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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:24 絶望に輝く希望

終わりそうで終わらない事に作者自身がビックリしてるこの現状

『じゃあ、僕の番だね』


 親父の魔力が、この空間を覆い尽くす。

 その魔力は、密度も濃さも桁違いだ。


『【浮遊(フロート)】』


 親父の腕の動きに合わせて、瓦礫が宙に浮き始める。

 …………これはまだ、次の動きが予想できた。


『【突撃(アタック)】』


 浮いた瓦礫は、弾丸の如くオレを襲う。


『こんなもの!』


 たかが瓦礫の5つや6つ、砕くのは容易い。どうせ避けても追ってくるのだ。ここで砕いて落とすのが最善だろう。

 …………だから、次が予想できなかったんだ。


『まだだよ、カルマくん』


 砕いて散り、落ちるはずだった破片が、再び浮き上がり、襲い来る。


『なっ!?』

『砕かれて小さくなった破片は、軽くなり速度を増し、鋭くなり殺傷力を増す!』

『がぁぁあ!』


 破片の尖った部分が、オレの体を抉り、突き立っていく。

 精密にして強力な攻撃。

 強い。強すぎる…………オレは、勝てるのだろうか?


『っらあああ!』


 弱音を振り払うように、オレはがむしゃらに突っ込む。だが、自覚できるほどに整合性を欠いた攻撃は、容易く弾かれる。


『【斥力障壁(リパルション)】!』

『ぐぁ!』

『最初の勢いはどこへ行ったんだい? カルマくん』


 オレの前に立つ親父は、構えをとってすらいない。つまり、それだけの余裕があると言うわけだ。

 もしそれが、慢心や油断と言うようなものなら、そこに付け入る隙もあるだろう。

 だが、親父には無い。

 ただただ本当に、オレと親父の実力差が大きく開いているのだ。


『カルマくん、君は未熟だ。未熟すぎる』


 親父が、ため息と共にそう呟く。


『君は未熟だよ。何も持っていない。

 君は急ぎすぎたんだ、何もかもが。日本(ここ)に来るのも、彼らと出会うのも―――――この戦いすらも』

『なん…………』

『僕はね、君が動きさえしなければ、君が日本に行きさえしなければ、僕らはまだポルトガルにいて、こんな計画はまだ動いていなかった。あと1、2年待っていても良かったんだよ』


 1、2年? そんなに待ってられない。

 その間に、オレは死んでしまう!


『そんなに待ってたら、時間が!』

『嘘だね』


 しかし、オレの反論はアッサリと切り捨てられる。


『嘘じゃねぇ! そんなに待ってたら、オレは―――』

『死んでしまう?』

『―――っ。…………ああ、そうだよ』


 オレのその返答に、クックッ、と親父は笑う。


『…………何がおかしい』

『え? ああ、君は知らないのか?』

『何をだよ』

『そうかぁ、知らないのかぁ』


 親父は上を仰ぎ見る。


『だから、そんなに弱いのか』

『なんだと?』

『君は未熟なんかじゃなかったよ。君は、未完成なんだ』


 意味ありげに呟かれたその言葉を、オレは理解できなかった。


『…………つまり、どういう事だよ』


 だから、オレは問いかけた。その言葉の意味を。


 ―――この時オレは多分、親父が言葉で答えてくれることを期待していたのだろう。

 

『つまりは―――こういうことさ!』


 だから、親父の動きを見切れなかった。


『未完成だから、君は弱い!』


 まるで瞬間移動とでも言うかのような速度で接近した親父の、その速度がそのまま乗った蹴りを、録なガードも出来ずに腹に受けたオレは、勢いよく吹き飛ばされる。


『がふ…………っ!?』


 一瞬何が起きたのか理解できず、遅れて腹の底から溢れてくる血を吐き出して、ようやく理解する。


『なんて、速度だよ…………ごふっ』

『カルマ、大丈夫か!?』

『あんまり、ヨロシクねぇな』


 ―――多分、肋の2、3本は逝ったはず。激痛で息が乱れる。

 吐き出した血は黒ずんで、赤黒く変色していた。

 本来血液は、赤い血が流れ、酸化されて黒くなる。でも、オレ達屍魔人(しかばね)の血は、この色だ。

 おそらく、人間の血に魔人に魔力が染み込んだ結果だろう。


『わかるかい? カルマくん。僕も君も屍魔人(しかばね)だ。それなのになぜ、ここまでの差があるのか』

『…………経験値、だけじゃ無さそうだな』

『ふふ、君がタフで賢しくて、父さんは嬉しいよ。そう、経験値だけじゃないさ。言ったろう? 君はまだまだ未完成なんだって』


 また、蹴りが迫り来る。

 今度は親父の手加減か、はたまた慣れたのか、かろうじてそれを躱す事に成功する。


『どういう意味だよ』

『言葉のまんまさ』

『何に未完成なんだって聞いてんだ!』


 放った拳は、容易くいなされ、再び腹に、今度は膝を食らう。


『ごぶっ!』


 口と鼻から、大量の血が溢れる。


『カルマ、カルマぁ!』


 マルカの悲壮な声が聞こえる。


 ―――こんな姿、ヒナタには見せられねぇな。


 朦朧とした意識のせいか、そんな場違いな思考が浮かんでくる。


 倒れ伏し、動けないオレの頭を持ち上げ、親父は言う。


『君の血は、まだ少し赤い(・・・・・・)

