Conclusion:32 集う想い
人は一人でも生きて行ける
けれど
独りぼっちは、寂しいだろう?
――――桐久保マルカ。
桐久保くん達が、空中戦を繰り広げ、もう一度神殿に入っていったのを、僕たちが見届けた瞬間、再び空に彼らの映像が写し出されている。
「佐伯先輩…………」
「なに? 梶原さん」
「あれ、ちょっとヤバくないですかね?」
「…………そうだね」
今、僕たちが見ているのは桐久保君と、その父親との会話だった。
そこで僕たちは、この戦いそのものが布石であり、彼の思惑に乗せられていたことを知った。
『これで僕は、息子を殺さずに未練を果たせる!』
そして、その一言に、何か、言葉では上手く表すことのできない何かを感じ取った。
そこまで僕らが見届けたとき、
「カルくん!」
『カルマ様!』
彼を想う二人の少女が、堪らず走り出す。
「ちょ、二人とも!」
梶原さんが二人を止めるべく駆け出そうとするが、僕がそれを手で制す。
「佐伯先輩、なんで!?」
「行かせてあげましょう。それが望みなのですから」
そう言って、僕は空に映された映像に目を戻した。
そこから更に彼らは言葉を重ね、そして――――
『今、この場にいる魂ある全ての者たちよ!
さぁ、神にその魂を捧げよ!』
空に上ったシンは、僕たちにそう言ったのだった。
「竹井さん!!」
とっさに、ここにいる最高戦力に声をかける。
『わかってます! 皆、対空陣形!』
流石は歴戦の戦士たちと言ったところか、彼らは既に武器を手にしており、竹井さんの一言で、その陣形を完成させる。
飛行能力のある者は空に上がり、射撃能力のある者は、照準を合わせ、それらの無いものは邪魔にならぬよう投擲などの援護を行う姿勢に。
『従わぬのなら、力づくで奪うまでだ!』
僕たちのその行動を見たシンは、魔力の嵐を産み出した。
その嵐による破壊は圧倒的で、瞬く間に空を穿ち地を削り、荒れ狂う破壊の権化と化した。
その破壊の嵐に、回避し損ねた幾人かが巻き込まれ、抗うまもなく消滅した。
『……ッ! 総員に通達! あれに触れず、遠距離能力のある者のみ、攻撃! それ以外はひたすらに回避を! 誰も、死なすなよ!
僕らは、生きて、生きて、生きて! そして帰るんだ!』
竹井さんが声を張り上げる。
その声は必死で、これまでの穏やかな雰囲気は無い。
そしてその言葉に答えるように、彼らは声をあげる。
『おうともよ、大介! 俺だって、失うのはもう嫌なんだからな! なあ、恭慈! 燈悟!』
『あたぼうよ、遊李!』
『勿論だとも!』
『じゃあ、行くよ!』
竹井さんはそう声をかけ、剣に白い焔をまとわせる。
『焼き払え、【白焔の法・絶火の嵐】!』
白い焔が渦を巻いて、まるで竜のように登り、触れる魔力を焼き尽くしながら、魔力嵐の中心部へ向かう。
そしてそれを皮切りに、ほとんど全員が攻撃を開始した。
だが、どれ程攻撃を放とうとも、至近距離で撃てない攻撃は、破壊の魔力に削られ、掻き消され、その中心に届くことは無い。
そんな時だった。
『皆! 今だけ、今だけでいいから、オレには力を貸してくれ!』
そう叫ぶ、主人公の声が響いた。
◆◆◆
『頼む、今だけでいいから! オレに、力を!』
地上に降りたオレは、力の限りに叫んだ。
すると、皆の意識がこちらに向く。
『カルマ、それは良いがよ、どうやってアレを止める? オレらの攻撃は一切通らなかったぜ?』
黒と白の翼を生やした人魔…………確か、遊李さん。その遊李さんが、オレに問いかける。
『ああ、一つ一つじゃ多分届かない。だから皆の力を、文字どおり一つに纏めるんだ』
『…………どうやって?』
その問いに、オレは不敵な笑みを浮かべる。
『頼むぜ、二人とも』
「うん!」
『はいですわ!』
そして、二人は魔力の塊、擬似的な核を作り出し、それをオレに向ける。
この魔力塊、一見するとソフトボール大の光の玉だが、そこには、彼女たちの殆ど全魔力が圧縮されており、それを作り出したことで彼女たちの変身は解けている。
そしてオレは、それを取り込んだ。
『んな!?』
途端、遊李さんが驚きの声をあげる。
『安心してくださいよ。これは核を取り込んでるんじゃなくて、魔力を、一時的に借りてるだけですから』
『魔力を、借りる? そんな事が出来るのかよ!』
『お節介で生意気な後輩からのプレゼントでしてね、それに屍魔人の特性が合わさって、一時的にできるようになったんですよ』
魂……つまり魔力を外部から受け取り、貯蔵する神谷の特性。
そして、魔力を喰らい、コピーするオレの特性。
この二つがあってこそ、この力は完成する。
『時間がありません、急いで!』
『わかってる! 聞いたかよ、大介!』
『はい、しっかりと』
遊李さんが振り向いたそこには、魔力塊を手にして、変身を解いている、オレの仲間たちの姿があった。
一人一人が、オレの元へやって来る。
『負けんじゃねぇぞ、坊主』
『わかってますって』
口が悪くても、どこか頼りがいのある恭慈さんが、オレの頭を小突きながらそう言った。
『お前ならやれるさ。なんせ、ガキん時のオレに似てるからな』
『…………えー』
遊李さんが、冗談めかしながら、肩を叩く。
『ま、顔の方は遊李の完敗どころか、コールドゲームだけどな』
『ちょ、燈悟テメェ!』
燈悟さんが笑いながらそう言い、それに反応した遊李さんの反応を見ながら笑う。
『あとは、頼みましたよ? 主人公くん』
『主人公って…………』
大介さんが、いつもの優しい声で、そうプレッシャーをかけてきた。
『思う存分、ぶっ放してきなさい』
『なかなかに物騒だが、そうさせて貰うよ』
梶原が、割りと物騒なことを言いながら、サムズアップしてくる。
『正念場だよ、桐久保君』
『はい、先輩』
――――そして、最後は。
『カルマ様、帰ってきたら――――』
『おおっと……これ以上は、フラグなんでな、言ってやらねぇ』
ルルと、軽口に近いやり取りを交わし、
「カルくん…………」
『ヒナタ?』
「ううん。なんでもない。ほら、行きなよ。私たちは、ここで待ってるからね」
『ああ、約束だ』
「うん、約束だね」
ヒナタと、フラグに近い約束を交わす。
そして、それを見届けた大介さんが、全員に指示をだす。
『彼に魔力を渡さなかった者は、渡した者を守りつつ、即時、丘の上に撤退!』
撤退していく彼らを見送った後、オレは空を睨み上げる。
『行くぜ、親父。行こうか、皆!』
魔力を展開する。いや、これは魔力ではない。
これは、優しさのなかに、強さと、そして自分への怯えを抱く、あの人の力だ。
だからだろうか、声が聞こえた気がした。
――――さぁ、行こうか、桐久保君。この空を貫いた疾さを持って。
『…………そうだな、佐伯先輩!
―――【光輪白夜の白騎士】!』
そしてオレは白い翼を、その背に展開させた。
『空を疾く駆ける翼の力、思う存分、使わせて貰う!』
届かせよう。今度こそ!
前回は6000字でした…………
そして今回は3000字…………一気に半分になってすみません!




