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《アバターシステムに関しては、運営側の見解の相違で凍結をしておりましたが、無事に公開出来る運びとなりました》
《今回の一件に関してご心配をおかけしました事、この場を借りてお詫び申し上げます》
公式ホームページにはリズムゲームVSのアバターシステムに関するお知らせが別リンク扱いで公開されている。
別リンクと言うのは、そのページがトップページに公開され続ける事も――と言う事らしい。
内容に関しては簡略的に表現すれば――。
《ネット上の炎上目的とした虚偽報告に運営側が真偽を確認せず、凍結ありきで動いたために担当がチェックをする前にシステム凍結を強行した》
ここで言う担当とは真田ソラの事である。彼女としては、明らかに偽の報告だと言う事は認識していたような気配も――。
そして、一連の炎上で謝罪を行い――大炎上やSNSテロが起きるような事態は回避したのである。
――これが、アバターシステムに関する凍結事件の全貌と言われている物だ。これ以上の詳細はゲーム運営に支障をきたす為、敢えて言及しない。
3月26日、アバターを調整していた南雲ヒカリが『オケアノス・ワン』草加店へ姿を見せた。
昨日は自宅でアバターのカスタマイズを行っていたり、他にも事情があって行けずじまいだったようである。
(ここまでカスタマイズ幅が変化していたとは――)
公式ホームページを見て驚いたのは、アバターカスタマイズの変化だった。
今までは装備のカスタマイズがメインでコスチュームで変化する要素は外見とゲージの増減幅程度である。
1ミスでゲージの減少幅が減ると言う事は、演奏失敗になる確率が減ることを意味しており――重要な要素なのは間違いない。
しかし、今回のアバターシステム変更でカスタマイズによってスキルが追加されたのだ。
スキルの一例では、一定回数のミスでもゲージが減少しない、スコアの倍率変更、判定緩和、コンボの倍率変動――と言った物がある。
リズムゲームにスキルと言う要素を持ち込むのもチートではないのか――という議論もあるかもしれないが、これも一種の救済処置と判断するプレイヤーもいた。
スコアトライアルにはノースキルと言う上級者向けもあるので、そこで差別化すると言う事だろう。
そうした事情もあって、収録曲が少ないという指摘が出ている可能性も――あり得るのかもしれない。
「アバターシステムが解禁されたとしても、今の私には――」
やはりというか、彼女のプレイはアバターシステム解除前とは変りがない。
周囲のギャラリーも南雲ことデンドロビウムのプレイには驚くばかりである。
テンプレなリアクションしか出来ないのは、今に始まった事ではないのだが――。
「やはり、デンドロビウムのプレイは格が違う」
「トップランカーは彼女で――」
「ソレは分からないだろう。彼女の上には、ビスマルクもいる」
「それもそうだな。デンドロビウムは未プレイ期間も少しあった――」
「しかし、それをあっさりと縮めてしまいそうなのが彼女の怖い所か」
プレイをセンターモニターで見ていたギャラリーからも、この反応である。
デンドロビウムはログインしたのが数日前――アバター解禁後のプレイは今回が初ではない一方で、他プレイヤーとのスコア差は確実に出ていた。
格闘ゲーマーでも数日プレイしないと感覚が鈍るとも言われているが、リズムゲームの場合は相当な機種でもない限り――それを取り戻すには相当なプレイが必要とも言われている。
しかし、デンドロビウムの場合は数日程度のリハビリプレイだけで鈍っていたリズム感覚を取り戻していた。まるで、錆止めスプレーをひと吹き――と言うレベルである。
その様子を遠方で見学していたのは、村正マサムネである。
彼女も一時期は別ゲームをプレイしていたが、デンドロビウム同様にあっさりと感覚を取り戻していた。
ムラマサの場合はデンドロビウムとは違い、プレイ歴が浅い事も逆に影響しているのだろう。
デンドロビウムとは違う方法で感覚を取り戻しているのだが、その方法は単純なもの――。
それは、別のリズムゲームを気分転換でプレイすることだ。デンドロビウムとは違い、彼女はリズムゲームが苦手としている。
そうした事もあってリズムゲームVSではスコアが伸びない現実もあった。それを何とかする為に別のリズムゲームに触れる機会もあったのである。
それが――彼女にとってはいい薬となっていた。
「この方法って、リズムゲーマーにとっては――」
ムラマサは今回の方法に思う部分がある。下手をすれば、沼にはまる可能性もあったからだ。
どのジャンルでも沼にはまる事は――自分を見失う可能性を意味している。だからこそ――特定ジャンルに強く肩入れする事をムラマサは避けていたのだろう。