『そ、れが…………どうし…………』

『それに対して僕の血は――』


 いきなり、親父は目の前で、自分の手の皮を噛み千切る。

 そこから流れたのは―――。


『真っ黒さ。人間らしさ(あかいろ)なんて何処にもない』


 そう。真っ黒な血だ。それも、コールタールのような、ドロリとした、見ていて気色の悪い黒。


『君はまだまだ人間らしさを遺している。だから、僕に劣る』

『オレ……は、人…間だ』

『いいや違う。君は人間じゃない。

 君も、僕も、彼女らも、彼らも、人間じゃない神騎だ魔人だ人魔だ屍魔人だ…………化物なんだ』


 淡々と、親父は語る。


『ただ少し、人間性を持った、人間(・・)だった(・・・)化物(・・)に過ぎないんだ』

『そんなこと…………っ!』


 そんなことあるハズが無い! オレは人間だ! 体は違っても、心は人間なんだ!


 そう必死に、自分に言い聞かせても、親父の言葉が鼓膜に焼き付き、心を揺さぶる。朦朧とした意識が、それを受け入れそうになる。


『カルマ! 気をしっかり持て! 飲まれるな!』


 マルカの声が、オレの意識を繋ぎ止める。


『…………ふざけんな、親父。オレは人間だ! 人間の、桐久保カルマだ!』


 喀血と共にそう叫ぶ。睨まれた親父は、微動だにせず、冷めた目でオレを見下ろす。


『まだ、堕ちないか。それならそれでいい。ただそれじゃあ、君は永遠に僕に敵わない』

『やってみなきゃ…………』

『わかるよ。そもそも、今の僕たちは、同じステージに立ってすらいないのだから』

『んだと? それはどういう意味だ』

『まずは、自分の未練(ねがい)を確認しなよ!』


 言葉の終わりと共に速く鋭い蹴りが飛んでくる。あと一度もらえば多分、オレは死ぬ。

 諦め。という言葉が脳裏を過った。



 ―――カルくん。



『――っ!』


 耳に甦った声は、オレの意識を叩き起こした。

 体が動いたのは無意識だった。蹴りを避けたのは、奇跡だった。


『ぉぉおお!【狩魔(ハンティング・イーヴィル)】!』


 蹴り抜いたその一瞬の隙を狙って、オレは拳を繰り出す。

 さしもの親父も、この状態のオレが動けるとは思わなかったのか、受け身が遅れ、後ずさる。


『つつ……まさか、この状況で動けるとは』

『約束が、あるんだ』

『諦めが悪いね。誰に似たんだか』

『へ、親父だよ』


 憎まれ口を叩くが、もう、体は動かないだろう。冥道を開く気力も無い。


『諦めるのか? カルマ。ならお前は今、何のために立った?』


 不意にマルカの問いが聞こえる。

 その言葉に答える前に、彼女は言葉を繋げる。

 その言葉はどこか不機嫌で、ぶっきらぼうで、優しくて、そして、希望を含んだ声音だった。


『だけど、もう体に力が入らねぇんだ。立ってるのがやっとで、拳もろくに握れねぇ』

『だが、まだ生きている』


 体はズタボロ、心は揺れ動く。

 そんな状態で、どう戦えばいいと言うのか。


『カルマ、お前の未練(ねがい)はなんだ』

『………魔人を………』

『違うな。それはお前の本当の未練(ねがい)じゃない。なぜならお前は―――屍魔人(しかばね)になって魔人の存在を知ったのだから』


 ………そうだった。オレは、そのあとに、今の願いを見つけた。

 なら、オレが屍魔人(しかばね)に成る原因となった未練(ねがい)はなんだ? オレは、何を望んだ?




 ―――ずっとずっと、一緒だよ?



 …………ああ、なんだ、簡単じゃないか。簡単すぎて、当然すぎて、だから気付かなかったのか。


『オレの、願いは、本当の未練(ねがい)は!』


 親父は、黙してこちらを見ている。その意図がありありとわかる以上、思う壺になるのは腹立たしいが、それでも、


『ヒナタと共に在りたい! ただ、それだけだ!』


 途端、体から、魔力が溢れ出る。いったいどこに、こんな魔力があったと言うのか。

 その魔力で、体の修復(・・)が少しだが行われる。


『これが、お前が持っていた、魔力だ。純粋な、魔人(イーヴィル)の魔力。魔人の力をおそれ、無意識のうちにお前が隠していた物だ』

『これが、本物の、魔力?』

 

 その問いに答えるように、マルカの声が続く。


『まだ、残っているだろう? まだ技が、魔力が――――想いが』

『…………っ!』


 そうだ、これでようやく…………


『あんたと戦える!』





 希望は見えた。

ふぁーーっ!

ここに来て今更ながらビックリ!

ポルトガル語で『影=ソンバー』だと思ってましたが、実はなんと『影=ソンブラ』だったと言う事実!


でも今更なので変える予定は無いのですが、これからは【影の太刀(エスパーダ・デ・ソンバー)】のことを脳内で【影の太刀(エスパーダ・デ・ソンブラ)】とでも変換しといてください(平伏)



作者の読み違いでご迷惑をおかけしました。

…………この調子だと、他のポルトガル語も間違ってそうだなぁ…………

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