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様々なリズムゲームの機種を見ていく内に、どれが一番プレイしやすいのか――目的を見失っている村正マサムネの姿がそこにはあった。
『オケアノス・ワン』の2階に設置されているだけでも、10種類はあるかもしれない。彼女も困惑するのは無理もないだろう。
大抵の機種が1プレイ100円で設置されているが、中には100円2クレジットと言うサービス機種もある。
事実上の50円でプレイ出来るという意味ではお買い得に見えるが、リズムゲームでは罠である事が多い。
その理由には、格闘ゲーム等のようにすぐに終了するケースが少ない事にある。
格闘ゲームの場合は乱入されて敗北、初心者狩りに遭遇する等のケースで100円があっという間に飲まれてしまうケースもあるだろう。
しかし、リズムゲームの場合はそう言った事が少ない。昔の機種では何もさせてもらえずにゲームオーバーと言う事もあったが――近年の機種では調整されているようだ。
先ほどとは別の機種――リズムゲームVSとは1機種程離れた位置に置かれていたのは、ギター型のコントローラで演奏をしていくタイプのリズムゲームだ。
こちらはドラム型の機種とワンセットとなっており、セッションプレーが出来るのも特徴である。
そこで無言のままにプレイしていたのは、あの時の女性プレイヤーだった。
ゲーム画面には5つのラインがあり、下から上にノーツが流れてくるタイプらしい。オプションでリズムゲームVSのように上から下に流れる様にも出来るようだが。
ドラムの場合は、ラインが3個増えて8ラインである。フットペダルやドラムの数を考えると――リアルなのは納得するが、操作が複雑にならないか――ムラマサは無言で筺体の方を見ていた。
プレイしている曲には聞き覚えがないので、おそらくはオリジナル楽曲――なのかもしれない。それに、ギャラリーが付いていないのを考えると過疎状態と言う可能性も否定できないだろう。
ドラムの方も別のプレイヤーがプレイしているが、楽曲はヴィジュアル系の版権曲と呼ばれるカテゴリーであり――セッションをしている様な事はないようだ。
向こうのプレイスタイルを踏まえると、彼女のプレイは明らかに違う物を感じ取れる。まるで、自分のゾーンを生み出して周囲に影響を与えているかのような――。
プレイが終わったタイミングで声をかけようとも思ったが、まだ2曲目が終わった段階であり――まだプレイが残っている。
下手に声をかけて集中をとぎらせてしまうのもアレなので、敢えて声をかけるのを止めた。自分も同じ事をされた場合――集中が切れるのは確実だから。
(しかし、コントローラや画面も変わるようなジャンルで――複数機種を掛け持ちするなんて)
ムラマサは、自分では考えられないようなプレイを彼女が披露している事に驚きを感じている。
格闘ゲームやFPSであれば、基本動作やコマンド等を覚えていれば、他の同ジャンルゲームでも応用は効くだろう。
しかし、リズムゲームは一筋縄ではいかない。コントローラが変われば――その動作を覚えるのに時間がかかるからである。
例え1作品の動作を覚えても他作品ではコントローラも変わってしまうので、応用が効かない可能性も――。
(どう考えたって、同一人物とは思えないような――)
歴戦のリズムゲーマーには常識が通用しない。ゲームメーカー主催の大会で優勝したトップランカーは、あくまでも1機種でのトップである。
ムラマサの目の前にいたのは、最低でも2機種はかけ持ちをしているゲーマーなのは間違いないだろう。
(どうやら、向こうは終わったみたいね――)
先にプレイが終了したのは、ドラムの方だった。
3曲プレイした割には――と考えたが、選曲に時間をかけていなかった分だけ速かったようである。
「どうするべきか――」
ムラマサはドラムの方をプレイしようとも考えたのだが、他のプレイヤーがドラムセットの前に置かれている椅子に座った訳ではないのに――躊躇した。
このゲームはプレイするべきではない――と無意識に思ったのかは不明である。それでも、何故か椅子に座ってスティックを手にして、プレイしようと言う気力は湧かなかった。
彼女のプレイを見てプレッシャーに負けたのか? それとも、先ほどのプレイヤーよりも下手なプレイを見せて無様に玉砕したくないのか? どちらにしても、そこで足止めされるのは――何かが違う。
またもや声をかけるタイミングを失ってしまった。彼女の跡を付いていくのもストーカーと思われかねないし、逆にネットで炎上のネタにされかねないだろう。
その状況でボーリング専用の受付ロビーの方を見ると、一部のプレイヤーが何かを手に持っていた。あれがリズムゲームVSで使用するタブレットかもしれない。
「すみません、あのタブレットは――」
「ありますよ。レンタルの場合は1時間300円になりますが」
どうやら貸し出しには別料金がかかるようだ。買い切りにするにも情報不足なので、別の質問をする事にする。
「これは、リズムゲームVS専用ですか?」
「ここでは専用になってしまいますね。他の対応機種を扱っているゲーセンなら――」
含みがあり過ぎる女性スタッフの一言を聞き、何処で手に入るかも聞こうとしたが、周囲を見る限りでは所有しているプレイヤーは少ない。
おそらく、あの端末を持ち歩いてゲーセン遠征をしているプレイヤーは少ないのだろう――ムラマサは別の意味でも憶測で動こうとしていた。
「レンタル以外の入手方法ってあるのですか?」
「一応ありますよ。1階でアンテナショップが併設されていますので、そこで端末を買う事は出来ます」
まさかの回答が飛び出したのである。あの端末は普通に買えるのだ。
「他のゲームで言う所のICカードの役割を持っていますので、お試しでプレイする場合以外では購入が多いですね」
誘惑に負けそう――この一言は、ある意味でもムラマサにとって止めの一言となる。
継続プレイをする訳でもないので――まずはお試し感覚でタブレットのレンタルをする事になった。
一応、タブレットに入っているデータはお試しなのでセーブされない事、1回分のプレイは端末のレンタル費用に含まれている事は説明を受ける。
(後は――)
順番待ちは相変わらずなので、先ほどのリズムゲームVS用のセンターモニターへ向かい、そこで整理券を受け取る事にした。
《整理券を発行しました》
モニター近くにあるタブレットのタッチスペースに近づけると、自動的に整理券は発行される。その番号は――。
【整理番号:10】
10人待ち――と単純にムラマサは番号を見て思ったが、これは発行された数の合計であり――人数とイコールしない。
待機人数はモニターにも上部のテロップ用スペースに一定間隔で表示されるようだ。現在は、2人とある。