

中身:緑川 湊


見舞客が帰っても、一人の病室では変わらず、まったりとした平日の昼らしい時間が病室を満たしていた。春休みだからか、院内には見舞いに多くの子供が来ているようだ。外から遊び回る声が響いている。


 その子どもたちと違い、俺は病室でおとなしく寝ているのだから、身体が心配にもなる。このサキの病態は一体どうなっているのだろう? ベッドから全く動かないのであまり意識していなかった。だが、検査で入院しているにしては2日も3日も入院し続け、進捗がどれくらいなのかが分からない。入院一日目に大抵の検査をしてしまったのか、その後はあまり検査や問診もないので心配がさらに積もっていく。

 だが大抵、物事は考えている時に事が進むことが多い。


トントントン


 本日三回目のドアがノックされる音だ。これまで一日にそう何度もドアがノックされることはなかった。しかし、なぜだか、咲の父が来たような気がした。いつもこの時間に送り迎えに来ていたからだ。

 だが、その予想は半分正解で、半分不正解であった。



「失礼します」

「入るよ」



 前に診察してくれた主治医らしい先生と咲のお父さんが一緒に入ってきた。女子三人で先程まで女子会をしていた部屋に男性が2人入ってきて一気に違う雰囲気の部屋になってしまった。だが、今思えば中身は俺も男性だから実質、男3人である。男子会の始まりだ。

 

 と、暢気なことを考えていたが、医者も父もとてもじゃないがこれから冗談を言い合うような表情ではなかった。あれは、いつか見た本当の俺の父と同じ顔だった。



「サキ、実はな……大切な話があるんだ。落ち着いて聞いてくれ。」



 今更だが、母も父も全くなまりのない言葉遣いだな、と関係のないことを考えていた。それに、美波と咲のお母さんはどうしたんだろうか?



「母さん達は車で待っているんだ。父さんだけお医者さんから話を聞いて来たんだが、おまえには言うことにしたよ」



 俺には、もうこの後に言うことに察しがついていた。それは母さんの時と一緒だったから。昔、俺がまだ小さかった時だ。今でもまだ大人になりきれてはいないと思うが。


「咲の心臓は思ったより良くないらしい。それに、治すことも難しいみたいなんだ。」


 顔の筋肉が萎縮して泣きそうな咲のお父さんの顔が見えた。

 もう父が話せそうにないのを見て取ると医者が話を引き継いだ。その話し方は敬語ではあるが、イントネーションになまりがある。正直もう話を聞く余裕はなかった。


「詳しくは私が説明します。このような症例は見たことがなく、治療したくてもする方法が……」


                 ○ 



「今日は病院でゆっくりしてくれ。明日からは退院して自宅治療か、病院で治療するか考えておいて欲しい」


 父はそれだけを絞り出すと医者とともに部屋を出て行った。またしても一人で病室に残されてしまった。だが、すでに日差しは山に遮られ、暖かな陽は入ってこない。

 咲の身体など問題ではなく、自らの身体に戻れるかが問題だとしていたが、そうはいかないみたいだ。 早く戻れなければこの咲の身体と共に死ぬことになりそうだ。だが、ふと同じような部屋で高城と話していたことを思い出した。


(「俺は死にたいのかもしれない」)


 しかし、実際に死が目の前に現れると本当に俺は生きたくないのか考え始めてしまった。世の中には俺が知りもしない世界が広がっているのだ。少しだけわくわくしていた。誰かにこの思いをぶちまけたくなっている事に気付いたが、この状況で話せる相手は誰も居なかった。

 

 慣れない身体で考え過ぎたのかもう疲れ切っていた。話を聞くのに起こしていた上体をそのまま倒した。この身体になってから知ったのだが、横になると胸が左右に流れるのだ。それに腹筋があまりないので身体を起こすのが意外に大変だった。



 そのまま目をつぶれば眠りに就くのは簡単なことだった。


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