Conclusion:30 決着
さて、ラストスパートとほざいておきながら既に二ヶ月が経過したことに恐れの戦いてる作者がここにいます
声が、聞こえる。
みんなの声が。
何を言っているかは聞き取れないけれど、その言葉の数々に籠められた思いを感じる。
―――応えなくちゃな。
そう思った。もとより負けることの許されない戦いであり、負ける気も毛頭無かったが、これで尚のこと負けられなくなった。
詠う、唱う、歌う、唄う、吟う、謡う、謳う。
これまで何度唱えたかわからないそれを、全霊を持って詠唱する。
想いを込めて、決意を秘めて。
そして放たれるのは、同質異形にして、異なる意思の込められた力。
『【冥道斬開】!』
『【冥道開通】!』
片や、己が未練を果たすために。
片や、己が未練を貫くために。
『おおおおおおおおおおお!』
『あああああああああああ!』
ぶつかり、拮抗する。
魔力が、魂が、魄が、これまでに無い勢いで削られて行く。
―――止まるものか。停まってなるものか。
そんな声が聴こえた気がした。
それは多分、幻聴だったのだろう。けど、オレにはそれが、親父の叫びに聞こえて仕方がなかった。
『断る』
だから叫ぶ。
もう何度叫んだかわからない言葉を。繰り返しすぎて、既に聞き飽きた言葉を、それでも親父に、自分に言い聞かせるように。
『アンタを、親父の暴走を―――』
―――この息子が、
『―――止めてやる!』
そして、オレは脱力する。それは不意のものではなく、オレ自身が意図して行った事。
脱力がもたらしたのは、冥道の消失。
オレが開いていた冥道は消え去り、競り合っていた親父の冥道が突き進む。
しかし、競り合っていた片方が突如として消えたとき、起こるものはバランスの崩壊。
それは、冥道同士でも同じこと。
支えを失った親父の冥道は、その速度を増して過ぎ去った。
過ぎ去った後には、オレの姿は無い。もちろんそれは、オレが飲み込まれたからではない。
落下。
脱力し、全ての力を抜いたオレは、空中での支えを失い、落ちていた。
停止。
自由落下によって勢いの付いたその体を、急停止させる。
骨が軋む音がした。
加速。
物理法則を無理やり無視し、一瞬でトップスピードまで持っていく
巨大な加速Gにより、体が悲鳴を上げ、視界が狭くなる。
上昇。
落ちていた体を上向きにして、上昇していく。
親父はまだ気付いていない。
体が悲鳴を上げている。超過Gによって、視界が暗くなっていく。
それでも、そのお陰で、親父の反応よりも早く、オレは親父に肉薄する。
『なっ!?』
―――親父、
『こ、れで………っ』
―――終わってくれ。
『【狩 魔】ゥゥゥゥウ!!』
想いを乗せた一撃が、親父の頬に突き刺さった。
◆◆◆
「カルくん!!」
つい、悲痛な叫び声を上げ、彼の名を呼ぶ。
なぜなら彼は、力をぶつけ合う最中、行きなり落下を始めたのだ。
それにより、数秒遅れて彼の冥道が消え去った。
その数秒の間にかなり落ちていた彼は、そのおかげで過ぎ去った冥道に飲み込まれる事は無かった。
そこからは、一瞬の出来事だった。
停止、加速、上昇。
これらを、彼はほとんど同時に行った。
『カルマ様!!』
今度はルルさんが叫び声を上げて、手で口を覆い隠す。その顔は青かった。
しかし、その意味を問いただす前に、事態は動いた。
カルくんが接近した瞬間、シンさんの体が吹き飛び、神殿の中へ叩き込まれたのだ。
「ルルさん……今のは………」
改めて、意味を問う。
すると応えたのは、佐伯先輩だった。
「全く、無茶をするよ、彼は」
曰く、本来なら、あんな動きをした瞬間、体の骨は砕け、視界はブラックアウトしていたそうだ。
「恐らく、〈魔神〉だからこそ、耐えられたのでしょうね」
そう言って先輩は空を見上げる。
そこには、再び神殿内の映像が浮かび上がっていた。
「カルくん…………」
◆◆◆
親父を叩き込んだ神殿に、オレは降り立つ。
土煙と、薄暗い室内のせいで、よくは見えない。
『くっ、くくく、ははははは!』
親父の笑い声が聞こえる。咄嗟にその声の方向を向き、構えたオレは、次の瞬間にはその構えを解いていた。
『いやぁ、まさか、あそこまで強くなるとはねぇ。父さんビックリ』
