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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:26 至る者

ラスボスの形態変化は王道だと思います。

 

「なぜ、僕ら屍魔人(しかばね)には、肉体があると思う? そしてなぜ、こんな弱点だらけの屍魔人(しかばね)が、最高傑作なんだと思う?」


 親父は問う。いや、語る。まるで演説でもするように、こちらの答えを聞かずに話を進める。

 …………もっとも、答えられるような状態ではないが。


「その答えを、今から見せて上げる」


 トガナさんが、親父の前に立つと、親父は彼女の胸に手を翳す。

 すると、彼女の全身が、赤い光に包まれる。


「なに、を………?」


 見る間に彼女は光に飲み込まれて、消えた。

 そして、親父の翳した手には、ビー玉サイズの赤い宝玉、魔人の核が収まっていた。


「っ! シン! 何をする気だ!」


 マルカが叫ぶが、聞く耳を持たない親父は、その宝玉を口に放り込み――――



 ―――そして噛み砕く。


「なっ………!?」


 マルカが驚きの声をあげる。


 宝玉が砕かれた瞬間、そこから、尋常では無い量の魔力が溢れ出す。


「魔人の核。特に、自らの分身の核を物理的に喰うことで、僕らは、更なる力を獲られる!」



 詠唱が、始まる。


「【ゆらり、ゆらり】【神は揺蕩する】

 【ふらり、ふらり】【(ぼく)は彷徨する】

 【くらり、くらり】【(からだ)は崩潰する】

 【魔よ、我が身を喰らいたまへ】【神よ、我が身を使いたまへ】

 【我こそは人柱】【我こそは供物】【我こそは依代】

 【故に、我に、魔神(アスラ)の力を!】」


 赤い魔力が黒ずみ、親父を包み込み始める。

 

 それを待っていたかのように、親父は高らかに叫んだ。

 その一言を。




「【魔神変駆(アスラ・トランス)】!」




 魔力が一度膨らみ、そして凝縮される。

 親父の姿が変わる。

 これまでの、灰髪に赤黒い甲殻、赤黒い瞳だった姿が、純白の髪に、黒い甲殻、赤い瞳へと。

 その背に翼が生え、甲殻の形も変わり、親父は浮かび上がる。


魔神(アスラ)………?」

『そうさカルマくん! これは魔神(アスラ)の姿。魔神(アスラ)の力!』


 莫大な魔力をその身に纏い、空を飛ぶ親父は、興奮した口調で続ける。


『これが、この姿こそが! 化物(ぼく)が、屍魔人(ぼくら)のみが辿り着ける、魔人の最終段階(いただき)なんだ!』

「頂き、だと?」


 ―――なんだそれは。ふざけるな。


 そう思った。怒りと共に、そんな思いが、胸中を埋め尽くした。


「カルマ?」

「肩を貸せ、マルカ」

「だが、その傷では………」

「いまさら、こんな傷がなんだ………これまでも、怪我はしただろう? それにそんなことを言っていられる状況じゃねえ」


 マルカに肩を貸してもらい、何とか立ち上がる。

 そして、前を見据える。


「母さんと会うために、願いを果たすために、魔神(ちから)を求めて、人を殺して、友を裏切って、家族を騙して、あまつさえ、人間(じぶん)をも殺して、あんたは満足かよ! それで母さんと会って、あんたはそれで、満足なのかよ!」


『くどいよ、カルマくん。僕は―――』


「オレが言いたいのはそう言うことじゃねぇ! 巻き込むなよ! 自分の身勝手(ねがい)に、他人を、関係の無い人達を巻き込むなよ!」


『何を言っているんだい? 君だって巻き込んでるじゃないか。そもそも、無関係な人なんて、いないじゃないか』


「いただろ! 沢山! 神谷の核に、その『器』に蓄えられてる魂は、どっから持ってきたよ! それは、あんたの願いに関係の無い、なにも知らない人達だろ!

 それに、オレは無理やり巻き込んだ訳じゃねえ」


 息を深く吸い込む。痛みも感じるし、体に力は入らないが、それはこの、胸の奥から込み上げて来るものを抑える理由にはならない。


未練(ねがい)は、誰かを犠牲にして良いものじゃない。ましてや、無関係な、生者(にんげん)を犠牲にするなんて、もっての外だ!

 死者(じぶん)未練(ねがい)は、死者(じぶん)で果たせよ」


 綺麗事だと罵られようと、詭弁だと流されようと、子供の駄々だと笑われようと、オレはそう考えるし、そう叫ぶ。

 魔人(オレたち)は死者だ。本来なら、もうこの世に存在しない存在。

 だからこそ、人間を、生者を巻き込んではいけないのだ。

 もはや住む世界が、理が違うのだから。


 だけど、それ以上に許せないのは、


「なんで、一番初めに、こんなことになる前に言ってくれなかったんだよ…………」

『言ったら君は、止めるじゃないか』

「当たり前だ! だけど、言ってくれたら、一緒に考えた! 少なくとも、親父と戦わなくて済んだんだ!」


 結局、親父は誰も信用していないのだ。友人(アスカさん)も、家族(オレ)も、親父自身でさえも。


「止められねぇのかよ、オレには…………力不足なのかよ、オレは」


 止められる気配の無い親父を前に、オレは項垂れる。腹に開いた穴は、魔力で血を止めたものの塞がる気配は無く、体力も、気力も、魔力もほとんど残っていない。

 こんな状態で、どう止めろと言うのだ。


「まだ、手はあるぞ、カルマ」


 そんなオレに、マルカの言葉が届く。

 そこには、慈しみと、決意と、ほんの少しの悲しみが含まれているような気がした。


「マルカ?」


 ―――その理由は、何となく解る。


「たった一つ、お前の傷を塞いで、尚且つ、シンに届きうる力を得る方法が」


 ―――だから、その先を言わせてはいけない。




「私を喰え、カルマ」


 彼女は、ハッキリとそう言った。

彼らの戦いはまだまだ続く!(フラグ)

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