第5話「インターネットランキング」
エレベーターの扉が開いたと同時に、ユニコーンには盛り上がっている一角がリズムゲームVSなのは理解出来た。
ただし、初見プレイヤーは別のリズムゲームで盛り上がっていると勘違いしている。
(リズムゲーム――VS――?)
センターモニターを見たユニコーンは、映像を見て疑問を持ち――左上のアイコンに視線を向ける。
アイコンは生中継を示す地球にリングが回転しているアイコンと、アンテナが三本立っているのでリアルタイム配信だ。
ユニコーンが見ている映像を別の映像と勘違いしたのには理由がある。それは、あるべき物が表示されていないからだろう。
プレイヤーのオプション設定で変更できるとはいえ、アバターオフはアバターオンとは別スコア扱いとなる。
それを踏まえると、スコアランキングで上位を狙うプレイヤーでもない限り、両方をプレイするメリットはない。
もちろん、アバターありとアバターなしだけを集計するランキングもあるが――総合は両方をプレイする必要があるのだ。
(生中継映像である以上――あのモニターが別のリズムゲームを配信しているとは思えないし)
センターモニターは他のARゲームでも使用されているタイプだが、ここに設置されている物はリズムゲームVS専用である。
その為、それ以外の映像が出力される事は――生中継映像では、まずないだろう。中継しないを設定しない限りは――自動的に中継するが設定されていた為。
「アレはもしかして――」
「嘘だろ?」
「バーチャルゲーマーのユニコーンが、どうして?」
ユニコーンの出現は、周囲を動揺させるほどの物だった。
肩掛けコートにメイド服と言う姿もそうだが――外見のほとんどは動画に出ている時と変わらない。違うのは、アバターシステムの事情的な意味での顔位なものだ。
視線がユニコーンに向けられているプレイヤーは一握りだったが、ある意味でインパクトはあったようである。
(どうせ、この連中は――)
視線を移動させ、モニターとは別に筺体のプレイヤーに視線を向けるのだが――そこにいたプレイヤーには若干の見覚えがあった。
ニワカ連中ばかりが一瞬の盛り上がりにつられて集まっただけ――とも考えていただけに、予想外の展開でもある。
ユニコーンが目撃していた人物――先ほどまでプレイしていたのは、村正マサムネだったのである。
若干の見覚えがあったのは、おそらく――同じバーチャルゲーマーだと思った為だろう。ムラマサと言えば、そこそこ有名なプレイヤーだという認識もあったからだ。
似たようなコスチュームに見えたのは、アバターシステム的な事情もあるかもしれない。
しかし、彼女の場合はスク水にベレー帽と言った部分で差別化をしているのに加え――あの中二病ともとれるであろう口調や性格付けだ。
自分と比べれば――はるかに性格付けには成功している可能性は高いだろう。他にもバーチャルゲーマーはいるのだが、大体がアプリの初期設定に少し手を加えただけで配信しているケースが大半――。
ソレが無数に出ている関係もあって、まだまだバーチャルゲーマーは発展途上なのだろう。ユニコーンもその辺りは自覚している。
そろそろ、カリスマ的な人気を持ったプレイヤーの出現が待たれるだろう。
イースポーツ化でバーチャルゲーマー同士の対戦イベントと言った物も検討されているが、そこへつなげる為にも――。
(インターネットランキングも解禁されている以上は、そこで上位を――)
ユニコーンがスマホを片手にランキングを確認しようとした時に、ようやく気付く事があった。
それは――ある人物からメッセージが届いていたことである。
「まさか――」
スマホの画面を見ると、そこにはアルタイルと言う人物からのメッセージが届いている。
【間もなく作戦を開始する。スケジュールを早める事になったが、これもやむ得ないだろう】
作戦とは既にユニコーンに内容が伝えられているが、それを前倒しにする理由は全く聞かされていない。
リアルテロやSNSテロと言った物ではないので、そこまで不安になるような事ではないのだが――。
(このタイミングでこれを仕掛けるのか――ニュースは既に――)
ユニコーンが懸念しているのは、一部勢力が芸能事務所を炎上させる可能性があることだ。
週刊誌がまとめサイトと芸能事務所がつながっているという趣旨の情報を掴んだという情報もある。
ただし、その情報のソースは別まとめサイトなので信用している訳ではないのだが。
午後2時、その作戦は決行された。どのような作戦だったのかはニュースでも語られず、まとめサイトでも把握不能の為――詳細は分からない。
しかし、今回の作戦でアルタイルと名乗る人物は――芸能事務所と悪質なまとめサイトが草加市及び特定エリアへ介入できないようにした。
何故――そこまでやる必要性があったのか? ネット炎上のメカニズムを知った上で、アルタイルは密かに考えていたのかもしれない。
「コンテンツ流通に革命を起こせない? だからテンプレに頼ると言うのは――二流のやりかたよ」
彼女は谷塚駅近くのARゲーム施設から出てきた。その視線は、ながらスマホと言う訳ではなく――下を向いていない。
施設内で何かを行った訳ではなく、単純な話――あるニュースを出入り口付近のモニターに表示されたテロップで知ったのである。
彼女は一体、何をしようとしたのか? そして、何を目指そうとしていたのか? 彼女がテンプレ依存に過敏だったのはどういう事か?
周囲のギャラリーは彼女を意図的にスルーしているように思えた。彼女もバーチャルゲーマーと認識しているのかもしれない。
(彼女もバーチャルゲーマーか?)
(あの軍服っぽいゲーマーならば見覚えがある)
(まさか?)
(しかし、人数が多すぎて特定できない。どういう事だ)
周囲も正体を探ろうとスマホで検索をしたり、バーチャルゲーマーの動画を探すが――情報は一切なかった。
つまり、彼女はバーチャルゲーマーではないと言う事を意味している。
(我々はテンプレに依存し過ぎて――何かを見失っている)
入り口で立ち止まったアルタイルも、周囲を見回し始め――あるセンターモニターに表示された人物に注目し始め――。
(何処で、我々はユーザーの求めている物を間違えたのか)
画面に映し出されていたのは、バーチャルゲーマーのムラマサだった。
バーチャルゲーマーでは一番人気と言う訳ではないが、そこそこのカリスマを持ちつつある有力人物でもある。
(特定芸能事務所の宣伝や炎上勢力の承認欲求を拡散する場でもない。ましてや夢小説勢の玩具でもない――)
(だからこそ、そうした概念は全て排除して――仕切り直すべきなのだ)
アルタイルの目的、それはリズムゲームVSの仕切り直し――いわゆるリセットでもあった。
本来のキッズユーザーが求めるリズムゲームを目指し、アルタイルは次のステージへと進む。