Conclusion:25 親父の心
続く続く、まだまだ続く…………
体が修復された。それはつまり、いよいよもってオレの体が魔人に近づいたということだ。
肉体を持たない魔人だからこそ、修復を行うことが出来る。この魔力を解放したとき、きっとこうなることを本能的に感じていたから、オレは無意識にこの魔力を押さえていたのだろう。
『それが君の未練か、カルマくん』
『ああ、オレはヒナタと共に在りたかった。それがオレの未練で、共に在ることが、オレの願いだ! だから親父、あんたのやってることは、なんとしてでも止める』
『なぜだい? 僕の未練が果たされた所で、君の願いが消えるわけでは無いだろう?』
『親父の未練が叶ったら、オレが消えちまうだろうが!
…………それに、ヒナタにはもう、戦って欲しくないんだ。そのために、戦いの根元をオレは止める!』
弾けるようにオレは前にでる。膨大な魔力によって無理やり引き上げられた身体能力は、先程までの比では無い。
親父の礫攻撃が飛来するが、それを砕き、躱し、接近する。
『らあっ!』
『つっ!』
拳はいなされ、蹴りが来る。それを蹴り足で防ぎ、体を回転させ、もう片方の足で蹴る。それを受け止めた親父は、オレを投げる。
『惜しかったね。今の1合で、冥道の力を使っていれば、確実に僕を仕留められた』
『オレは―――』
『止めるだとか、倒すだとか、そんな甘ったれた言葉を使うな。はっきり言いなよ、僕を―――殺すと!』
ここに来て、肉弾戦が繰り広げられる。
『違う! オレは本当にあんたを殺したくないんだ!』
『生ぬるい! 今この期に及んで、まだそんなことを言うのかい、君は!』
『言ってやる! 何度でも言ってやる!
確かにオレは親父、あんたが憎い! オレの恩人を裏切り、オレの友達を殺し、オレ達を欺いた!』
『ほら! 君には、僕を殺す理由が揃っている!』
親父の攻撃の激しさが増す。これまでのどんな相手よりも、速く、鋭く、重い攻撃群だ。辛うじて反応は出来るものの、気を抜けば、一撃で殺られる。
『最後まで聞けよ、クソ親父ぃ!』
それでも、前に出る。
この声を、言葉を、親父に、この男に届けるために。
『確かに憎いさ! 何度も殺したいと思った! でも、違うんだ、それじゃダメなんだ!』
『なにがさ! 憎しみの連鎖とか、そんな話を聞くつもりは無いよ!』
『あんたは! だってあんたは――――っ!』
嵐のような攻撃群に、体を打たれる。元々、体はボロボロだった。この戦いで、疲れも溜まった。親父との戦いで、あちこちガタが来てる。
―――それでも
何とか、親父の二の腕を取る。こうすれば、そう簡単には攻撃は出来ない。
『あんたは、オレに遺された―――
―――たった一人の、親父じゃないか………っ!』
『―――――っ!』
叫んだ。
家族への、想いを。親父への、気持ちを。
『分身であるマルカとは違う、大切なヒナタや、幼馴染みのルルとも違う、血を分けた、この世にたった一人遺された、家族なんだ、親父なんだ!
…………殺せるワケ、ねぇだろ。どこの世界に、親父を簡単に殺せる息子がいるってんだ』
『…………だけど、僕は』
『親父がどんなに罪を重ねても、どんなに外道でも、この17年を共に過ごして来た、かけ代えの無い親父なんだ』
―――だから、もう
顔を露にする。多分きっと、オレの顔は情けない表情をしているはずだ。
『もう、止めてくれ、親父。母さんが喜ばないって、あんたはもう知ってるハズだろ? だったら止めてくれよ、親父…………』
『カルマくん…………』
親父の肩にすがり付き、涙を流すオレの頭に、そっと手を置いた親父は、そのままオレの頭を撫でる。
ああ、そうだ。子供の頃、オレが泣いたら、親父はいつもこうしてくれた。そんで、次の日くらいにその事で弄って来るんだ。
また、あの日の親子に戻れるだろうか…………―――――
『やっぱ、無理』
腹部に、強い衝撃を受ける。
『え…………? ぐふっ!』
初めは、何が起きたのか理解できなかった。
けれど、口から血が溢れ、腹と背中に鋭い痛みと鈍い熱を感じ、その感覚が徐々に入れ替わっていくのを感じながら、オレは腹部を見る。
――――親父の腕が、オレの腹を突き破っていた。
『ごぶっ………がっ!』
勢いよく腕が引き抜かれ、支えを失ったオレは、その場に崩れ落ちる。
『親……父………?』
『無理だよ、カルマくん。言ったでしょ? 僕にはもう、人間の部分は残ってない。あるのは、彼女への思慕のみ。いくら息子が情に訴えても、もう僕には届かない』
何を言われているのか、理解できなかった。
本来なら死んでも可笑しくない程のダメージを受けたせいで、無意識に変駆が解かれる。
「カルマ、カルマ!」
即座に、マルカがオレに駆け寄る。よく見れば、マルカも傷だらけだ。
―――そこに届くまで、ダメージを受けていたのか。
『くっくくく、あっはははははは!』
親父は嗤う。自分とオレの血に濡れながら、人間味を無くした嗤い声をあげる。
「なんで、そこまで…………」
―――人間を、亡くしてしまったんだ
「親父ぃ………」
朦朧とした意識に抗い、焼き付くような痛みに耐え、失血による寒気を無視して、体を動かそうとする。
「止めろカルマ! 動くな! 死んでしまう! お前が、死んでしまう!」
マルカが泣きじゃくりながら、オレを止めようとする。
「親父を……止めなきゃ、いけねぇ………んだ」
「でも、これ以上は…………」
その時不意に、親父の狂笑が止まる。
そして、オレの方を向いて、何とも楽しそうな声で語りかける。
『さあ、カルマくん。魔神を呼ぶ儀式の、最終段階だ。よく、見ておくんだよ?』
そう言って、親父は変駆を解除する。
「いくよ、トガナ」
「Sim o meu mestre」
そして、唱える。
―――神へと至る、その一言を
今日の一言
「希望とは砕かれるもの(無慈悲)」




