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序章
「あなたたち、たるみすぎよ‼」
騎士団の演習場に響き渡る叱咤の声。だがそれは、屈強な男たちが揃う騎士団では似つかわしくない、可憐な声だった。
演習場の中央で、倒れている騎士に剣を突きつけている人物が声の主だ。
珍しい真紅の長い髪をなびかせ、いくらか装飾を抑えているが、裾の長いドレス。その両手首には不思議な紋様が描かれた銀の腕輪が光っていた。
騎士団が使う、刃を潰した模擬剣を使い慣れているのか、器用にそれでいて華麗に操っている人物は、誰もが目を奪われてしまうほどの美しい少女だった。
この国の王女であるルゥヴィ・アレイノス・ルプスである。
このルゥヴィは見た目通りの可憐で美しい王女ではなかった。
その剣の腕は、騎士団の中でも相手にできるのがほぼいないほど優れていた。
そのせいか、少しお転婆なところが目立っていた。
また、兄である国王のことが大好きで、兄のためならば、どんな無茶なことでも無理やりやってしまうことは、騎士団や親しい者の中では有名であった。
今日もルゥヴィは兄のため、暴走していた。