親父は、魔神像に叩きつけられ、それにもたれるように座り込んでいた。
四肢は脱力し投げ出され、しかし、そんな状態でも親父は笑っていた。
『当たり前だよ。オレと親父じゃ、背負ってる物の重さが、支えてくれる人の想いが違う』
『ふふ、そんな精神論にしてやられた事にもビックリだよ』
親父からは覇気を感じず、オレのよく知る、親父の姿がそこにはあった。
けれど、油断はしない。それで何度も、失敗しているのだから。
『ああ、そうさ。そして、オレの勝ちだよ、親父』
油断はしていなかった。
だから、その一言で親父が黙りこくった事に大きな驚きは無かった。
『…………君の、勝ち?』
『ああ、そうだ』
『くふふ、あははは! バカを言っちゃ行けないよ! 僕は言ったハズだ! どちらかが死んで、それを贄として、どちらかが完全なる魔神となるまでが戦いだって!』
『それはアンタの勝利条件だ! オレは違う!』
『君の勝利条件はなんだい? 僕を止めること? だったらそれは不可能だよ! 永遠に!』
『そんなこと!』
『あるさ! それとも君は何か? 言葉を尽くして、自分の考えを押し付けて、相手ぶん殴れば、それで万事解決だとおもったのかい!?』
―――それはあまりに浅慮で短慮だよ、カルマくん。
そう言って、親父は笑った。オレの考えを甘いと、持論の押し付けだと、嘲笑った。
『…………』
『確かに君の言葉は正しかったさ! 人として、とてもとても正しかった! それは、僕の記憶が教えてくれる!
でもね、屍魔人であり魔神の卵である僕には意味の無いことだよ!』
―――そして、だからこそ。
と、彼は言葉を繋いだ。
『僕は勝利する!』
そう高らかに彼が叫んだ途端、魔神像から、そこに埋められた神谷の器から、莫大な魔力が溢れ出す。
『さあ、これで万の魂は満たされた! これで魔神は復活する!』
『なんだと!? どういうことだ、親父!』
魔神が復活するために、オレの、屍魔人の力が必要だと言っていた。
なのに、
『カルマくん。確かに魔神の復活には、僕と君、屍魔人同士の戦いと、そのどちらかの贄が必要だった。でもね、それは最善策なんだ。
となれば、次善策、次々善策を用意するのも、当然じゃないかい?』
『次善策、だと?』
『万の魂を使った、強引な荒業だけどね』
『万……!? アンタは、そんなに人間を!?』
『おっとカルマくん、そう昂るなよ。それにいいかい? なぜ君は、人間と魔人の魂が違うと言うんだい?』
『っ! そういう…………っ』
魔人は、人間の魂の成れの果て。ならば、その根本は同じもの。
そして、オレ達はついさっきまで…………。
『この戦争はただの戦争なんかじゃない。この為の保険であり、布石なのさ。この戦いで、どれだけの魔人が、人魔が、神騎が死んだと思う? そして、ここに張られた結界は、何の為だったと思う?』
楽しそうに、親父はイタズラのネタばらしをする子供のように無邪気に笑いながら、真実を語っていく。
『そもそも、どうしてここが君たちに伝わったと思う?』
『それは、アスカさんの密偵が…………』
『この地に縁の強い君たちですら気づかなかったのに?』
つまり、オレ達は嵌められたのだ。すべては親父の掌の上。見つけ出した一条の光も、一縷の希望も、全て親父のシナリオ通りだったわけだ。
『感謝するよ、カルマくん。見事に足掻いてくれて。そして、この高みまで昇って来てくれて』
感慨深げに、親父は目を瞑る。
そして開いたその眼には、何かをやりとげた時の、いわゆる達成感の光に満ちていた。
親父が凭れかけている場所から、少しずつ魔神像に皹が広がり始める。
―――これで、
その皹はみるみる間に広がっていき、遂に魔神像全体に皹が入った。
『これで僕は、息子を殺さずに未練を果たせる!』
そして、鉄砲水が如く溢れたその魔力に、親父が飲み込まれ…………。
『さぁ、カルマくん! 魔神の降臨だ!』
そのすべてが、親父に取り込まれたのだった。
え?最終回まで? あ、あともう少しだけ、ね? もう少しだけだから!
ちなみに、息子vs親父の戦いが決着って訳で、来週は神とドンパチ…………か、勝てる気がしねぇ…………




