第一章 第二話 出会いその6
お待たせしました。
カミューは矢に貫かれ身もだえしている狼男を警戒しながら、こちらにやってくる矢を射ったと思われる青年を見ると僅かに眉をしかめた。
青年は弓矢を構えながらこちらにやってくるが、その服装はまず現代の日本でするような格好ではなかった。
まず一番目立つのはフード付きのマントを羽織り、全身を隠していることだろう。
弓矢を構えている為マントの隙間から覗く下の服装も普通とは違う。
革の鎧というのだろうか。
上半身はそれを付けており、鎧の下にはチュニックと思われるものを着ている。
腰から下は黒いズボンと普通だが、そのズボンを留めているベルトに小さな袋を幾つか下げていた。
そして背中に矢の入った矢筒らしきものを下げている姿は、まさに狩人といった感じだった。
そんなコスプレじみた格好の青年は、狼男から10m程離れた場所で止まりカミューに話しかけた。
「…無事か?」
「…あ、ああ…アバラをやっちまったがなんとかな」
カミューは話しかけられて初めてその青年の顔を見た。
歳はカミューと同じ位か一つ二つ上だろうか。狼男を鋭く睨みつけるその瞳は碧く、スッと通った鼻梁をし薄い唇を通るその声は男にしては若干高めだった。
フードの隙間からこぼれ出た髪は銀色で、この青年が日本人でないことだけはわかった。
「…なぁ…あんたが結界ってのを張ったのか?」
「…いや私ではなく、私の仲間が張ったのだが…スマナイ、君を巻き込んでしまった。」
カミューは先ほどこの青年が喋った言葉が日本語だった為、狼男と対峙していた時からの疑問をこの青年にしてみたが、青年の答えにまた僅かに眉をしかめた。
「グルルルッ!?
き、貴様魔獣狩り(ハンター)か!?」
狼男は漸く自分に刺さった矢を抜くと、左目を押さえながら残った右目で青年を睨みつける。
「…そうだ。狼男が此方側に反転したとギルドから連絡があったが…少し遅かったようだな。
…何人喰った?」
「クックックッ…。
まだたったの3人だぜ!
それで貴様等魔獣狩り(ハンター)が来るとは…だが…!」
「(…ハンター?…此方側?…反転?…何を話してるんだ、コイツら?
…何が何だかわからんが、ヤな予感がするからもう少し離れた方が良さそうだな)…!?」
青年と狼男はカミューにはわからない会話をしていたが、カミューはふいに嫌な予感を感じた。
その為カミューは狼男を刺激しないようにゆっくり後退りしていたが、狼男はそのカミューの挙動を見逃さなかった。
青年との会話をしていた狼男はまるでカミューとの距離が無いかのように一足飛びで縮めると、次の瞬間にはカミューの背後をとり、右手だけで首筋に腕を回すと青年に矢を射られないように楯にした。
「!?」
「!?しまっ…!?」
「動くな!?」青年は咄嗟に矢を射ろうとしたが既に遅く、狼男はカミューを人質にすることに成功した。
「ぐっ!?
離せよ!?」
「うるせぇ小娘だぜ…イヤ、小僧か?クックックッ!
…オイ魔獣狩り(ハンター)、コイツを離して欲しかったら仲間に結界を解くように言え!?」
「チッ…!?」
カミューはなんとか狼男の拘束から逃れようともがくが、狼男の拘束が緩むことはなかった。
そんなカミューの様子を煩わしげに見ながら、狼男は青年に結界を解くように脅していた。
青年はなんとか狼男の隙を突こうと弓矢を構えているが、カミューが邪魔で狼男の急所を狙えず舌打ちをする。
「ぐっ!?(…やべぇ、もっと早く離れりゃ良かった!
なんとかしねぇと…!?)」
カミューはもがきながらなんとか脱出方法を考えていた。
するともがいていたカミューの左手にヌルッとした感触があり、狼男に気づかれないようにソッと自分の左手を見ると狼男の血が付いているのがわかった。
「(血!?コイツのか!?
…そうだ!)…フンッ!?」
「ガァッ!?」
「…!?今だ!こっちへ!?」
シュンッ!
カミューはその血を見てあることを思い出した。
狼男に刺さった矢は3本だった。
左目と左腕、そして左の脇腹だ。
左腕はそれ程深く刺さらなかったらしく、今は左目を押さえている。脇腹に刺さった矢は深く刺さった為、矢を折ってそのままだった。
カミューはその折れた矢が刺さった場所に左の肘鉄を喰らわしたのだ。
狼男はたまらずカミューを放り出した。
その様子を見ていた青年はカミューに自分の方へ来るように言いながら狼男に牽制の矢を放つ。
「ガァァッ!?
小僧、貴様~!?」
「!?…ぐぁっ!?」
「!?少年!?」
シュンッ!ドスッ!
「ギャンッ!?」
狼男はカミューを逃すまじと右腕を振るいカミューの背中を切り裂く。
青年はさせじと次の矢を放つが、僅かに狼男の攻撃の方が速かった。
<続く>
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
…まだ異世界に行ってないですが、もう少しお待ち下さい
(異世界といってもあの世ではないです(笑))
あと2話か3話で行きますから
それでは次回もお楽しみに