第4話「ガーベラの出現」
3月7日、その日はリズムゲームVSにとっても大きな動きを見せた日でもある。
日本全国でアミューズメント施設を展開する『オケアノス・ワン』で、全店舗にリズムゲームVSが設置されたのも理由の一つかもしれない。
これによって、来店客が増えたのもネット上で言及されているが――。
「スコアランキングに変化が――?」
「プレイヤーが増えている話は聞いていたが、ここまでとは」
「やはり、ムラマサの影響が高いのか?」
「誰かの影響を受けた系はすぐに冷めやすいだろう。ソレとは別に何か大きな理由があるのかもしれない」
「1週間で変化があるとも考えにくい。一度は止めたプレイヤーが戻って来たのかも」
モニターを見ている
プレイヤーたちは、ここ数日でハイスコアの塗り替えが激しい事に驚きを感じている。
ハイスコアは15分ごとの更新なのだが――それでも次に表示されるハイスコアは別のプレイヤーと言うパターンも多い。
(まさか、全店舗が導入するとは――想定外だな)
この様子を遠目で見ていたのは、草加店オーナーことタチバナだった。
彼は一定のアドバイスはしたのだが――まさか、ここまでの事を他の店舗も行うとは――。
ハイスコアの記録された店舗名を見ると、その8割が『オケアノス・ワン』の系列店舗だった事も今回の一件を物語る。
『オケアノス・ワン』以外では、有名な系列店ゲーセンが1割弱、あとは秋葉原や中心部のゲーセンが多い。
その中でもスーパーが出てきたりすると、歓声が沸く事も稀にあるようだ。
(しかし、それでも設置店舗は増えているのは事実――何らかの対策は必要か)
タチバナはふと思う。他のライバル支店が儲かるのは悪くないだろう。
しかし、逆にユーザーの奪い合いみたいな状況になるのだけは――避けたい気持ちがある。
リズムゲームが集中しているエリアは2階であるのだが、そこから若干離れたエリアには他のジャンルのゲームも設置されている。
そこでは、オンライン対戦形式のガンシューティングをプレイしていた人物の姿が――。
《YOU LOSE》
何度目の敗北だろう。彼女は銃型のコントローラを放り投げないだけマシと言うべきか?
このゲームでは珍しい女性プレイヤーと言う事もあり、周囲の男性プレイヤーも視線を――と思われるが、その余裕は全くない。
下手に視線を逸らして勝てるほど甘いゲームではないのは、彼女のプレイを見れば明らかだろう。
彼女はコンティニューをする事無く、次の順番待ちプレイヤーに譲る。
(まさか、あのガーベラが?)
(確か――このゲームだと勝率7割は堅いはず)
(猿も木から落ちる――と言う事か?)
順番待ちをしているプレイヤーも心配するようなレベルで、彼女――ガーベラのプレイを見学していたのである。
プレイしていない一部のギャラリーは、待機している訳ではなく単純に観戦目的だ。リズムゲームVSのようにセンターモニターがある訳ではないのも理由だが。
ガーベラとはプレイヤーネームであり本名ではないのは当然だが、彼女の場合はネット上でなりすましプレイヤーが多いのもあって都市伝説とも言われていた。
身長170センチに青髪のロングヘアは他のプレイヤーと比べると非常に目立つ。服装は地味でコスプレイヤー等も来店するここでは――特徴はないに等しい。
顔も割れている訳ではないので、エントリーでプレイヤーネームを見たプレイヤーがガーベラだと認識したレベルだろう。
先ほどの敗北で今日に限れば3度目となる。6回プレイして3回負けていると言う事は――勝率にすると5割だ。
連勝からの連敗であれば精神的にもダメージは大きいが、連敗はしていない。逆に、これが彼女にとっては一種のプレッシャーになっている可能性が高いだろう。
プレイが終わって別の場所に置かれたソファーに座るガーベラは、頭をかきむしりたいような状態だった。
さすがに、それをやっても周囲のプレイヤーに迷惑がかかるのでやらないが。やったとしてもSNSで拡散されてゲーマー人生終了のお知らせを突きつけられる。
「現状だとモチベも厳しいか――な?」
周囲を見回すガーベラの視線に偶然入ったのは、リズムゲームVSのセンターモニターだった。
そこでは盛り上がるギャラリーの姿もあった関係もあって、ふと立ちあがってセンターモニターのある場所まで移動する。
モニターに表示されていた画面を見ても、さっぱりな状況なのは間違いない。
リズムゲームである事もガーベラは知らないので、そこに表示されたムービーで盛り上がっていると勘違いをしている。
そこでガーベラは、受付近くで無料パンフレットが配布されていたので――それを手にしてページをめくっていた。
(これが、リズムゲーム――)
ガーベラはゲームのシステムを含め、ここで初めてリズムゲームを知ったのである。
今までジャンルすら知らなかったゲームもいくつかあるので、リズムゲームだけ知らなかった訳でもないのだが――。