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第1話「転生先の環境」

一章 転生


ニワトリの鳴き声。

洗い物の水の音。

元気のいい近隣たちの世間話。


俺は目が覚めた。

ここはどこだ?

知らないベットの中。


おおおおおおおぉぉぉ

なんだ、なんだ?動き出した!?


意識とは別に体が動き出し、

次にする行動が決まってるかのようにクローゼットに手をかけ、順序よく服を着る。

ただ、その行動は俺の意思ではない。


感触や匂い、音、温度。

伝わってくる五感は全て感じているののだが、

誰かに操られているかのように体が勝手に動き出す。


なんだこれは!

どうなってるんだ??


体は次の行動に移り部屋のドアを開け、階段を勢いよく駆け下りる。


でも俺の意思ではない!!

そして最悪なことに俺の意思と

体は動きが別物だから

なぜか酷く気分が悪く酔ってしまった。


うわーーーーぁぁぁ


意識では叫んでいるのだが

声は出ていないと思う。

しかし、最後の階段を降りたところで

よろけてしまった。


体も一応酔っていたようだ。


「おはよーティム。大丈夫かい?」


階段を降りるとすぐダイニングのような部屋につながっていた。

キッチンと机、テーブル、棚があった。

しかし、見たこともないような手作り感溢れる部屋だ。

なんかファンタジーやゲームのRPGに出てきそうなすごく普通の部屋。

そこで作業をしていた

スラットした体型に赤毛の一つ結びが似合う多分30代であろうエプロン姿の女性。


「おはよー。母さん。多分まだ寝ぼけてたんだと思う。」


んんん??

初めて聞いた自分の声に驚いた。

まだ声変わりもしてない少し高めの少年の声だった。

俺は誰だ??俺がティム??


意識は混乱していた。

ただ、体はしっかり動いていた。

自分の分であろう木の器と木のスプーンそれから飲み物用のグラス。

母さんと言っている女性の分と玄関から入ってきた、たぶん父親だろう男性の分。

計3セット用意していた。

我ながら感心するがよく出来た体だ。


昔のことを考えると親の手伝いなどした事がなかった。

朝起きたらご飯が既にテーブルの上に用意されていて、食べ終わるとそのまま

カバンを持ちすぐ学校。

すべて母親がしてたのだと改めて思い知らされる。


「おはよー父さん。」


お父さんと呼ばれている男性は

朝から一仕事してきたのだろう。

ガタイのいい体に

肩からタオルをかけ、額にはうっすら汗をかいていた。


「おはよーティム。今朝もいい物が手に入ったぞ。」


手には美味しそうな真っ赤な林檎が一つ握られていた。

林檎を母親に渡し、隣の部屋へ入っていく父親。

渡された林檎を決まってるかのように均等に切っていく母親。

そして食卓にはコッペパンのようなパンと野菜のスープ。

林檎が並べられていく。

部屋から出てきた父親は着替えており、

決まった席に着く三人の食卓。


そして俺の意志とは関係なく胸の前で両手を結び、祈りであろう行動が終わったあと食べ物に手を伸ばす。


何に祈っているのか、

俺の体は何を思っているのか。

俺の意志とは関係なく食事を始めた。


うん。味は悪くない。

しかし、これは言わゆる異世界転送ってやつなのでは?

でもよく小説なんかでは子供に転送したとしても転送前の記憶があり、自分の意思で主人公に成り上がる!というのがベタな展開。

意志と体が別なんて聞いたことがない。

そして何より、俺は多分この体にも認知されてないのではないか?

俺が存在するという事をどうにかして伝えなければ第二の人生があるとしても進まないじゃないか!


俺は絶望していた。

感覚はあるのに自分の意思ではない体。

まさか俺が悪いのかもしれない。

俺がこの少年の体に取り付いたのかもしれない。と自分を幽霊のような存在だと思ってきた。


食事が終わり、食器を流しへ持っていき、「ご馳走様でした!」

と駆け足で玄関を出て行く体。


外に出るとよく小説やアニメなどに出てくるレンガ仕立ての裏路地のような場所であった。

そのまま玄関に置いてあるホウキを片手に家の真横の道をすするで行く。

だんだんと明るい日差しに目を奪われ、

沢山の人の声のする方へすするで行く。

光の道へ出たとき、俺は驚いた。


ここはやっぱり異世界だ!!!


目の前に広がるとても日本とは思えない広場。

中心には大きな噴水があり、縁を描くようにいろんな商店が並んでいる。

そしてちょうど自分が立っている場所から右と左に大きな建物が二つ。

右は大きな十字架と大きなベル。

見るからに教会という感じだ。

左は大きな扉の両脇に大きな旗が掲げられていて見たことも無い文字が書いてある。ギルドとか集会所の類だろうか?


一つ一つ見て行くとやはり見たことも無い店ばかり。

剣と盾の交差する看板、武器屋だろう。

服の絵の看板は絶対服屋だろうし、

フラスコに色のついた液体の絵の看板、薬屋かな?

宝箱の絵の看板は……宝石商かな?

ジョッキとスプーンフォークの看板。

食事処かな?

