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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:END 終わりと言う名の別れ

会者定離

それは、出会いの先には別れがあると言うこと。


でもそれは、きっと悲しいことなんかじゃない。

それはきっと、もう一度出会うときに、喜びを分かち合うための別れ。


だから、悲しくなんて無い。ただ少し、ほんの少しだけ寂しいだけだ。


 ――――だから待っててくれよ、皆。すぐ、帰るから。



         ――――桐久保カルマ。

 

 繭の中は、これまでとは比べ物にならない程の、破壊の嵐だった。

 並大抵の魔人なら、呆気なく消えてしまうだろう。


 そんな中をオレは突き進む。

 言葉は届いた。想いも届いた。だから残りの、この拳を届かせる為に。

 そして親父の、望みを叶える為に。


 破壊が、襲ってくる。


『おおおおおおおお!!!』


 ――――届け。


 伸ばした左腕は、千切れはしなかったが、骨が砕かれた。


 ――――届け!


 右足の感覚が消えた。


 ――――届けッ!


 視界が霞む。血を流しすぎた。


 ――――届けッッ!


 左の翼が消し飛び、バランスを崩す。


 それでも――――


『と……ど、けぇぇぇええええええ!!!』


 皆の想いに、声に、背中を押され、支えられ、オレは突き進んだ。

 だから、オレに最後の声が響いた。



 ――――さぁ、カルマよ。決めようじゃないか。



 それは、相棒であり、妹であり、半身であった、永遠の別れをしたはずの声。


『ああ、決めるぞ、マルカ! 兄妹(オレたち)の、力で!』



 魔力を身に纏う。

 練り上げる。

 これが最後だ。これで最後にしなくてはならない。だからもう、躊躇わない。


『あばよ、クソ親父』


 ―――また、あの世で会おうぜ。


『【冥道――――開通】!!!』



 そして、最後(おわり)の一撃を、親父の顔面に打ち込んだ。


『【がぁぁぁあああ!】』



 冥道が開き、その中に魔力が吸い込まれていく。親父もまた、吸い込まれそうになるが、膨大な魔力を放出することで耐えていた。


『【あぁぁあぁああぁぁ……】…………ありがとう、カルマくん』

『っ!!』


 苦しみの声が途切れ、聞こえてきたのは親父の言葉。

 それはどこまでも穏やかで、優しい、オレのよく知る声だった。


『君のお陰で、僕は止まることができた。もうこれ以上、罪を犯さなくて済んだ』

『…………でも、救えなかった』

『それでいいんだ』

『良くない!』

『いいんだ。これが正しいんだよ、カルマくん』

『なんで、そんなこと…………』

『いつの時代もどこの国でも、大罪を犯し、沢山の人を殺めた咎人は、その命をもって償わされる』

『違う! それは逃げだ! 本当なら生きて、生きながら贖罪をするものだろう!?』

『あぁ、そうかもしれない。それが正しいのかもしれない。

 でも、僕を止めるには、これしか方法が無いことも事実だ』


 その言葉に、オレは唇を噛み締める。


『もうすぐ、僕の魔力は底を尽きる。そうなれば、僕はすぐに冥道に飲み込まれるだろうね』


 だから、と親父は言葉を続ける。

 その間も、その声はやさしく、眼は穏やかな光を帯びていた。


『その前に、君に謝って、そしてお礼がしたいんだ。

 カルマくん。僕は君を騙して、裏切って、大切なモノを君からいくつも奪って行った。その痛みを、辛さを、誰よりも知っているこの僕が。

 だから、謝って済むような事じゃないけど、謝らせてくれ。

 本当に、ごめん。本当に、済まなかった。赦してくれなくていい。憎み続けてもいい。


 だけど、それでも(ぼく)は、息子(きみ)を愛しているよ』


 親父は深々と頭を下げ、そういった。

 同時に、繭の崩壊が始まった。


『そして、こんな僕を親父と言い続けてくれて、止めてくれて、ありがとう。

 君は沢山の人に囲まれている。沢山の想いに包まれている。

 だから、その沢山を大切にして上げて? 僕みたいに、捨てるのではなく、ね』


 その言葉には、ついつい、笑みが零れてしまった。

 全く、何を言ってるんだか、この親父は。


『そんなの、当たり前じゃねぇか。オレは親父と違って、人間ができてるからな』

 

