第6話「告げられた真実」
3月20日、天候はあいにくの雨だが――天気が雨だとしてもリズムゲームVSをプレイする価値と言う物があった。
それは唐突に発表された予想外のサプライズである。その内容は――。
《お待たせいたしました。一連のアバターシステムに関して問題なしと確認が取れたので、再実装をいたしました》
リズムゲームVSの最大の特徴とも言われていたアバターシステムの再実装だった。
アバターを使用しなくても通常プレイに支障はない。実際、アバターありとアバターなしでスコアトライアルが分離しているのもその証拠だ。
その一方でアバターシステムが再実装された事はアバターなしでプレイしていたプレイヤーには痛いニュースとなる。
リズムゲームVSでアバターなしが基本と考えているプレイヤーは、高い割合でアバターが一時的に使用お不能になっていたあのタイミングでプレイしたのだろう。
ウィキ等ではアバターシステムの解説が削られていた訳ではないので、慎重に調べれば分かる事である。
【アバター? VR系ではいくつか見覚えがあるが――】
【リズムゲームVSってアバターあったのか?】
【そっちの方が初耳だ】
【元々がキッズ系のリズムゲームをモチーフにしている以上、アバターは重要だろう。ギミックは別として】
【さすがにカードを使用したコーデはないですよね】
【そっちはないが、アーマー等は用意されているらしいな】
つぶやきサイト上でも、アバターは初耳だったと言う無知なプレイヤーも出ている。
それが釣りかどうかは別として――。
「釣りだと思ったら、本当だった」
「これはアバター凍結で離れたプレイヤーも戻ってきそうだな」
「凍結されたのは一カ月もなかったから、短期間だが――長いと思う人はいそうだ」
センターモニターで再実装を知ったプレイヤーは、過去に離れたプレイヤーが戻ってくる事を期待していた。
デンドロビウムの様なプレイヤーは残っていたが、強豪プレイヤーの何人かはアバターシステム目当てでプレイしていた関係もあり、離れていたの事実である。
結局、この日は有名プレイヤーが草加店に集まる事はなかった。雨と言うのも理由かもしれないが――。
「有名プレイヤーばかりが集まっても――」
他の筺体の様子を見る為、タチバナも周囲を見回すのだが―ー。
格闘ゲームの一角は回しプレイが多かった気配である。この辺りはリズムゲームとは異なるのだろうか?
「こちらとしては、特定プレイヤーだけが楽しむよりも様々なプレイヤーが楽しむ方が――理想なのだが」
店としては儲けが重要かもしれないが、タチバナはプレイヤー環境等も重要視している。
単純な利益を求めるよりは、ユーザー視線を重視しているのが――オケアノス・ワンの戦略なのだ。
3月21日、アバター再実装の翌日――この日は晴天であり、自転車で来店するプレイヤーも昨日よりは多い。
本来であればパチンコ店に駐車するのは禁止されているが、相乗りして片方はパチンコ、もう片方はオケアノス・ワンと言うプレイヤーもいるだろうか。
それ位に駐車場が満車となっており、自転車や公共交通機関を使用するプレイヤーも多い。
【草加店は満車らしい】
【他の店舗へ流れるプレイヤーがいそうな気配もするな】
【しかし、電車やバスで来店するプレイヤーもいるようだ】
【入場制限が出ないのが嘘みたいだ――】
【メダルゲーム目当て以外のプレイヤーは他のゲーセンへ流れている話も聞く】
【格ゲーだったら、もっと別の店舗へ行けば有名プレイヤーもいるだろうな】
ネット上では、様々なコメントが飛び交う。
「なるほど――そういう事情があるのか」
入口の自動ドアを前にして入店待機をしている人物が一人いた。
視線は手に持ったタブレット端末に向けられているが、入店時に邪魔になるような位置を占拠している訳ではない。
その人物は――賢者のローブを着用しており、この状況では周囲の入店客と服装が浮く様子も分かる。
彼女の名はカトレア――別の名前もあるのだが、ここで触れる必要性はないだろう。
彼女が店内へ入る前、午前11時頃――やはりというか、ユニコーンが姿を見せていた、
おそらく、駐車場を満車にした原因。彼女自身は告知も何もしていないのだが、一部のネットユーザーが拡散したらしい。
その目的は――ネット炎上なのかもしれないが、拡散した人物のシナリオ通りにならないのが――この店舗と言うよりも、系列店舗である。
ネット炎上対策は万全と言う位に鉄壁の要塞となっており、ちょっとやそっとでは炎上しない。
実際、全店舗禁煙を宣言し、炎上すると思ったら炎上しなかった一件は伝説だ。それ以外にも、この手の都市伝説には事欠かないだろう。
「炎上勢力のもくろみは外れた。しかし、それであっさりと諦める勢力であれば、ネット上でSNSテロを引き起こすとまでは言われないだろうな」
他のバーチャルゲーマーもSNSテロを引き起こすまとめサイト信者――いわゆるフェイクニュースを鵜呑みにして情報を拡散し、SNSテロへ無自覚で加担する――。
別の人物がこうした勢力の根絶を訴えた事があったのだが――ネット上で大炎上した結果、失踪したと言う話も存在していた。
(そう言えば、何処かで見覚えのあるような人物を入り口で――)
ユニコーンは入り口で何かを待っているようなカトレアを発見していた。
さすがに声をかけるのはやめたのだが――今を思えば、情報収集の為にも接触した方がよかったのかもしれない。