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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:25 親父の心

続く続く、まだまだ続く…………


 

 体が修復された。それはつまり、いよいよもってオレの体が魔人に近づいたということだ。

 肉体を持たない魔人だからこそ、修復を行うことが出来る。この魔力を解放したとき、きっとこうなることを本能的に感じていたから、オレは無意識にこの魔力を押さえていたのだろう。


『それが君の未練(ねがい)か、カルマくん』

『ああ、オレはヒナタと共に在りたかった。それがオレの未練で、共に在ることが、オレの願いだ! だから親父、あんたのやってることは、なんとしてでも止める』

『なぜだい? 僕の未練(ねがい)が果たされた所で、君の願いが消えるわけでは無いだろう?』

『親父の未練(ねがい)が叶ったら、オレが消えちまうだろうが! 

 …………それに、ヒナタにはもう、戦って欲しくないんだ。そのために、戦いの根元をオレは止める!』


 弾けるようにオレは前にでる。膨大な魔力によって無理やり引き上げられた身体能力は、先程までの比では無い。

 親父の礫攻撃が飛来するが、それを砕き、躱し、接近する。


『らあっ!』

『つっ!』


 拳はいなされ、蹴りが来る。それを蹴り足で防ぎ、体を回転させ、もう片方の足で蹴る。それを受け止めた親父は、オレを投げる。


『惜しかったね。今の1合で、冥道の力を使っていれば、確実に僕を仕留められた』

『オレは―――』

『止めるだとか、倒すだとか、そんな甘ったれた言葉を使うな。はっきり言いなよ、僕を―――殺すと!』


 ここに来て、肉弾戦が繰り広げられる。


『違う! オレは本当にあんたを殺したくないんだ!』

『生ぬるい! 今この期に及んで、まだそんなことを言うのかい、君は!』

『言ってやる! 何度でも言ってやる!

 確かにオレは親父、あんたが憎い! オレの恩人を裏切り、オレの友達を殺し、オレ達を欺いた!』

『ほら! 君には、僕を殺す理由が揃っている!』


 親父の攻撃の激しさが増す。これまでのどんな相手よりも、速く、鋭く、重い攻撃群だ。辛うじて反応は出来るものの、気を抜けば、一撃で()られる。

 

『最後まで聞けよ、クソ親父ぃ!』


 それでも、前に出る。

 この声を、言葉を、親父に、この男に届けるために。


『確かに憎いさ! 何度も殺したいと思った! でも、違うんだ、それじゃダメなんだ!』

『なにがさ! 憎しみの連鎖とか、そんな話を聞くつもりは無いよ!』

『あんたは! だってあんたは――――っ!』


 嵐のような攻撃群に、体を打たれる。元々、体はボロボロだった。この戦いで、疲れも溜まった。親父との戦いで、あちこちガタが来てる。


 ―――それでも


 何とか、親父の二の腕を取る。こうすれば、そう簡単には攻撃は出来ない。


『あんたは、オレに遺された―――



 ―――たった一人の、親父(かぞく)じゃないか………っ!』



『―――――っ!』


 叫んだ。

 家族への、想いを。親父への、気持ちを。


『分身であるマルカとは違う、大切なヒナタや、幼馴染みのルルとも違う、血を分けた、この世にたった一人遺された、家族なんだ、親父なんだ!

 …………殺せるワケ、ねぇだろ。どこの世界に、親父を簡単に殺せる息子がいるってんだ』

『…………だけど、僕は』

『親父がどんなに罪を重ねても、どんなに外道でも、この17年を共に過ごして来た、かけ代えの無い親父なんだ』


 ―――だから、もう


 顔を露にする。多分きっと、オレの顔は情けない表情をしているはずだ。


『もう、止めてくれ、親父。母さんが喜ばないって、あんたはもう知ってるハズだろ? だったら止めてくれよ、親父…………』

『カルマくん…………』


 親父の肩にすがり付き、涙を流すオレの頭に、そっと手を置いた親父は、そのままオレの頭を撫でる。


 ああ、そうだ。子供の頃、オレが泣いたら、親父はいつもこうしてくれた。そんで、次の日くらいにその事で弄って来るんだ。


 また、あの日の親子(オレたち)に戻れるだろうか…………―――――







『やっぱ、無理』


 腹部に、強い衝撃を受ける。


『え…………? ぐふっ!』


 初めは、何が起きたのか理解できなかった。

 けれど、口から血が溢れ、腹と背中に鋭い痛みと鈍い熱を感じ、その感覚が徐々に入れ替わっていくのを感じながら、オレは腹部を見る。



 ――――親父の腕が、オレの腹を突き破っていた。


『ごぶっ………がっ!』


 勢いよく腕が引き抜かれ、支えを失ったオレは、その場に崩れ落ちる。


『親……父………?』

『無理だよ、カルマくん。言ったでしょ? 僕にはもう、人間の部分は残ってない。あるのは、彼女への思慕のみ。いくら息子(きみ)が情に訴えても、もう僕には届かない』


 何を言われているのか、理解できなかった。

 本来なら死んでも可笑しくない程のダメージを受けたせいで、無意識に変駆が解かれる。 


「カルマ、カルマ!」


 即座に、マルカがオレに駆け寄る。よく見れば、マルカも傷だらけだ。


 ―――そこに届くまで、ダメージを受けていたのか。


『くっくくく、あっはははははは!』


 親父は嗤う。自分とオレの血に濡れながら、人間味を無くした嗤い声をあげる。


「なんで、そこまで…………」


 ―――人間(じぶん)を、亡くしてしまったんだ


「親父ぃ………」


 朦朧とした意識に抗い、焼き付くような痛みに耐え、失血による寒気を無視して、体を動かそうとする。


「止めろカルマ! 動くな! 死んでしまう! お前が、死んでしまう!」


 マルカが泣きじゃくりながら、オレを止めようとする。


「親父を……止めなきゃ、いけねぇ………んだ」

「でも、これ以上は…………」


 その時不意に、親父の狂笑が止まる。

 そして、オレの方を向いて、何とも楽しそうな声で語りかける。


『さあ、カルマくん。魔神(アスラ)を呼ぶ儀式の、最終段階だ。よく、見ておくんだよ?』


 そう言って、親父は変駆を解除する。


「いくよ、トガナ」

「Sim o meu mestre」


 そして、唱える。





 ―――神へと至る、その一言を

今日の一言

「希望とは砕かれるもの(無慈悲)」




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