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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:27 ふたり

どうやらバトルは来週に持ち越しのようです。

 

「嫌だ!」


 即答した。当然だ。


「嫌に決まってるだろ! ふざけたこと言うなよ!」

「ふざけてなんかいない。私は、至って真面目に言っているんだ」

「なんで、何でそんなこと…………」


 マルカを喰う。

 確かにそうすれば、現状を打開できるかもしれない。傷も塞がって、力を得られるかもしれない。

 でもそれはつまり、マルカを失うと言うことだ。

 決して短くない時を、家族として、兄妹として共に過ごした半身を。


「カルマ。お前が止まれば、お前が倒れれば、あいつらはどうなる? その背に背負っている想いは、どうなる?」

「――っ」


 マルカは膝をつくオレに、視線を会わせる。


「止まることなど、私達には許されない。倒れることなど、認められていない。今、お前に出来るのは、立ち上がって前を向くこと。その拳を握る事」

「オレに、出来ること…………」

「そして私に出来ることは、我が兄を、我が半身(あいぼう)を、全霊を持って支えることだ」


 その言葉は優しく、厳しく、決意に彩られた、励ましの言葉。


「まだ手はある。膝を着くのはまだ早い。下を向くのも、まだ早い。

 止めるのだろう? 帰るのだろう? なら、覚悟を決めろ、カルマ!」


 親父はまた、こちらを見ているだけだ。なにもしてこない。

 親父は、あの力を手に入れるために、沢山の物を捨てていた。


「お前は、人間か?」

「………いいや、化物だ」

「お前は、生者か?」

「………いいや、死者だ」


 あの力を手に入れるために、オレも心を、沢山の物を捨てろと言うのか?


「それならお前の心は、何だ?」


 オレの心…………?


「お前の心は化物か?」


 …………違う。


「お前の心は死者か?」


 ………違う。


「お前の心は、力に飲まれるのか?」


 オレの、心は…………オレは!


「人間だ。オレは人間の心を持った、化物だ」

「そうだ。確かに私たちは化物だ。だが、人の心を知っている。人の心を、まだ持っている。そして、力に飲まれる程、柔ではないだろう?」


 マルカはオレの両肩に手をのせる。


「シンは、アイツは、力に飲まれた。力に飲まれて心を捨てて、そして今、あそこにいる」

「親父………」

「だが、お前は違うだろう?」

「………でも、お前が」


 その時、パンッと言う音が響いた。

 それは、まだ弱音を言い募ろうとするオレの頬を、マルカの両手が勢いよく挟んだ音だ。

 両手でオレの顔を押さえたまま、彼女は顔を近づける。


「うだうだうだうだと、ええい情けない!

 いい加減に腹を括れ、カルマよ! お前は、諦めぬのだろう? 願いを、背負った物を、待っている者達を! ならば、何を躊躇う!」

「だって、お前が消えるんだぞ!」

「一つから別れた二つが、また一つに戻るだけだろうが!」


 確かに、形だけを見たらそうだ。その通りだ。でも、そうじゃないんだ。


「お前がいなくなったら、嫌なんだよ! マルカ! お前は、ずっと隣にいてくれた! 誰よりも、隣に!」

「当たり前だ、私は分身体なのだから」

「だから、お前がいなくなったら、オレは…………」


 声が小さくなり、萎んでいく。

 ふと、頭が暖かいもので包み込まれる。


 マルカが、俯いたオレを、抱き締めていた。


「人は、一人で生きれても、独りでは寂しい。その事を、私たちは知っている」

「ああ……」

「だけど、お前はもう、独りではないだろう? お前の周りには、沢山の顔があるハズだ。もう、寂しくないはずだ」


 優しく、ゆっくりと、まるで彼女自身に言い聞かせるように、マルカは言葉を紡ぐ。


「それに、二度と会えない訳じゃない。むしろ、私たちは一つに戻る。ならば、ずっと一緒だ。

 …………ふふ、もしかしたら、ヒナタよりも一緒かもな?」


 冗談めかしてそう括った彼女は、オレの頭を離す。

 彼女はもう、一歩も譲らない気だ。分かってる。マルカの言うことが正しくて、オレが言ってるのはただの我儘だって、頭では分かってるんだ。


 瞼を落とせば、マルカと共に過ごした数年の事が、次々と思い出せる。


 ―――大丈夫だ。


 一度にこれだけ思い出せるのなら、オレはマルカを忘れない。

 喧嘩した事も、からかった事も、からかわれた事も、叱られた事も、笑い合った事も、泣いた事も、励まし励まされた事も―――――共に生きて、共に戦っていた日々の事を、オレはちゃんと覚えてる。ちゃんと、この胸にある。


 ―――だから、大丈夫だ。


 マルカが、妹が、腹を括ったんだ。

 それなのに、(オレ)がビビっててどうするよ。


「覚悟は決まったか、カルマ?」

「ああ、いつでも来い」

「では、行くぞ」


 マルカの顔が近づいてきて、そして―――


 ――――――――。


 一瞬、時が止まった気がした。


 二人の唇が離れるまで、(なが)い一瞬だった。


「…………マルカ」


 理由は問わない。


「この姿でお前と会うのは、これが最後だからな。許せ」


 マルカは、泣いている。

 多分オレも、泣いている。


「じゃあ今度こそ行くぜ?」

「私の頭に手を」


 言われるがままに、手をのせる。


 マルカの体から、光が溢れだす。

 その光は段々と強くなり、そして、


「去らばだ、カルマ。我が愚兄」

「あばよ、マルカ。オレの愚妹」




 オレの手に、赤い宝玉が握られた――――。




「―――――征くぜ、相棒」





 今度こそ、届かせる為に!

 

シンが動かないのは、わざとです。決して存在を忘れているとかではありませんよ?



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