Conclusion:19 それぞれの後と、拳の始まり
さあ、盛り上がって来ました!(*≧∀≦*)
◆◆◆
アタシの意識がゆっくりと浮上していく。同時に、思考も回復し始める。
アタシは、どうなったのだろう?
確か、テイムの自爆に巻き込まれたはず。なのにどうして生きて…………?
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
『ああ、ようやく目を覚ましましたね』
目の前には、狐のような顔の人魔。そこから周囲を見渡すと、白い焔がアタシ達を囲うように燻っている。
『大丈夫ですか? 僕がわかります?』
手に持った純白の、陽炎に揺らめく剣を置き、彼はアタシを覗き込む。
「竹井、さん? て言うか、顔隠してたら見えないわよ」
『ああ、すいません。大丈夫みたいですね』
「あの、アタシ一体どうなって…………」
体を起こしながら問うと、彼は笑いながら答える。
『近くで戦っててホントに良かった。僕は〈白焔の黒狐〉。この白い焔は僕の敵とその力を焼き尽くす力を持っていましてね』
「それで爆発の魔力を焼き尽くしたっての?」
呆れる程の火力だ。
「ここ、始めに竹井さんが焼いとけば良かったんじゃない?」
『いやぁ、これ使い勝手悪くてね、チャージ時間があるんだよ』
「ああ…………」
その時、神殿の方で黒い蝶蝶の群れが空を覆い、時間を置いて白金と黒の剣戟が空に登った。
「二人とも頑張ってるなぁ」
―――また、ここに集まるのを、待ってるからね、皆。
丘の上から終わりに近づく戦場を見ながら、私は祈った。
◆◆◆
「うぐっ…………げほっ、げほっ!」
『おう、目が覚めたかよ』
咳き込み目を覚ました時、僕は黒と白の翼を生やした人魔の小脇に抱えられていた。
「あなたは…………?」
『あ、わかんねぇか。オレだよ〈黒白の騎士〉ユウリこと、柏木遊李だよ』
そう言われて、竹井さんに紹介されて顔を合わせた人魔だと気づく。
「ああ、あの時の。助けて頂いて、ありがとうございます」
『いいって。照れるじゃんか。それより、飛べるか?』
「あ、はい大丈夫です」
自分の翼を展開し、体勢を立て直す。
『この戦いの対局は決した。大介と合流するぞ』
「了解!」
丘に近付いた時、僕はこちらに手を振る彼女の姿に気が付いた。
「良かった、無事だった…………!」
そんな言葉が口をつき、そして無意識に笑みが零れた。
『ほっほーん』
「な、なんですか」
『いんや、別にー?』
「ち、違いますからね! 違いますからね!」
『ほいほい、若いねぇ』
そんなやり取りがあった事は彼女に内緒だ。
◆◆◆
私が地上を走り、ルルさんが空中を駆る。
途中出くわす敵は、鋭さを取り戻した私の刀と、ルルさんの蝶の餌食となった。
『ヒナタさん! 前方に!』
「うん! 地上からも確認できた!」
私たちが見たのは、多分、この場の殆どの魔人と魔獣に囲まれた神騎と人魔の二人組。
『あれは…………』
「ルルさん! あの蝶は?」
『品切れでしてよ!』
「品切れとかあるの!? ああもう! 行くよ!」
その意思だけを疎通すると、私たちは互いを見やることなく、そこに駆けつける。
「助太刀!」
『いたしますわ!』
その言葉に、互いに背を合わせていた彼らがこちらを見る。
『そいつは助かるぜ! 嬢ちゃん達!』
「すまないな!」
『貴女方は?』
ルルさんが彼らに名前を問うと、
『はははっ! おいおい、忘れるたぁ寂しいねぇ!』
「仕方ないだろ! 俺たちは今マスクしてんだから!」
笑いながら敵を斬り伏せていく二人。もしかして…………。
『俺は〈狂戦士〉のキョウジ、真柴恭慈だ。覚えたか?』
「俺は覚えてるだろ?〈輝光の神騎〉宇津木燈悟」
矢継ぎ早に名乗った彼らは、私達の方へ駆け寄ってくる。
『おーっしゃ、一気に蹴散らすぜ。嬢ちゃん、あの蝶は?』
『品切れですわ』
『んだよ…………ちっ、仕方ねえ』
「やるか?」
『さて、神騎の嬢ちゃん、さっきの白い斬戟はお前さんのだろう? まだ行けるか?』
その言葉に、私は首を横に振る。
「すみません、私ももう力が」
『ったく、これだから若いもんは』
