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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
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Conclusion:18 剣(つるぎ)の舞う終幕の奏楽

ふぅー、今回は少々難産でした

『ここが、入口か…………でかいな』


 ルルさんと別れた後、私たちは遂に、神殿の前に辿り着くことができた。


「この先に、終わりがあるんだね…………」

『よし、開けるぞ』


 私とカルくんは、固く閉ざされた巨大な門扉に手をかける。

 重そうに思えたそれは、しかし、ほんの少しの力で、滑らかに開いた。


『ふふふ、ようこそ、メウ・フィリョ』


 神殿に足を踏み入れた瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。


『親父!』

『まあまあ、そう焦らないでよカルマ君。それより、君には一人で来てほしいな』

『何を言って…………』


 そのやり取りを隣で聞いていた私の体を、突如、衝撃が襲い、弾き飛ばされる。


「きゃぁぁああ!」

『ヒナタ!』


 飛ばされた私は、開きっぱなしの門の外へと飛ばされた。

 慌ててカルくんが駆け寄って来るが、それよりも早く、天井から格子が落ち、そして門が閉じられ始める。


『ヒナタ!』

「カルくん!」


 私もとっさに駆け寄り、格子からのばされた彼の手を握る。


『無事か? ヒナタ!』

「大丈夫、怪我はないよ!」

『なんの真似だ、親父!』


 カルくんの問いかけに、声…………シンさんは応える。 


『いやぁ、将来の義娘と一緒でも良かったんだけどね、久しぶりに、親子で語らおうよ』

「…………」

『くそったれ!』


 その時、私は覚悟を決めた。


「行って、カルくん」

『なっ!?』

「ここにいても、きっとこの門は開かない。だったら、こんなところで時間を潰している暇は無いよ?」

『だけど!』

「私なら大丈夫。知ってるでしょ? 私、こう見えても強いんだから」

『ヒナタ…………』

「私だって、カルくんの事が心配なんだよ? いつも一人で無茶をして、突っ走るんだから」


 カルくんが悲しそうな顔をする。私は、そんな彼を、鉄格子越しに抱き締める。


「私が君に守ってもらうのはもうお仕舞い。これからは、肩を並べて歩くんだから」


 体を離し、微笑みを向ける。


「大丈夫、また会える。だって、約束したでしょ?『ずっと一緒』って」

『…………ああ、そうだったな』

「それでも不安なら、また約束しよ? ずっとずっと、一緒に」


 そう言って、私は小指を出す。すると、それに彼が自分の小指を絡める。

 甲殻の顔の部分を消し、素顔を見せる。


「ああ、ずっとずっと、一緒だ」


「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」」


 そして私たちは、口付けを交わす。

 泣きそうになるけど、涙は流さない。


「今度はちゃんと守ってね?」

「ばーか、あの日の約束も、守るつもりさ」


 胸元から、彼が赤い石の指輪を、私が、青い石のペンダントを取り出す。


「私たちは、心で繋がってる」

「オレ達は、魂で繋がってる」

「この石が」

「この指輪が」

「「その証」」


 そしてまた、口付けをする。

 それは長いような、短いような、そんな曖昧な時間を過ごした私たちは、顔を話したとき、どちらも微笑んでいた。


「頑張ってね、カルくん」

『ああ、そっちこそ』


 私達は体を離し、手を離す。

 お互いに振り替える事無く、道を進む。


 そして、門は再び閉ざされた。



◆◆◆


「さて、と…………」


 頭を切り換え、目の前を見据える。


「私の敵は、あなたでいいの?」

『そうなるな』


 目の前には、大剣を携えた魔人。

 その魔人は、身の丈ほどの大きさと肉厚さを持つ大剣を片手で持ち上げ、切っ先を私に向ける。


『〈剣影〉ブレイド。奴は俺にとって唯一、好敵手(ライバル)と呼べる存在だった』

「そう…………敵討ち?」


 私の問いに彼は声を上げて笑い、否定する。


『まさか。俺はただ、新しい宿敵(ライバル)が欲しいだけさ』


 そう言って、剣を構える。


『吾が名は〈断剣〉ソード。己が分身たる刃にて、敵を断つ者なり!』


 それに応えるべく、私も剣を構える。


「〈太刀の神騎〉朝霧日向。この刃に、想いの全てを乗せて征く者なり!」


 同時に飛び出し、技を交差させる。


「【悪魔を喰らえ(デビルス・イーター)】!」

『【割断剣(フォルト・エッジ)】!』


 一方は魔を、魔力を切り裂く剣戟。

 もう片方は、触れるもの全てを引き裂く豪剣。


 二つは互いに干渉しあい、大気を揺らした。

 たったの一合で発生した衝撃は、辺りの魔人や魔獣達を蹴散らし、巨人すらも退ける。


『見かけによらず、力の強い女だな!』

「あなたは見かけ通りね! 【踊る剣翼(ブレード・ダンサー)】!」


 接近した状態から、躊躇わずに四枚の剣翼を展開する。竹井さんとの修行でより一層、自らの手足の如く使えるようになったこの技は、まさに舞い。


 縦横無尽に走る剣閃を大剣を盾にしながら防ぎつつ、彼は声を上げて嗤う。


『ははは! やるじゃねえか。それでこそ俺の新しい宿敵(ライバル)だぜ! 【剣嵐(エッジ・ストーム)】!』


