Conclusion:16 空の戦場に流れる終尾の旋律
ラスボス戦まであと…………ひぃふぅみぃ…………もう少しです!
「獣の動きが、鈍った?」
一瞬、ほんの一瞬だけ、魔獣がその動きを止めた。
直後に後方、梶原さんが戦っているであろう辺りが紅い閃光に染まった。
「梶原さん!?」
その閃光が収まると同時に、先程までは連携の取れていた魔獣動きが、まるで統率の取れていないかのように暴れ始める。こうなってしまえば殲滅するのは容易だ。
「やったんだね、梶原さん」
彼女の元へは向かわない。
何故なら、彼女がそれを望んでいないから。
そして彼女は、自らの戦いに決着を付けた。だから…………
「僕らの戦いにも、幕を下ろそうか」
『ふん、望むところだ』
僕が目の前の魔人〈天翔空羅〉スカイに剣の切っ先を向けると、彼は不敵に笑う。
同時に、僕と彼の、黒と白の翼が同時に広がる。
つぎの瞬間、傍目から見たらきっと、僕たちは一瞬のうちにかき消えたことだろう。
それくらいの速度で僕らは加速した。次いで、思考すら加速する。
『おおおおおああ!』
「はぁぁぁあああ!」
余計な問答はしない。加速した肉体と思考の中で、僕らは剣と翼を打ち付けあう。
加速した思考が、世界をスローモー感じさせる。
『【羽刃弾】!』
黒い羽根がマシンガンのように射ち出される。
「【翼刃白連】!」
それらを、連なる白い刃で叩き落とし、スカイを切り付ける。
『【羽刃衝】!』
しかし、こちらのその一撃を待っていたかのように、カウンターの一撃が僕の胸部を強打する。
「がふっ!」
肋骨が砕け、口から血が溢れる。だが、ようやくここまで接近したのだ。この好機を逃すつもりは無い。
右の刀を降り下ろす。
【翼刃白連】は分裂する白い刃だ。一撃目がスカイの甲殻にヒビを入れ、二撃目が砕く。そして最後の三撃目が彼の肉を引き裂いた。
『ぐぅぅ!』
その一合をもって、互いに距離を取る。
…………肋骨は逝ったが、大丈夫、肺のダメージは少ないようだ。
しかし、それは向こうも同じだ。
「はぁ、はぁ…………ごぶ!」
『ぜぇ、ぜえ…………ぐう!』
僕は口から血を吐き、彼は傷口から血を溢れさせる。
息は上がり、互いに満身創痍。
だけど、僕たちは笑みを浮かべる。
そして、同時に叫び詠う。
『【我は天を翔た!】【空を網羅した!】【我は手に入れた!】【この空に至る疾さを!】【故に我は纏おう】【我は謳おう!】【闇夜に走る】【夢幻が如き】【悪夢の力を!】』
「【俺は人間だ!】【破壊衝動を律した!】【だから人間は誓おう】【俺は神騎だ!】【友を、大切な人を守ろう!】【この身に宿る】【過ぎたる騎士の力をもって!】」
『頂へ至れ、我が疾さよ【夢幻夜行の悪夢】!』
「愛しき友よ、ここに在れ!【光輪白夜の白騎士】!」
黒と、白が、空を覆い尽くした。
そして、音が破裂した。
それは、一瞬のうちに、2つの物体が空気の膜、音速の壁を越えた音。
産み出される2つの衝撃波は交じり合い、嵐となり、雲を裂き、地を抉り、結界を揺れさせる。
余波に巻き込まれた魔人や魔獣が粉々に吹き飛んでいく。
「『おおおおおおおおおお!』」
頭では既に追い付くことの出来ない領域の速さ。僕は考えない。ただただ剣を振るい、受けとめ、躱す。
体の反応で、それのみで僕らは戦う。
皮膚が裂かれる。甲殻を砕く。骨が砕ける。肉を抉る。
血を撒き散らせながら、殺しあう。
『これで!』
「終わりだぁ!」
距離を取った後の超加速。
音速のその先に近づく。その衝撃に耐えきれなくなった体が悲鳴を上げる。
鎧と甲殻が、ほぼ砕け散り、互いの顔すらも露になる。
スカイは笑っている。多分、僕も。
―――なんだ、案外イケメンじゃないか、スカイ
そんなことを思ったのもほんの刹那。
直後、右の剣と左の翼の切っ先が重なり、せめぎあう。
しかし、その均衡も直ぐに終わる。
――ピシッ
そんな音と共に、僕の剣にヒビが入る。
そこからは、より一層、世界がスローモーションだった。
まず、右の剣を手放す。即座にスカイの左下、がら空きの懐へ潜り込む。
突然、抵抗を失った彼は、刹那の時間、バランスを崩した。その刹那で、僕は充分だった。
「ああああああああ!!!」
左の剣を両手で持ち、スカイの胸に深々と突き刺す。
『ぐぁぁぁああ!』
それだけでは止まらない。加速し、上昇する。
超音速の衝撃と負荷が、すべてスカイにかかる。
雲よりも高い場所に到達する。
『く、ぉぉおお』
そして――――
「やぁぁぁあ!」
スカイの体を僕が突き破った。
『…………見事、見事だ、ショータ』
「はぁ、はぁ、はぁ」
『しかし、悔しいな。もう少し貴様と、戦いたかったぞ』
「…………ふふ、同感さ」
『さらばだ、素晴らしき天空の覇者よ』
「うん、さようなら、疾き大空の王者」
そしてスカイの体は、塵のように消えて逝った。
それを見届けた僕は、フッ、意識を失った。
故に僕の体は、遥か上空より、地表へ向けて、落下していくのだった。
さぁて、佐奈と先輩をどーやって助けようか…………(汗)
いやホントマジで