 冗談めかしてそう返すと、一瞬キョトンとした表情をした彼の顔に、満面の笑みが浮かぶ。


『そうか………うん、そうだったね。それじゃあ、安心だよ、泣き虫息子』

『あ、言ったな、ヤンデレ親父! 誰得だよ!』

『んー、祓葉?』

『うわマジか、オレの母さんすげえ』


 そんなやり取りも束の間。別れの時がとうとう訪れる。

 オレと親父は変躯を解いて、言葉を交わす。


「それじゃあ、お別れみたいだ。カルマくん」

「あぁ、ちゃんと看取ってやるよ、親父」


 親父の体から魔力も生気も、魂も、魄も、抜けていく。


「バイバイ、馬鹿息子(カルマくん)。あの世から見守ってるよ」

「あばよ、クソ親父。天国も地獄もねぇだろうけど、よろしく頼むわ」



 言葉を交わし、ゆっくりと、親父の体は、冥道へと飲まれて行った。



 そしてそれを見届けたオレは、瞼を落とし、後ろ向きに倒れ、落ちて行った。










 声がまた届いて来る。

 オレを呼ぶ声だ。どの声も、よく知ってる声。


 ――――義兄(にい)さま。


 ――――カルマ君。


 ――――カルマ先輩。


 ――――カルマァ。


 ――――カルマ。


 あどけない、女子のような声。

 優しい、どこか安心できる声。

 小憎たらしくて、生意気な声。

 荒々しく、頼もしく感じる声。

 力強く凛とした、愛らしい声。


 その声たちに呼ばれ、オレは目を開ける。

 始めに目に写ったのは、夜の帳が降り始めた、茜と群青が混じった空。こんなに時間が経っていたのか。

 次は、オレを包む、白い柔らかな光。どうやらこれのお陰で、オレはゆっくりと落ちているらしい。


 そして、最後に、


「…………おう、むさ苦しいまでに男ばっかだな。あ、キースは違うぞ?」

「私達を見ての第一声がそれか。それと、私は女だ!」


 オレに微笑みかける、魂達。オレに力をくれた、大切で、失ってしまった人達。一人は違うけれど。


「久しぶりだね、カルマ君」

「ああ、そうだな。こうやって話すのは久しぶりだよ、アスカさん」


 始めにオレの元へ寄ってきたのは、アスカさんだった。


「カルマ君。どうやら、僕達の役目は終わったみたいだ」

「え?」


 アスカさんの言葉の意味がわからず、オレは聞き返した。

 その問いには、キースが答えた。


「つまり、義兄(にい)さまにはもう、僕達の力は必要ないんだ。だって、もう戦う必要が無いから」

「そう、か…………」


 終わったのか。

 実感はあまり無い。無いが、それでもどこか、寂しさを覚えてしまうのは、何故だろうか。


「何をそんな物足りなさそうな顔してやがんだよ、カルマ。そんなに俺と戦いたかったか? あん? なんなら俺のリベンジマッチと行くか?」


 フィストがそう言ってくるが、それには小さな笑みと共に返す。


「へっ、それも悪くねぇな、フィスト」


 だがよ、と言葉を継ぐ。


「それは来世でな。もう少し、勝利の余韻に浸らせてろ」

「ちっ、勝ち逃げかよ。…………まあ、仕方ねえから、それまで待っててやる」

「え、男との運命とか嫌なんですけど」

「ぶん殴るぞゴラ」


 軽口を交わして、互いに笑い会う。


「ちぇ、最期に見るのはこんなイケメン被れの男じゃなくて、朝霧先輩が良かったなぁ」

「うっせ、誰が被れだ誰が。悪かったな、ヒナタじゃなくてよ」


 ぶつくさと文句を漏らす後輩に、オレはそう言ってやる。


「まあでも、実際俺、実は先輩のことそんなに嫌いじゃ…………嫌い、じゃな…………く…………」

「無理しなくて良いぞ」

「めっさ嫌いでした。いやホント、マジで」

「こいつ…………」


 ホント、最後まで憎まれ口しか叩かないつもりかよ。


「まあいいや。神谷よ、ヒナタは任せな」

「殴りたい、そのドヤ顔」


 結局、オレと神谷は最後までこんなだって事なんだな。これが、オレと後輩(コイツ)の関係性。

 意外と悪くなかったな。

 


