Conclusion:24 絶望に輝く希望
終わりそうで終わらない事に作者自身がビックリしてるこの現状
『じゃあ、僕の番だね』
親父の魔力が、この空間を覆い尽くす。
その魔力は、密度も濃さも桁違いだ。
『【浮遊】』
親父の腕の動きに合わせて、瓦礫が宙に浮き始める。
…………これはまだ、次の動きが予想できた。
『【突撃】』
浮いた瓦礫は、弾丸の如くオレを襲う。
『こんなもの!』
たかが瓦礫の5つや6つ、砕くのは容易い。どうせ避けても追ってくるのだ。ここで砕いて落とすのが最善だろう。
…………だから、次が予想できなかったんだ。
『まだだよ、カルマくん』
砕いて散り、落ちるはずだった破片が、再び浮き上がり、襲い来る。
『なっ!?』
『砕かれて小さくなった破片は、軽くなり速度を増し、鋭くなり殺傷力を増す!』
『がぁぁあ!』
破片の尖った部分が、オレの体を抉り、突き立っていく。
精密にして強力な攻撃。
強い。強すぎる…………オレは、勝てるのだろうか?
『っらあああ!』
弱音を振り払うように、オレはがむしゃらに突っ込む。だが、自覚できるほどに整合性を欠いた攻撃は、容易く弾かれる。
『【斥力障壁】!』
『ぐぁ!』
『最初の勢いはどこへ行ったんだい? カルマくん』
オレの前に立つ親父は、構えをとってすらいない。つまり、それだけの余裕があると言うわけだ。
もしそれが、慢心や油断と言うようなものなら、そこに付け入る隙もあるだろう。
だが、親父には無い。
ただただ本当に、オレと親父の実力差が大きく開いているのだ。
『カルマくん、君は未熟だ。未熟すぎる』
親父が、ため息と共にそう呟く。
『君は未熟だよ。何も持っていない。
君は急ぎすぎたんだ、何もかもが。日本に来るのも、彼らと出会うのも―――――この戦いすらも』
『なん…………』
『僕はね、君が動きさえしなければ、君が日本に行きさえしなければ、僕らはまだポルトガルにいて、こんな計画はまだ動いていなかった。あと1、2年待っていても良かったんだよ』
1、2年? そんなに待ってられない。
その間に、オレは死んでしまう!
『そんなに待ってたら、時間が!』
『嘘だね』
しかし、オレの反論はアッサリと切り捨てられる。
『嘘じゃねぇ! そんなに待ってたら、オレは―――』
『死んでしまう?』
『―――っ。…………ああ、そうだよ』
オレのその返答に、クックッ、と親父は笑う。
『…………何がおかしい』
『え? ああ、君は知らないのか?』
『何をだよ』
『そうかぁ、知らないのかぁ』
親父は上を仰ぎ見る。
『だから、そんなに弱いのか』
『なんだと?』
『君は未熟なんかじゃなかったよ。君は、未完成なんだ』
意味ありげに呟かれたその言葉を、オレは理解できなかった。
『…………つまり、どういう事だよ』
だから、オレは問いかけた。その言葉の意味を。
―――この時オレは多分、親父が言葉で答えてくれることを期待していたのだろう。
『つまりは―――こういうことさ!』
だから、親父の動きを見切れなかった。
『未完成だから、君は弱い!』
まるで瞬間移動とでも言うかのような速度で接近した親父の、その速度がそのまま乗った蹴りを、録なガードも出来ずに腹に受けたオレは、勢いよく吹き飛ばされる。
『がふ…………っ!?』
一瞬何が起きたのか理解できず、遅れて腹の底から溢れてくる血を吐き出して、ようやく理解する。
『なんて、速度だよ…………ごふっ』
『カルマ、大丈夫か!?』
『あんまり、ヨロシクねぇな』
―――多分、肋の2、3本は逝ったはず。激痛で息が乱れる。
吐き出した血は黒ずんで、赤黒く変色していた。
本来血液は、赤い血が流れ、酸化されて黒くなる。でも、オレ達屍魔人の血は、この色だ。
おそらく、人間の血に魔人に魔力が染み込んだ結果だろう。
『わかるかい? カルマくん。僕も君も屍魔人だ。それなのになぜ、ここまでの差があるのか』
『…………経験値、だけじゃ無さそうだな』
『ふふ、君がタフで賢しくて、父さんは嬉しいよ。そう、経験値だけじゃないさ。言ったろう? 君はまだまだ未完成なんだって』
また、蹴りが迫り来る。
今度は親父の手加減か、はたまた慣れたのか、かろうじてそれを躱す事に成功する。
『どういう意味だよ』
『言葉のまんまさ』
『何に未完成なんだって聞いてんだ!』
放った拳は、容易くいなされ、再び腹に、今度は膝を食らう。
『ごぶっ!』
口と鼻から、大量の血が溢れる。
『カルマ、カルマぁ!』
マルカの悲壮な声が聞こえる。
―――こんな姿、ヒナタには見せられねぇな。
朦朧とした意識のせいか、そんな場違いな思考が浮かんでくる。
倒れ伏し、動けないオレの頭を持ち上げ、親父は言う。
『君の血は、まだ少し赤い』
『そ、れが…………どうし…………』
『それに対して僕の血は――』
いきなり、親父は目の前で、自分の手の皮を噛み千切る。
そこから流れたのは―――。
『真っ黒さ。人間らしさなんて何処にもない』
そう。真っ黒な血だ。それも、コールタールのような、ドロリとした、見ていて気色の悪い黒。
『君はまだまだ人間らしさを遺している。だから、僕に劣る』
『オレ……は、人…間だ』
『いいや違う。君は人間じゃない。
君も、僕も、彼女らも、彼らも、人間じゃない神騎だ魔人だ人魔だ屍魔人だ…………化物なんだ』
淡々と、親父は語る。
『ただ少し、人間性を持った、人間だった化物に過ぎないんだ』
『そんなこと…………っ!』
そんなことあるハズが無い! オレは人間だ! 体は違っても、心は人間なんだ!
