与えられたのは?
気付けば、真っ白な世界にいた。
どこが天井で床で壁なのか、そもそも立ってるのか寝てるのか浮かんでるのか、そんな認識ができない。
それでも、いきなり下に落ちる感覚を覚え、何もできず固まってしまう。
自分以外全てが真っ白だから、流れる景色というものが無く、どれだけ落ちたのか全然わからない。
それでもそれが終わったのは、地面らしき場所に叩きつけられるように「落ちた」と感じたから。もちろん、痛かった。頭の端で激痛というのは、こういったものか。なんて思ってしまったのは、落ちて痛みに悲鳴を上げて大分経ってから。
痛みなんて慣れず、やっと体が動かせるようになってから、ゆっくりと起き上がる。そこで初めて自分以外の人間達を目にした。
何で?ここどこ?
痛い……何だよコレ?マジふざけんな。
大体はこんな事を言っている奴らばかり。男、女がどれだけいるか分からないが、自分と似たタイプの人間じゃないかと思ったのは、ただ単に見た目だ。ギャル系とか、インテリ系とか、ヤンキー系とか、その他色々、今まで生きてきた中で自分とは関わりは無く、これからも無さそうな『リア充』と呼ばれるような奴らではなさそうな見た目と言動。
積極的に誰かに話しかけようという者は少なく、誰もが自分以外の人間を怪訝な目で見て、様子を伺っている。
「あー、悪ィ悪ィ。痛かった?」
そこで唐突に掛けられた声。
上からだと思ったのは、自分を含めてそこにいる奴らが首を上に向けたらから。
そこには、一人の男が白い雲に乗ってこちらを見下ろしていた。
白に近いシルバーだかプラチナ色のゆるふわな短い髪に、左右色の違う瞳、ゆったりとした白い服。
声や顔立ちは中性的で、もしかしたら女かもしれない。人間離れした美しさとはこういうものか。と、普段テレビで見ていたイケメンだの美女だのと言われる芸能人が霞んでくる。
誰かが呟いた「神様……?」という言葉に、この真っ白な世界も、雲に乗った美人の存在も、ゲシュタルト崩壊しそうな程似たり寄ったりな展開のラノベやらネット小説を読んでた自分はすんなり受け入れてしまった。もしかしたら自分は……と、この後の展開を先読みしてしまう程に。
「まァ、神様ッちゃあ、神様かな?マイナー過ぎて名前は無いし、そもそも人間に周知されるような存在じゃないけどな」
その言葉に、色めき立つ自分を含めた奴ら。多分、コイツらも『テンプレ』ってやつを熟知してるんだろう。
「じゃ、じゃあ!もしかして私達、今死んじゃってるんですか!?」
「……そうだねェ。大概が似たり寄ったりな死に方した奴ばっかりかな?何でそう思ったの?」
「え?な、何でって……私……」
「高校受験に失敗。ヒキニートってやつになって、同人作家になる!と意気込むものの、描くのはチラシの裏レベルのラクガキ。精を出すのはネトゲのレベリングと同人誌購入と晒しサイトの書き込み」
「ッ!?」
死んだのかと訊いた女は 神様に暴露され、最初の勢いが無くなり、俯き、オドオドしながら周囲の人間の視線を気にしている。
「そこ。笑ってるけどお前も似たようなもんだろ。親の金でネトゲ課金にフィギュア購入。還暦過ぎた親に暴力振るって、俺にやる気を出させねえ会社が悪い、俺を見出さねえ社会が悪いと頭の悪い発言ぶっぱなして、出させた金で脂肪を蓄え、個人サイトで俺TUEEEEからのハーレム妄想を垂れ流し、それを評価しねえお前らの頭が低脳って喚き散らす」
最初の女をニヤニヤしながら頭の中でバカにしていただろう男は、これまた自分の事を暴露され、口をパクパクさせながら顔を真っ赤にしている。
「まあ何だ、よくもここまでテンプレかって言いたくなるような人間ばっかりだよな。あ、さっきも言ったけど、お前ら死んでっから。そんで、今までとは違う世界……お前らには異世界って言い方が分かりやすいか?そこ、行ってもらうから」
