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第11話「家の主、答えのない問題」

3月27日(月曜日)

東京都渋谷区


外見:緑川 湊

中身:紫苑寺 咲


 昨日は渋谷という街を、たくさん歩き回ってしまいました。そして、始めてファストフードのお店でハンバーガーを食べたのですが、1000円もしないハンバーガーがあんなにおいしいとは知りませんでした。

 本当なら私が住んでいる街にない、かわいい服を売っているようなお店を見てみたかったのですが、男性の見た目であることと引っ込み思案な私にはとても敷居が高かったのです。

 ですが、始めて行く地なので、どこを歩いていても、いくら見ていても飽きることがありません。いつか、みーちゃんと一緒に買い物に来たいくらいです。 

 少しはしゃぎすぎてしまったようで、昨日は家に戻ると、そのまま眠りに就いてしまいました。



 この状況が夢だと信じたまま……


 

 しかし翌朝、目を覚ましても元の身体に戻っていることはありませんでした。この状況が夢ではなく、現実だという事が証明されたような気分です。

 そして、状況が元に戻るどころか一晩たった今、困ったことがあります。目を覚ますと家の中に誰かが居るようです。

 携帯を見ると朝の8時を少し過ぎたところで、世の中は出勤時間であることを考えると、この家に住んでいらっしゃる方でしょうか?

 部屋を出れば必ず会うことになるでしょう。どうするか迷っていると部屋の外から声をかけられました。


「ミナト起きているか?」

(男の人の声です。察するにお父さんでしょうか?)

「はい、起きています」


 母には礼儀良く育てられました。初対面の方に無礼を働いては育てて頂いた両親に面目が立ちません。しかし、ドアの向こうにいらっしゃる方の反応は予想外のものでした。


「どうした他人行儀な言い方をして。そんなに家に帰ってこない事が不満だったのか!?」


男性に大きな声で怒られたことが皆無だったので大変驚いてしまい、声が出ませんでした。


「まあ、いい。俺はもう出るから当分の生活費はテーブルに置いといた」


 お父さんと思われる男性は、玄関のドアを大きな音を立てながら出て行きました。

 恐る恐る部屋のドアを開けました。ドアを開けてすぐに玄関が見えるのですが、昨日帰って来た時と変わっている所はありませんでした。父らしい方は、帰ってきてすぐに出て行ってしまったのでしょう。


 少し、冷静になって頭が回るようになってくると様々な物が見えてきます。例えば、昨日は仰天していて気付かなかったのですが、玄関の上に付いているブレーカーの横に白い半紙を横にしたくらいの紙に黒く絵のような文字で何か書いてある霊符のようなものが貼ってありました。


 そのくらい、考えごとが冷静に出来るようになった頭で今思えば、この身体の緑川さんとお父さんは身内ではありませんか。完全に失念していました。お父さんはいったいどれくらいの期間、家を空けていたのでしょうか?

 

 

 自室から携帯だけをポケットに入れ、リビングに行くと、テーブルの上にパンと封筒が置いてありました。パンと言っても袋にパッケージされた市販のパンです。やきそばパンと書いてあります。そのような食べ物があるのは知っていましたが、見たことがありませんでした。今の今まで焼きそば味のパンだと思っていました。

 しかし、それはパンが焼きそばを挟んでいます。炭水化物に炭水化物の組み合わせは関西圏ではお好み焼きにご飯のような親しみがあります。

 こういったパンを見たことがなかったのは、山奥にある家から学校まで送り迎えが車だったせいです。そのせいで、スーパーやコンビニに同級生と行って買い食いするような機会が少なかったことが、一番の原因でしょう。


 

 目をパンから同じく茶色の封筒に向けます。さきほど、生活費と言っていたのでお金が入っていると思われます。人様の家で勝手にお金を覗いて良いのか躊躇しましたが、今では自宅です。遠慮する必要はないはずです。

 中には一ヶ月、一人で生活するには十分過ぎる金額が入っていました。きっとお父さんも息子さんのことを心配しているのをわかって欲しいのでしょう。


 しかし、家に一人で居ると色々見てしまいます。私の家は田舎ですが、父のお客さんがいらっしゃるので部屋がたくさんあります。そのせいか母一人では掃除がしきれないのでお手伝いさんと一緒に掃除をしています。掃除をしっかりするのはお客さんがたくさん来るというのもあるのでしょうが、やはり私の持病とも関係していると思います。

 そんな私の家と比べても、この部屋はとても綺麗だと思います。

 

 どなたか家の事をしっかり守っていらっしゃる方がいるのでしょうか?

 そういえば何人暮らしをなさっているのでしょう? 

 そして私はこれから一体どうしたらいいのでしょう? 

 

 様々な問題が瞬間的に脳内を駆け巡ります。非常に頭が痛い問題が「これからどうしよう?」という問題です。この一つの問題には、様々な問題が絡んでいるからです。


 これから身体はこのままなのでしょうか?

 一体私の身体はどうなってしまっているのでしょうか?

 誰かこの状況を分かってくれる方はいるのでしょうか?

 入院した私の身体はどの程度悪いのでしょうか?


 しかし必死に頭を悩ましても答えを持っていない問題はいくら考えてもどうにもならないから諦めろ、という話を現代文の山下先生がおっしゃっていました。なので、私は考えるのを一先ずやめてしまいました。

 目の前にある、焼きそばパンが私の胃袋を刺激するのです。気付けば昨日食べたハンバーガーから何も食べていないのです。キッチンに向かいます。朝食を頂く時は、いつも緑茶と頂くのが日課でした。


(緑茶がないし、紅茶にしてみようかな?)


 今日だけはなんだか特別な気がしたのです。


第12話「小さな冒険、小さな挑戦」へ続く

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