家の絵の看板。宿屋だと思う。


そして自分が立っている場所の真上を見上げると、肉、魚、林檎のマークが三角形に並んでいる看板。スーパーみたいなたぶん食料屋だろう。

他にも色々な店があった。


どの店を見てもやはりゲームや、小説にありそうなファンタジーの世界のお店の雰囲気がある。

やはりここは異世界なのだ。

少しだけ自分の置かれている環境を理解した。


食料屋であろう店の中から父親が出てきた。

そして店の前を丁寧にホウキで掃除をする体。

そう、ここは家の裏側、お店が表なら家が裏なのだが、ここはこの体の家族の店なのである。


「おはよーティム。」

「おう!坊主!」

「おはようございます。ティムさん」

働き者のティムは街のみんなから愛されているようだ。


そしてある女の子に目が止まった。

向かいの宝石商の前でガラスを磨いている女の子。

年齢は10歳くらいであろうか。

長い黒髪を二つ結び。ひらひらスカート。

周りと比較して見るとよくわかる高級な服装がとても似合う可愛らしい女の子。

この体の目線はその子にずっと釘付けだった。

そしてその女の子と目が合い

可愛らし笑顔で手を振ってきた。

慌ててこの体も手を振り返した後、逃げるように掃除に取り掛かった。


ははーん!

この体はあの子に恋をしてるんだな。

淡い青春を抱いている男の子。

自分のことでは無いけどなんだかこしょばゆくなってきた。


そして一日が始まって行く。


集会所、宿屋から沢山の武装をした人達がでてきた。

ゲームなどでよく見るような鎧や盾、剣、銃に槍。

それに小さい小人のような動物の耳が生えた生き物。猫耳や犬耳、うさぎ耳まで。小人はみな重そうなリュックをからっていて、腰には探検を持っていた。

いよいよ異世界。ファンタジーの世界が目の前に広がっているのだ。


武装した人達、冒険者達はそれぞれに目的のお店へ向かっている。


冒険者がこの店にも立ち止まると

「いらっしゃい。色々揃ってますよ。」

この体のお父さん、店主が声をかけた。

「買いたい」

冒険者はその一言だけ言って商品を見て回った。

目的であろう物を次々に無言で店主に渡し、最後にお金を支払って帰っていった。

そしてまた1人、また1人と冒険者が買いに来た。


お手伝いをしているこの体越しに

見ていると気になる点が3つある。


1つ目は買いに来る冒険者は一言

「買いたい」としか言わないのだ。

「これが欲しい」とか「オススメは?」など質問もしない。ただ、目的のものを無言で店主に渡して行く。


2つ目は店の前に立ち止まらないと店主が声をかけない事。

俺が普段生活していた環境では呼び込みが常に行われていた。

「本日特売だよ!」や「安いよ安いよ」

など。

でもここでは目的の物を買いに来る人だけに対応しているように思える。

他の店舗同様告知をしないのだろうか?


3つ目は子供相手に全く見向きもしない事。

いまだこの世界に鏡を見たことがないので、自分の容姿はわからない。

だけど感覚的にまだ10歳ぐらいのこの体。

いまは冒険者が買い物をして、棚からなくなった商品を裏から補充するというお手伝いをしている。

この世界の常識がそうなのだろうか?

子供が働いているのに声もかけず、振り向きもせず、目も合わさず。

この体、ティムはまるで空気のような存在だ。ティムもそうだが、

店主もティムに対して一言も喋らないのだ。


そして夕方になり1日が終わりを迎えていた。

冒険者の数もまばらになり、だいぶ夕日が傾いた頃、店主が初めてティムに対して言葉を発した。


「ティム、お疲れ!さぁ、店終いだ。」


その一言で今まで同じ動きをしていたこの体が違う動きをした。

棚の枠に刺さっている値札を取り、商品を全て隣の倉庫に片付ける。

片付けを終わる頃には外がすでに暗くなり、飲み屋や宿屋が灯りをともしていた。

そして父と一緒にお店の横の細い道を通り家へ向かう。

玄関を開けるといい匂いが漂ってきて、母親が夕飯の準備を済ませてくれていたのだ。


「おかえりなさい。」

「ただいま。」


手を洗い、用意された席に着き、みんなで夕飯を囲んだ。おきまりの胸の前で両手を結び祈りを捧げる行動。

そして夕飯に手を伸ばす。

主食は朝と同じコッペパン。

鶏肉の炒め物。トマトスープ。デザートに林檎。

なんて健康的な食事だろう。

俺にとって こんなにも手作りで愛のあるご飯は久々だった。


食事中はほとんど会話もなく、黙々と食べていた。

もちろんテレビや、ラジオなんて精密機械はこの世界にはないだろう。

あまりに静かすぎてなんだか寂しくなった。


食事の後は家族全員で街にある大浴場へ行った。

この街の住人は無料みたいだ。

お風呂に入ると沢山の人がいた。

ありがたいことにみんなから声をかけられ、愛されているティム。

俺も少しずつこの街の人たちを覚えることができた。

お風呂上がりの父親の手には大きめのジョッキでお酒を一杯飲んでいた。

母親の手にも小さめのグラスがあり、氷と茶色いトロッとした液体が入っていた。

ウイスキーみたいなお酒だろう。

そしてこの体には白い液体。多分牛乳だろうけど知ってあるものとは違い動物臭い感じがする。

そしてみんなで乾杯。

やはりどの世界でもお酒は娯楽の一つなんだろう。

一息ついたところで家に戻り、すぐに

布団に入った。


1日が終わったのだ。

普段の俺なら夜中2時ぐらいまでは起きているので眠くないのだが、

この体は俺の意思とは関係なく、目を閉じ、いつのまにか俺も意思を失っていた。


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