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《スプラッシュ・パラソル》
筺体のモニター画面とモニターをそのまま表示するセンターモニターには、ここ最近のプレイでは出てきていない楽曲名に驚いていた。
レベル2の楽曲をランダムに選曲した訳でなく――村正マサムネが選曲したのが、この曲だったのである。
楽曲が始まる前には、画面のセッティングが行われ――読み込みの間にアバターが筺体のモニターに表示された。
「右側にMVが出て、中央でプレイ画面は分かるが――」
ギャラリーの一人は、画面構成にツッコミを入れようとしていた。ムービーを見ながらゲームをプレイできる物なのか――と。
「しかも、中央画面にはアバターが表示されて操作するようなタイプにも見える。これはさすがに構成ミスだろうな」
「原理としては中央の画面がレースゲームの操作画面を表示しているのであれば、MVはカーナビの様なものでは?」
「カーナビだったら、もっと違うだろう。例えるなら、ナビではなくテレビを見ている様な物だ」
「両方をチェックしながらプレイするなんて――信じられない」
「どういう事だ?」
ギャラリーやモニターでプレイの様子を見ているプレイヤーからは、このような意見が飛ぶ。
MVはオプションでオフにする事が出来るが――基本はMVをオフには出来ない機種もある。
中にはMVが存在しない機種もあるし、特にMVを重要視していない機種も存在しているだろう。
リズムゲームは主に演奏する部分と楽曲に比重を置いていると言ってもいい。
ゲームのジャンルによっては、楽曲面をメインにしていないジャンルもあるのだが――。
ムラマサのプレイしている楽曲は、どちらかと言うと電波系のジャンルであり――硬派なゲームには不向きと言われている。
しかし、リズムゲームVSは既にアバターのカスタマイズによっては硬派とは言い難いような萌えを重視したようなものもあって、今更な気配はするだろう。
(敢えて彼女が、この曲を選んだ理由は――)
南雲ヒカリは順番が回るまでは彼女のプレイをチェックするつもりだったが――見た目は難なくプレイ出来ているように見えた。
これは手の様子等が表示されないセンターモニターで視聴すると、何となく上手く見えてしまう錯覚があるのかもしれない。
格闘ゲームであれば、操作テクニックも重要だが――それ以上に要求されるのは連携技や一種のパターンと言える物だろう。
(憶測で考えるのはやめよう。どちらにしても――レベル2の譜面を選んだ以上は、まだ初心者の領域に近いのだから)
南雲は発行された整理券の番号をチェックしつつ、彼女がプレイする様子を見ている。
しかし、しばらくするとショートメッセージが表示され――出番である事が知らされた。
「君たちのステージ、見せてもらうよ」
センターモニターのプレイしている様子をチェックしていたのは、プレイヤーだけではない。
『オケアノス・ワン』のオーナーでもある背広の男性も、プレイに興味があるようだ。
ただし、彼の場合はマナーの悪いプレイヤーに対して注意をする方だが――。
南雲の筺体は3番台――まさかの新台入荷だった。昨日までは2台だったような気配なので、これは予想外と言えるが――筺体の位置は2台とは微妙に違っている。
筺体の位置は、さりげなくボーリング受付の付近であり、近くにはキャラクター物のアクションゲーム、太鼓タイプの別リズムゲーム、更にはハンティングゲームが4台横並び――と言う状態だ。
音量と言う部分では、他のリズムゲームと爆音で聞こえなくなりそうな現象はないだろう。太鼓の方はボリュームも絞られているだろうし。
(問題は――いわゆる晒し台に近いのがネックか)
エントリー動作をしつつ、南雲はふと周囲の様子が気になっていた。
ある意味で晒し台は集中力が途切れそうな配置にも近いだろう。機種によっては、晒し台が不可避な大きさのリズムゲームもあるのだが――。
この台の配置になったのには、別の理由も存在するようだ。時間帯によって入場が制限されるエリアの外にあり、ある意味で24時間稼働している様な仕様にもなっているらしい。
しかし、閉店時間になれば筺体の電源は自動的に切れるので――24時間耐久プレイは出来ないようだ。営業時間は翌日の午前4時までと設定されている。
「晒し台は関係ない。プレイ出来れば――」
南雲のプレイヤーエントリーが完了し、画面に表示されたプレイヤーネームを確認した瞬間――ギャラリーは心の中で叫んだのは言うまでもない。
さすがにリアルで叫ぶと、集まっている人数的にも迷惑と判断されるのは間違いない。一歩間違えれば台の撤去も避けられないだろうか。
《PLAYERNAME:デンドロビウム》
プレイヤーネームはひらがな、カタカナ、アルファベットが使用可能だが入力文字数にも制限がある。
アルファベットにしなかったのは――苦肉の策かもしれない。そのネームを見たユーザーは衝撃を受けた。
「彼女が、デンドロビウムか――」
オーナーも彼女の存在は衝撃を受けている。
実際、彼女は複数のリズムゲームでハイスコアを叩き出しており――ある意味でも歴戦のランカーと言えるかもしれない。