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「そうは言うが――我々にも責任と言う物がある。そこは理解して欲しい」
アミューズメント施設『オケアノス・ワン』のオーナーは、バーチャルゲーマーの村正マサムネに頭を下げてお詫びをする。
その理由は、パパラッチやネット炎上勢力まがいの行動を起こした男性客が行った盗撮行為にあった。
基本的にARゲームを扱っている施設では通常のスマホはジャミングで使用不可になっているのだが、彼が使用していたのはガワがスマホなのは確かであるが――実際には違う物である。
これだけ高度な――と言うよりもチートまがいのガジェットが流通していた事実にも驚くしかない。
やはり、こうしたチートを根絶する事がゲーム業界にとっても重要な事なのだろうか?
「――さて、どうした物か」
ムラマサは腕組みをしながら、悩んでいるようでもあるが――まさかのチートガジェットが使われていた事実に動揺を隠しきれない。
彼女としても、今回の行為に関して責任を感じている。ファンの民度低下が色々とネット上で叩かれる原因となり、もはや大手芸能事務所以外は排除されて当然な流れもあった。
そこまでの空気になっていたのは過去の時代であり、今は――そこまで特定芸能事務所ばかりが優遇される事はない。
そう言った手法が海外で大炎上し、芸能事務所側が海外撤退を宣言したからである。
「とりあえず、今回の件は――お互いさまと言う事にしましょう」
ムラマサの提案もあり、オーナーもそれを了承する。結局は、お互いの意見を尊重しつつ譲歩した結果なのかもしれないが。
系列店側でもルールを厳密に守るよう注意喚起をする事で、一応の決着が図られた形だろう。
(どちらにしても、あのチートガジェットは放置できないけど――専門家に任せた方がよさそうね)
ムラマサとしてもチートガジェットの一件は放置できない。
純粋にゲームを楽しめなくなった環境を生み出した元凶が、こうしたチートを使ってのプレイであるとネット上でも言及されている。
しかし、単純にチートばかりを叩くのは――何か違うとも考えていた。それを手にして使用する方が悪いとも言えるのだが。
そんな一連のやり取りをしている間にも、ムラマサは先ほどのプレイヤーを見失っていた。
リズムゲームVSでコンプコンボを達成できるプレイヤーなんて一握りしかいない。しかも、彼女がコンボを達成した難易度は――。
「おいおい、難易度のレベルを見忘れていたが――」
「ソレは俺も思った。難易度5辺りまでならば、熟練プレイヤーでもコンプコンボは出来るだろう」
「あの機種だとフルコンボは出来ても、エクセレントクラスは放置するのが常識――粘着をして調子を崩す方が逆に危険だと聞く」
「上級難易度しかプレイしないようなプレイヤーと違って、彼女は低難易度も重視していた。まさか――?」
センターモニターでは過去の記録をさかのぼって、ハイスコア達成者をチェックできる。
そこから本日のプレイ履歴からさかのぼった結果、彼女がコンプコンボを叩き出した難易度が判明した。
【レベル8】
周囲のギャラリーの声を聞き、ムラマサはセンターモニターの場所まで向かうのだが――そこで目撃したのは衝撃の事実だった。
まさか、上級難易度に近いと言われるレベル8譜面をコンプコンボでクリアする光景を見逃してしまうとは――そこに関しては悔しい物がある。
それだけの実力者であれば、直接会って話をしたかった―ーとも思っていた。
リズムゲームVSのゲーム画面は、7つの縦ラインからノーツと呼ばれる物が上から下に向かって流れてくる。
流れてくるノーツをタイミングよく捌く事で、流れてくるノーツの色が変化し、黄、青、黒でスコアが変化していく。
大抵のリズムゲームが良判定と失敗判定、その中間の普通判定でスコア計算する機種が多く、判定が良と失敗だけは少なくなっていた。
これも時代の流れなのかもしれないが――。
「まさか、レベル8を――あのカスタマイズで突破するのも初めて見た」
「そう言えば、そうだな。大抵は中距離か遠距離系、それで判定を有利にしているプレイヤーが多いのに」
「近距離はこのゲームだと一番厳しい判定だ。ゲームによってはハード判定や超高速で動くマーカーにも匹敵すると言う――」
周囲の声を聞き、ムラマサは耳を疑う。中距離、遠距離、近距離という単語を聞き――彼女はFPSやTPSを発想した。
知っているような単語が出てくるのであれば、このゲームはプレイできそうだ――そうムラマサは考えている。
「このゲームって、ジャンルは何かしら?」
すぐにでもプレイしたい気持ちが沸いてきたムラマサは、男性プレイヤーの一人にこのゲームのジャンルを尋ねたのである。
その答えは――彼女が凍りつくような反応になるのも当然なジャンルだった。
「リズムゲーム――ネット上では音楽ゲームとも言われているジャンルだ」
彼の発言を聞き、もう一度ジャンルを尋ねようとしたのだが――大事な事なので二回言いました的なオチも見えている。
まずは――リズムゲームVSは混雑しているので、周囲を見回して他の類似ゲームで体感する事にした。
『オケアノス・ワン』ではリズムゲームを豊富に扱っている店舗もあり、草加にあるこの店舗もリズムゲームでは草加市内で最大に近い。
ギター、ドラム、太鼓――と言った実在する楽器をベースにした機種もあれば、ボタンをタイミング良く叩く物、画面をタッチするタイプ――色々とあった。
悩んでも仕方がないので、待ちプレイヤーがいない機種をプレイする方向にした。待機列に並ぶだけでも時間の無駄ではないが、より多くの機種をプレイしたい事情もある。
本来の目的は、リズムゲームではなくて別のゲームなのだが――ムラマサは、すっかり目的を見失っていた。