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数日前の朝の出来事

緑繁る麗らかな朝、ルゥヴィは大好きな兄・ユースティと一緒に食事がとれ、満面の笑みを浮かべていた。

兄のユースティは国王であるがゆえ多忙で、なかなか一緒に過ごすことは叶わないのである。


上機嫌で食後のデザートである果物を食べていると、向かい側から小さなため息が聞こえ、思わず手を止める。


「……お兄様、なにかありましたか?」


何か自分が粗相をしてしまったのだろうかと不安に思い、兄の一挙一動を見落とさないようにじっと見つめた。

だがユースティは、


「なんでもないよ」


と、優しげに笑みを浮かべるだけだった。

だが、ルゥヴィには、この笑顔が無理に作ってるものだとすぐにわかった。

ユースティは元来穏やかな性格で、争い事を好まず、何事にも誠実に対応をしてきた。王になってからもその性格と考えは変わらず、臣下の意見を聞き、善政をおこなってきたお陰で民からの信頼もあつい。

もちろん、妹であるルゥヴィにも優しく、小さな頃から可愛がられてきた。そんな兄だからこそ、ルゥヴィはどんなことでもやってあげたくなるのだ。


「お兄様、私には嘘は通じません。……何か心配事があるのでしょう?」


だが、ユースティは表情を変えず、首を振る。


「なんでもないよ」

「そんな寂しいことは言わないでください。私はお兄様が心配なのです。妹の私に心配ぐらいさせてください」


心配ぐらいというが、それだけで終わらないのがルゥヴィなのだが、ユースティはそれには触れず、仕方がないと口を開いた。


「実は最近、騎士団が仕事を怠けているという根も葉もない噂が流れているようなんだ。団長のサギータは職務には真面目だし、我が国の騎士たちがそんなことをするとは思えなくてね……」


騎士団団長のサギータとユースティは年齢も近いことから昔から仲が良く、臣下と主君という立場を越えた親友でもあるのだ。

サギータは真面目で仕事熱心で、団長という立場なのにも関わらず、新人の騎士たちの教育にも手を抜かない。また、面倒見もよく、悩みや相談事を聞いてくれるため騎士団の者たちから慕われていた。

おのずと騎士団は団結が強くなり、職務には忠実となる。


そもそもルプス王国の騎士団は、民を守ることを第一に考えられ作られた。民を守ることは、ひいては国を守ることにつながる。

王都では治安維持も職務のひとつで、毎日巡回を行っている。

しかし、ユースティが調べた噂というのは、その巡回を怠け、あまつさえ若い女性に手を出しているというのだ。

それが本当ならば由々しき事態である。この噂が広まれば民からの信頼をなくし、国内の治安は乱れ、さらには混乱に乗じて他国からの侵略を招く可能性がある。

ユースティはこれを危惧していた。

まだ噂はそこまで広まってはいないため、どうするべきかと悩んでいたのだ。

あまり大事にすれば騎士団に大きな傷をつくってしまいかねない。


話を聞いたルゥヴィは決意する。

この兄に、ここまで迷惑をかける馬鹿者を完膚なきまで叩きのめすと。

荒ぶっている心の中とは裏腹に、兄を安心させるようににっこりと微笑むルゥヴィ。


「大丈夫です、お兄様。全て私にお任せください」

「だが……」

「何も心配はありません。お兄様は噂がこれ以上広まらないようにしていただくだけで結構です」

「もちろん。すでにその対策はしているよ。だが、根本を正さなければ何も変わらない」

「ええ、わかっています。ですから、そちらはお任せください」


一歩も引く様子のない妹を見て、ユースティは仕方なく折れた。


「あまり無理をしないようにするんだよ」

「ええ、お兄様」


自信満々に頷く妹の様子に、ユースティは苦笑した。

なぜなら、以前ルゥヴィが兄のために行ったことの数々は派手に処理された事案ばかりだったからだ。一番最近のものは盗賊団の大規模摘発で、この時この王女は、盗賊を全て捕まえ、さらには大捕物で相手を再起不能にし、アジトを潰すという暴走っぷりであった。

ルゥヴィが危ない目に遭わないで欲しいと願うと共に、今回は穏便に済んで欲しいと思うユースティであった。

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