あまりにも簡単に言われた死亡宣言と、異世界移動告知。小説で読んでたとしても、いざ自分の事になると実感が湧かないし、思考が鈍る。
「お前ら好きだろ?異世界。そこ行きの切符を手に入れましたー。パチパチ」
やる気の無い拍手をされて、顔が歪む。
好きなのは、二次元だからだ。妄想で自分を置き換えられるといっても、所詮は文字上の他人事だからだ。
「おい!じゃあ、何か能力とか貰えるのか!?」
「は?能力?」
「当たり前だろ!異世界行って俺らに何が出来んだよ!こういうのって、何かチート能力貰えるってのが定番だろ!!」
「言語能力は当然よね。あ、あと若返らせてほしい!あ、やっぱりスタイル良しの美少女にしてほしい!」
「何か生み出す能力とか……」
「馬鹿じゃね?こういうのって、学習系の能力だろ。一つだけとか使えねえ」
所謂『僕、私が考えたチート能力』というものが貰えて当然とばかりに騒ぐ人間達を、神様は静かにそれを眺めている。
「はあ?」
大声じゃなく、しかし二文字のそれは、人間を黙らせるのに十分過ぎる程の威圧があった。
「チート能力?授ける?定番?当然?何言ってんだお前ら?」
ピシ、ピシ。と、単語の一つ一つが自分たちを攻撃してくるような感覚。
「何でダメ人間を更にダメにするような甘やかしをしなきゃいけねえんだ?それをしてくれんのは、お前らの親だけだ」
所々で漏れる「え……?」という声。
「大体よォ、元の世界でもロクなことしてねェお前らが、そのチート能力ってやつを手にして何すんだ?魔王でも倒すのか?傾きかけた国でも立て直すのか?そもそもそんな大それた事やる気も無けりゃ、オツムも経験も腕力もコミュ力もねえし、それを自分の力で努力して手に入れる気もねえだろ。……まあ、そんなもんがありゃ、ニートなんてやってねえわな」
そんな主役級のもん、他の奴が既にいるし。
自分たちを見る神様の目は、慈愛の欠片も無い。
「元の世界ではダメだったけど、違う世界に行けば別人レベルで無双できるしー。ってか?ねえよ。それなら、元の世界で最初っからやる気出せよ。何でも揃ってた元の世界から、全くのゼロからスタートでお前らに何ができんの?排泄物しか出せねえお前らが」
神様の言葉が、自分たちに突き刺さる。これまで自分たちに掛けられてきた親や教師、友人だった奴らの言葉が、どれだけ優しい言い方で、自分を思って言っていたのかなんて思ってしまう。
「まあ、与えてるといやァ、既に与えてるわな。それが何か気付けるか、その前にまた死ぬかはお前ら次第だ。ま、せいぜい頑張れや」
神様が指を一つ鳴らせば、また落ちる感覚。
所々で聞こえる悲鳴、罵声、懇願。
どんどん遠くなる神様の姿を眺めながら、ふと思い出した言葉。自分と目が合う神様がニヤリと笑う。「正解」……そう言われたような気がして、自分の意識は景色と同じく白く、視界は黒く染まっていった。
神は、乗り越えられない試練はお与えにならない。
(誰が言っていたんだっけ?)
登場人物
【神様】
辛口派のあまのじゃく(神様なのに鬼の文字はおかしいかと思い、平仮名で。)系神様。ノットツンデレ。
無償で人間を甘やかす意味が本気で分からない。けど、自分の意図が僅かでも汲める者、試練を乗り越えられる者は嫌いじゃない。
【ニート達】
様々な理由で引きこもる面々。本気出す気も無く、怠惰な日々を送る。
死亡理由はトラック関係無いよ。
いろんな作品で、元ニートで異世界に転生だとか転移というお話を見ます。
よくあるのが「神様に能力もらっちゃいました」的な展開。
自分もそういったものは書くんですが、じゃあもしこんな神様がいたら…と書きました。既にある元ニート主人公作品をヘイトする気は無いです。
甘やかしてくれるばっかりが神様じゃないよな。と。
固定キーワードが天災なのは、神様が関わってるから。