「じじ臭いぞ恭慈」
『うるせーよ、燈悟。仕方ねぇ、俺らの準備が終わるまで、嬢ちゃん達には時間を稼いで欲しい。行けるか?』
その問いには、言葉で答えない。
ただ、目の前の魔獣を屠りながら、行動でしめす。
「危なかったよ、二人とも」
『へっ、上等だ』
『さあ、安心して準備してくださいまし?』
「だってさ。目にもの見せてやろうぜ?」
「当然!」
それから数分後、この四人のいた場所には大きく抉れたクレーターと、大地すら凍らせる巨大な氷柱が敵を飲み込み聳え立っていた。
『あははは、相変わらずデタラメな威力だねぇ、恭慈くんの氷は』
『てめぇの焔には言われたかねぇよ』
『燈悟お前! なんでお前だけ目立ってんだよ、ちくしょうめ!』
「俺に言うなよバカ」
「お二人とも、無事で良かった」
「ホントね。ヒナタ、ルル、おかえり」
彼らは無事に切り抜けて再会できたことを喜んでいる。
丘の下の戦いも、既に残存勢力に大差が付いており、もはや残党狩りとなっていた。
「うん、二人とも無事でなによりだよ。でも…………」
『ええ、まだ戦いは終わってませんわ』
私たちは前を、神殿を見つめる。
『そうですね、まだ、一番大切な戦いが終わってませんね』
『まあ、アイツなら大丈夫だろ』
『おっと恭慈、その心は?』
『昔のお前に似てんだよ、遊李』
「ああ、バカそうだもんな」
『…………燈悟、それはアイツに悪いだろ、遊李と比べるなんて』
「あ、そうだな」
『なんだと!』
『ふふっ』
「どうしたのルルさん、楽しそうに笑ったりして」
『いえ、なんやかんやで、カルマ様が信頼されているんだなって思うと…………』
その答えに、私は納得し、同じ様に笑みを浮かべる。
「確かにね」
もう一度、前を見据える。
『今、わたくし達にできるのは、ただ信じて待つことのみ』
「うん、わかってる」
―――カルくん、私、待ってるからね。カルくんがちゃんと勝って、君の…………ううん、私達の願いを果たして、ここに帰ってくるのを、ずっと待ってるよ!
―――だから、勝ってくださいまし。生きてくださいまし!
◆◆◆
―――時は少々遡り…………
『外は大きいのに、中は空洞なんだな』
『ああ、まるでここで戦う事を目的としたかのようだ』
『親父の事だ、やりかねん』
オレは、無駄に広く大きな神殿のなかを歩いていた。といっても、あるのは天窓のステンドグラスのみで、特に扉もなく、吹き抜けの天井も、かなりの高さだ。
そしてその広間の真ん中にその男がいた。
こちらに背を向けている男の姿は、逆立った髪に、黒の革ジャン上下。
いかにも『雑種がぁ!』とか言ってきそうだ。武器の貯蔵は十分じゃないです。
オレはその男を知らない。ただ、その男の醸し出す雰囲気というか、威圧感は、よく知っている。
「よぉ、遅かったな、カルマぁ」
男が振り向く。
やはり知らない顔だ。でも、
『お前、生きてたのかよ…………フィスト』
答えると、男…………〈覇拳〉フィストはニタリと嗤う。
「ははっ、よくわかったじゃねえか」
『この前戦った時、おかしいって思ったんだ』
「あん?」
『人魔じゃないお前がないどうして魔を殺す技を使えるのかって』
「それで?」
『今のお前を見て確信したよ。お前、人魔だったんだな』
「へっ、ご名答。だがな、カルマ。それで俺とお前の戦いが終わる訳じゃねぇよ」
『ああ、知ってる。お前はそういう奴だよ』
拳を握りしめ、構える。
「はははははははっ! いいねぇ! 理解されてるってのは心地いいもんだな! やっぱお前、最高だわ」
「魔人変躯!」
『吾が名は〈覇拳〉フィスト! 拳を意味し、全てを打ち砕く者なり!!』
『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ! 魔を狩り、己が業を纏う者なり!!』
そして、同時に飛び出し、拳が交わった。
『おおおおおおお、フィストォォォオオ!』
『ふ、ふふふはははは! カルマァァァアア!』
今日!
ここでっ!
この因縁に!
――――決着をつけるっ!
ダメだ、どうしても「アタシ」がオカマに見える…………