「まぁそんなわけでカルマよ。すまんな、お別れだ」

「…………お前も逝くのかよ、マルカ」

「そうみたいだ」

「ずっと一緒じゃ、なかったのかよ」

「…………そう、みたいだ」


 マルカが、泣きそうな表情で俯いてしまう。

 全く、世話の焼ける妹だ。これじゃ、おちおち(オレ)が悲しめないじゃないか。


「それなら、オレは忘れねぇ」

「え?」

「オレはお前を、絶対に忘れねぇ。それで、手を打ってやるさ」

「カルマ…………カルマ!」


 マルカが、オレの胸に飛び込み、わんわんと泣く。泣き続ける。だからオレは、その頭をゆっくりと撫でる。


 しかし、こんな時間も、そう長くは続かなかった。


「どうやら、時間のようです」


 マルカとのやり取りを微笑みながら見ていた、アスカさんが、そう言った。その体は、徐々に透け始めていた。他の四人も同様だ。


「もう、お別れか」

「大丈夫、安心して、義兄(にい)さま」

「キース?」

「ほら、よく言うでしょ? 僕たちを覚えている人がいる限り、僕たちはその人の中で生き続けるって。だから、僕たちは、大丈夫」


 キースが愛らしく微笑んだ。


「そう…………だな。ああ、そうだな!」


 そして、それぞれが別れの言葉を紡いでいく。


「それじゃあ、サヨナラだよ、カルマ君。くれぐれも、大怪我をしないように」

「ああ、サヨナラ、アスカさん。それと、大怪我は現在進行形でしてるんだが」


「あばよ、カルマ。お前との戦いは楽しかったぜ? またいつかやろうや」

「あばよ、フィスト。また、いつかな」


「それじゃ先輩、朝霧先輩のこと、幸せにしてくださいね」

「当然だ。言われるまでもねぇ」


「バイバイ、義兄(にい)さま。姉さまの事も、よろしくね?」

「バイバイ、キース。ああ、勿論だ。任されたぜ」


 言葉を交わした四人は、ゆっくりと光の中に溶けていった。

 どの顔も、そこに満足そうな穏やかな笑みを浮かべて。


「あとは、お前だけか、マルカ」

「ずず…………そのようだな。…………ちーん!」

「あ、てめ! どこで鼻をかみやがる!」

「カルマの服だ」

「ばっちいなおい!」

「なに、選別だ、受けとれ」

「いらんわ、こんな選別!」

「…………うむ、満足した。これで、もう思い残すことは何もない」

「人の服に鼻水を付けることが満足かよチクショウ」


 ふっ、とマルカはオレに笑顔を向ける。


「では、これで今度こそ本当のお別れだ、カルマ。お前と過ごした日々、楽しかったぞ」

「オレもさ、マルカ。絶対に忘れねぇ。お前は、オレの記憶のなかで生きていくんだ」



「ふふ、それではさらばだ、愛しの愚兄」

「ああ、それじゃ、あばよ、愛しの愚妹」



 そして、マルカも、光の中に溶けて消えていったのだった。








 白い光に守られて、オレは地上に降り立った。いや、降り立つと言うより、受け止められた。


 受け止めたのはヒナタだった。

 その顔を涙で濡らしながらも、安堵の微笑みを浮かべている彼女は、本当に美しかった。







 その顔を見ながら、オレは満足感に包まれ、そして――――――――


















 ――――オレの意識は、暗闇へと落ちて行った。




今回、サブタイにENDとついてますが、最終話は次回の予定です。


カルマくんがどうなったのか、これからどうするのか、それは次回ということで。


ただ、一つ。


僕はバッドエンドが嫌いです! 以上!


それでは皆さん、また次回!

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