そう必死に、自分に言い聞かせても、親父の言葉が鼓膜に焼き付き、心を揺さぶる。朦朧とした意識が、それを受け入れそうになる。
『カルマ! 気をしっかり持て! 飲まれるな!』
マルカの声が、オレの意識を繋ぎ止める。
『…………ふざけんな、親父。オレは人間だ! 人間の、桐久保カルマだ!』
喀血と共にそう叫ぶ。睨まれた親父は、微動だにせず、冷めた目でオレを見下ろす。
『まだ、堕ちないか。それならそれでいい。ただそれじゃあ、君は永遠に僕に敵わない』
『やってみなきゃ…………』
『わかるよ。そもそも、今の僕たちは、同じステージに立ってすらいないのだから』
『んだと? それはどういう意味だ』
『まずは、自分の未練を確認しなよ!』
言葉の終わりと共に速く鋭い蹴りが飛んでくる。あと一度もらえば多分、オレは死ぬ。
諦め。という言葉が脳裏を過った。
―――カルくん。
『――っ!』
耳に甦った声は、オレの意識を叩き起こした。
体が動いたのは無意識だった。蹴りを避けたのは、奇跡だった。
『ぉぉおお!【狩魔】!』
蹴り抜いたその一瞬の隙を狙って、オレは拳を繰り出す。
さしもの親父も、この状態のオレが動けるとは思わなかったのか、受け身が遅れ、後ずさる。
『つつ……まさか、この状況で動けるとは』
『約束が、あるんだ』
『諦めが悪いね。誰に似たんだか』
『へ、親父だよ』
憎まれ口を叩くが、もう、体は動かないだろう。冥道を開く気力も無い。
『諦めるのか? カルマ。ならお前は今、何のために立った?』
不意にマルカの問いが聞こえる。
その言葉に答える前に、彼女は言葉を繋げる。
その言葉はどこか不機嫌で、ぶっきらぼうで、優しくて、そして、希望を含んだ声音だった。
『だけど、もう体に力が入らねぇんだ。立ってるのがやっとで、拳もろくに握れねぇ』
『だが、まだ生きている』
体はズタボロ、心は揺れ動く。
そんな状態で、どう戦えばいいと言うのか。
『カルマ、お前の未練はなんだ』
『………魔人を………』
『違うな。それはお前の本当の未練じゃない。なぜならお前は―――屍魔人になって魔人の存在を知ったのだから』
………そうだった。オレは、そのあとに、今の願いを見つけた。
なら、オレが屍魔人に成る原因となった未練はなんだ? オレは、何を望んだ?
―――ずっとずっと、一緒だよ?
…………ああ、なんだ、簡単じゃないか。簡単すぎて、当然すぎて、だから気付かなかったのか。
『オレの、願いは、本当の未練は!』
親父は、黙してこちらを見ている。その意図がありありとわかる以上、思う壺になるのは腹立たしいが、それでも、
『ヒナタと共に在りたい! ただ、それだけだ!』
途端、体から、魔力が溢れ出る。いったいどこに、こんな魔力があったと言うのか。
その魔力で、体の修復が少しだが行われる。
『これが、お前が持っていた、魔力だ。純粋な、魔人の魔力。魔人の力をおそれ、無意識のうちにお前が隠していた物だ』
『これが、本物の、魔力?』
その問いに答えるように、マルカの声が続く。
『まだ、残っているだろう? まだ技が、魔力が――――想いが』
『…………っ!』
そうだ、これでようやく…………
『あんたと戦える!』
希望は見えた。
ふぁーーっ!
ここに来て今更ながらビックリ!
ポルトガル語で『影=ソンバー』だと思ってましたが、実はなんと『影=ソンブラ』だったと言う事実!
でも今更なので変える予定は無いのですが、これからは【影の太刀】のことを脳内で【影の太刀】とでも変換しといてください(平伏)
作者の読み違いでご迷惑をおかけしました。
…………この調子だと、他のポルトガル語も間違ってそうだなぁ…………