 鈍い風切り音を響かせ、力任せに振られたその大剣に追随するように風が吹き荒れる。

 触れるものを悉く切り裂く、刃の風が。


「そっちこそ、流石ね」


 〈剣影〉ブレイドが手数と速度重視の剣士なら、こちらは破壊力と防御特化の剣士といったところか。


「確かに、いいコンビだったかもね」

『そいつはどうも!』


 剣を交える。

 私が使っているのは大太刀。普通の刀より大きく肉厚な刀。

 けど、それでもこれは刀。頑強さでは彼の持つ大剣に劣る。このまま打ち合えばこちらの剣が折れてしまう。


 すると、それを見た彼が、嗤う。


『なんだよ、もう剣が保たねぇか?』

「…………」

『まあ答えねえよな。なら仕方ねえ、あんたの剣が折れる前に決着をつけようじゃねえか』


 魔力が膨れ上がる。


『ああ、詠おうか! 俺達の最強にして最後の歌をよ!』

「…………本当にあなた達は、戦いが好きだね」

『当たり前だ。戦いこそが魔人(おれ)達の存在意義なんだからな』

「そう。なら…………」


 戦うことこそが存在意義。

 多分それは、神騎(わたしたち)にも言えること。つまりは、神騎も魔人も、戦うためだけの存在。


「遠慮はしない!」

『上等!』


 でも、それでも構わない。

 そのお陰で、私はカルくんと肩を並べて歩ける、背中を合わせて戦える!


『【打ち砕け】【吾が豪剣】【引き裂け】【吾が魂よ】【さあ闘争(うたげ)だ】【歓喜(ぜつぼう)せよ】【吾が刃に】!』


 彼の詠唱と時を同じくして、私も紡ぐ。

 決意宣誓の唄を。


「【私は】【全てを守る】!」


 そう、これは誓い(やくそく)を果たす為の詩。


「【二人であの日】【交わした約束を】!」


 私はただ守ってもらうなんてゴメンだ。

 守ってくれるあの人を、私は守る。そうやって、肩を並べて伴に生きたい。生きていきたい。


「【私は諦めない】!【彼の命も】【何もかも】!」


 彼は、自分はもうすぐ死ぬと言っていた。

 言葉にしなくても、私にはわかる。

 でも、だけど、だからこそ!


「【もう失わない】!【そう決めたから】!」


 子供の駄々の様だと自分でも思う。

 けれど、それでいい。訓練の時に言われたのだ、もっと自分の思うままに在れと。


「【切り拓く】!【未来(あした)を】!」


 そのために、今は戦う!

 カルくんのために、私のために!


『薙ぎ払え! 【魔人の豪破撃(イーヴィル・クラッシャー)】!』


 ソードの降り下ろす大剣から放たれた衝撃波は、大地を砕き、抉り、直進してくる。

 触れるもの全てを薙ぎ払い、圧倒する一撃必殺の豪剣。

 しかし、その豪撃も、私の前では無意味。


「断て、想愛の剣よ。【剣姫の想刃(ザ・セイバー)】」


 私の力が発動し、それと豪撃が衝突した瞬間、その攻撃は切り裂かれる(・・・・・・)


『なんだよ…………それ』

「ゴメンね、あまり長く保たないんだ」


 私が手に持つのは、一振りの白金(プラチナ)色の刀。

 それを大上段に振りかぶる。


「これで、終わらせるよ」

『舐めるなよ!』


 この一刀に全てを賭けて、私達は剣を降り下ろす。


「あああああ!」

『ぬおおお!』


 ソードの放つ黒く巨大な剣戟と、私の放つ白金(プラチナ)色の鋭い斬戟が、私達の中間で衝突する。

 二つは重なり、均衡し、空高く伸びる。


 ―――そして、終わる。


 黒が弾け、白が進む。


『ああ…………やっぱり、アイツを()った奴は強ぇなぁ……くっそ、勝ちたかったな、アンタにも、アイツにも…………』

「あなたは強かった。でも、想いの無い刃に、私は負けない」

『へへっ、じゃあな』


 そして、〈断剣〉ソードは白金に飲み込まれた。


◆◆◆


「はぁ、はぁ、はぁ…………勝ったよ、カルくん」


 剣を杖代わりに立ち、肩で息をする私は、そう呟いた。


「…………でも、まだ終わってないみたい」


 また、魔獣が集まってくる。

 〈奏でし獣〉は既に倒されたと言うのにこの数。一体どれ程召喚したと言うのか…………。


 襲いかかってくる魔獣を切り伏せて行くが、もはや体力に余裕はなく、剣のヒビも広がっている。直すには一度変身を解かねばならない。


「万事休す、かな?」


 そんな言葉が口から洩れる。戦う力はもう残っていない。


「嫌だ、嫌だよぉ…………」


 涙が零れる。

 ようやくここまで来たのに、どうして、と。


『諦めるのが早すぎるのではなくて? ヒナタさん』


 頭上からそんな声が聞こえた瞬間、黒い蝶の群れが辺りを覆い、魔獣の魔力を吸い尽くして行く。


「ルルさん!」

『助けに参りましてよ』


 舞い降りた彼女はその翅を畳み、私に手を差しのべる。

 その手を掴んで立ち上がると、彼女は言う。


『カルマ様はもう行かれましたのですね?』

「うん。終わらす為に」

『ならば、我々にできることは一つですわ』

「信じて待つこと、でしょ?」

『さあ、皆さんと合流いたしましょう』


 そして私達は、サナちゃんや佐伯先輩たちと合流するために敵の少なくなった戦場を駆け抜ける。



 ―――信じてるよ、カルくん。君なら絶対、勝てるって。



 そして戦いは終わりへと向かっていく。



指切りげんまん。

子供の頃は魚のハリセンボンを飲ませるのかと思ってました




さあ皆さん。バレンタインの季節です。

リア充(カルマ)は爆ぜろ

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