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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第一章 追憶
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Recllection:6 医師の薬

少しペースを上げようかと思います。



 私は、部活の帰り道、『昼間は一緒に戦えなかったから、逃げた魔人は自分達が探す!』とかなんとか、勝手な事いって飛び出していった、マネージャーのサナちゃんと、佐伯部長の事を考えていた。


「大丈夫かなぁ、二人とも」


 まぁ、心配無いか。と、少しの不安を拭い去る。

 その時、路地裏の方から物音が聞こえた気がした。


「カルマ! しっかりしろ、カルマ!」


 マルカちゃんの声だ! まさか、カルくんに何かあったの?

 私が急いで声のする方へ足を向けるとそこには、血まみれで倒れるカルくんと、青ざめた顔で彼の体を揺するマルカちゃんの姿があった。


「か、カルくん!?」


 ついそう呼んでしまった事にも気付かず、私は慌てて彼の所へ駆け寄る。

 彼は昼間、どういう訳か、魔人に襲われているのだ。もしかしたら、また襲われたのかも知れない。


「ま、マルカちゃん、これは、一体……」

「朝霧さん………兄さんは………」


 彼女は歯切れ悪く茶を濁し、とても言いづらそうに目を伏せる。そこから私は、言えない事情があることを察した。


「と、とりあえず病院に連絡を…」

「ダメだ!」


 私が携帯を取り出そうとした時、マルカちゃんは私の腕にしがみつき、縋るように、懇願するようにこちらを見つめる。


「病院は……病院だけは、ダメ……あそこに行ったら、カルマは、兄さんは……」


 その表情はあまりに悲痛で、とても辛そうだった。


「じゃ、じゃあどうすれば……」

「私達の家に……今日は、兄さんの主治医が来てくれますから」


 主治医。その言葉に、私は一抹の不安と、最悪の展開を想像してしまうのを禁じ得なかった。


「わ、わかった」


 そういって、彼を背負う。これでも神騎だし、部活で鍛えられているから、長身で筋肉質でも、細身な彼くらいなら持ち上げられる筈だ。

 しかし、私が彼を背負ったとき感じたのは、拍子抜けしてしまう程に軽い重さだった。


 ―――軽い。


 それは、とてつもなく異質な軽さだった。

 いくら細身とはいえ、その背は高く、躰には絞られ引き締まった筋肉がついている。それでも、彼は軽かったのだ。

 恐らく、五十キロも無いはずだ。


「大丈夫ですよ、朝霧さん」


 唐突に、横から聞こえた声の主に、私は顔を向ける。

 その表情は、先ほどの悲痛さを未だ残しているものの、何かに耐えている様な彼女の姿だった。


「……うん」


 そんな彼女に、私はそう返す事しか出来なかった。




◆◆◆




「そこの角を曲がった先が今の私達の家です」


 なんとか、カルくんの止血を済ませ、マルカちゃんに道案内されて辿り着いたのは、二階建ての、学生二人には大きすぎる一軒家だった。


「………マルカちゃん」

「何でしょう?」

「大きくない?」

「大きいですね」

「私んちより大きいんですけど」

「あらま…」


 そんな会話をしながら歩いていると、向こうから一人の男性が駆けてくる。

 痩せ型で、少々くたびれた白衣を纏う、医師然とした男は、私達を見ると、声を上げた。


「ああ、間に合った間に合った。ああ、良かっ………良くなかった! か、カルマ君! どどどどうしたんだい!?」

「落ち着いて下さいよ、松岡医師(せんせい)

医師(せんせい)?」

「兄さんの主治医ですよ」

「どうも。僕は医者の松岡(マツオカ)飛鳥(アスカ)です。お嬢さんのお名前は……と、行きたい所ですが、そうも行きませんね」

「ええ、中に入って下さい。朝霧さんは兄さんを部屋までお願いします。私は先生とお話がありますので」

「わかったわ」

「お願いします。部屋は二階の一番奥です」


 彼女の言葉に頷いた私は、二階への階段を上った。



◆◆◆



 ヒナタが階段を上がって行くのを見届けた後、私は松岡に向き直る。


「マルカ君、良いのかい? 彼女にそんなに関わっても」

「巻き込みはしないさ」

「そう言う事じゃない。僕はこれでも気配感知が得意でね。彼女、神騎だろう?」

「そう…だな」

「所詮は相容れない存在なのさ、僕らは。

 辛いだろうね、彼は。そして、いつか真実を知ってしまう彼女も」


 確かに辛いだろう。しかし、そんな事は判っていた(・・・・・)。カルマの分身(・・)たる私には、判っていた。

 だが、それでも……。


「それよりもアスカ、薬は?」

「ちゃんとあるよ。何のために来たと思っているんだい?」


 そういって、彼はカバンから薬を取り出す。


「まったく、コレを造るのはかなり骨なんだからね。もう少し大切に使ってよ、この『魂魄安定剤』」

「しかし、カルマの魔人化の浸食は、予想以上に早い。量を増やすか、あるいは……」

「はぁ、いずれにしても、そう時間は残って無いだろうね。持って精々1、2年って所か」

「1年、か……」


 私は、その残された時間の間に、やらねばならぬ、しかし、どれほど時間がかかるか想像すらできない目的を思い浮かべ、ため息を着いた。





次回は12/14(土)午前6時に更新予定です。

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