Conclusion:14 獣の宴
一人戦艦って、ちょっと怖いですよね?
結界の先にあったのは、広い広い草原だった。雪国ではない。
恐らく、国立競技場が二つ三つ入るのではないだろうか? そう思える広さだ。
オレ達が立っているのは、その一望する事のできる丘の上。
そして、その草原の中央には、趣味の悪い黒塗りの、禍々しくも厳かで、どことなく神々しさを感じさせる神殿のような物が建っていた。
『まさか、これ程とは…………』
さしもの大介さんも、この大きさには唖然としていた。
しかし、その広い空間に置いても小さく見えないあの神殿は、間近だとどれ程の物か…………。
『レディースアーンジェントッメーン! やあやあようこそ、神騎と人魔の皆さん! 僕らのお城へ!』
突如として空から響いた声は、既に聞き慣れてしまった、アイツの声。
『〈奏でし獣〉!』
『はいはーい! ぼっくでーす!』
空を仰ぎ見ると、黒いグリフォンに跨がった彼がこちらを見下ろしている。
『さあさあ皆さん、長ったらしい口上は無しにして、さあさあ、宴が始まるよ!』
捲し立てるようにそう告げた彼は、オレ達に口を挟む余地を与えず、詠唱を開始する。
『【レディースアンドジェントルメン!】【寄ってらっしゃい】【死んでらっしゃい】【今日は不思議なお祭りだ!】【夢限の無幻に酔しれて】【さぁ、叫べ、泣け、狂え!】』
嬉々として唱え、そして、呼び寄せる。
『いざ宴だ、躍り狂え【黒き野獣の饗宴】!』
神殿を中心として、巨大な影が拡がる。
そこから現れたのは、数多もの黒い獣。
犬や猫のような物も入れば、幻獣や妖怪等と呼ばれる魑魅魍魎が現れる。
『まだまだ行くよ! 来なよ【巨人兵団】!』
喚ばれたのは、巨大な黒い影。小さい物で三メートル、大きい物は十メートル程の体躯を持つ、黒い巨人達。
その巨人が上げた咆哮がまるで合図であったかのように、空から陸から、魔人が現れる。
押し寄せる黒の軍勢は、まるで波のようで、一分の隙も無いように見える。
しかし、それを見て尚、口角を上げた者がいた。
「アタシが、活路を開く」
その手に二丁の突撃銃を構えた女の神騎。
梶原だ。
『出来るのか?』
「もちろん。これでも特訓、したんだからね」
そして彼女は、前に出て両手を広げる。
瞑目し、自らの決意と誓い、そして、祷りを唱える。
「【私は、神騎】【疫病神なんかじゃない】【皆を守る】【私はそうやって生きていく】」
静かに、けれど心強く、彼女は粛々と唱う。
「【この決意を】【私の弾丸に込めて】」
故に、唱い上げたそれは、彼女の全て。
「轟き降り注げ【穿ち貫く破閃の豪雨】!」
そして産み出されたそれら武器の数々は、中々にえげつないものだった。
『か、梶原…………サン?』
「なによ桐久保」
『あのう、その武器達は一体…………』
「アタシの力は銃の生成じゃなかった。アタシの力は、火薬兵器の生成よ」
『ああ…………だからこんな一人戦艦みたいに、って無茶苦茶過ぎるな!』
そこに産み出されたのは、様々な重火器、いや兵器。
「えっとね、右から順に、M294、RPG-1~7、89式小銃、ハープーン、88式地対艦誘導弾…………」
『だー! 説明とか紹介は良いから、前、前! もうすぐそこまで敵来てるから!』
「ちえ、折角アタシの博識さが披露できると…………仕方ない、ぶっ放すわよ! 一斉射撃! ぶち抜きなさい!」
総計3000超もの砲門が一斉に火を吹く。
鉄の雨が降り注ぎ、爆薬の雨が降り注ぎ、ミサイルの雨が降り注ぐ。
一瞬のうちに、辺りは焦土へと変わり、魔人や魔獣のおよそ4割が灰塵と成り果てた。
『え…………ええッ!?』
その光景に、さしもの〈奏でし獣〉も驚きの声を上げる。
『ま、前から思ってたけど、その力は反則じゃないかなぁ…………』
「無尽蔵に魔獣を産み出せるアンタには言われたくないわ。
行きなさい、ハープーン!」
放たれたのは対艦ミサイル。
それが真っ直ぐテイムを狙い打つ。
『うわっ! あっぶないなぁ…………』
しかし、それはテイムの魔獣が身代わりとなり、彼自信に当たることはなかった。
『でも、まだまだだもんね! そぉら、お前達、行きな!』
魔獣が影から止めどなく溢れてくる。
「…………流石に、一人じゃ無理ね」
『あたりめーだ、バカめ』
梶原の呟きにそうぶっきらぼうに返したのは、真柴さんだった。
『遠距離砲撃が得意なのは、お前だけじゃないぜ? 俺は無理だけど』
『そうですね。それでは皆さん、用意はいいですか?』
大介さんのその問いへの応えは無く、変わりに、数十名が力を練り始めた。
『それでは、皆さん、こちらも始めましょうか』
『そういうこった、野郎共! 砲撃が止み次第、全速前進!』
『さぁ、砲撃役の皆さん、行きますよ…………撃てーーー!』
降り注ぐ。光の槍が、炎の矢が、闇の霰が、雷その物が、それらの全てが、敵の黒を侵食していく。
『今だ野郎共! 突撃ーーー!』
おおお! と、雄叫びと共に、神騎と人魔の複合軍が突撃を開始する。
『よし、オレ達も行くぞ!』
「うん! カルくんの背中は」
『ええ、わたくし達にお任せください』
「僕は空から向かいます。梶原さんは?」
「アタシはここに残るわ」
『え?』
つい、オレは梶原の顔をまじまじと見つめる。
「別に逃げようって訳じゃないわ。アタシは、アイツとケリを着けるだけ」
睨み付ける視線の先には、魔獣を産み出し続けながらこちらに向かってくるテイムの姿がある。
『そうか…………分かった! 行くぞ!』
頷きだけを返し、オレは駆け出す。
「サナちゃん、死なないでね!」
『梶原さん、ご武運を!』
「また会いましょう、梶原さん!」
「…………ええ、必ず」
遂に今、決戦が始まったのだった。
「さぁ、ぶち抜くわよ、テイム!」
『やれるものならやってみなよ、梶原佐奈!』
なんか、引っ張ってるみたいですいません。
思ったよりもこの三章が延びそうで作者もビックリです。
追伸
作中では一度も名乗られませんが、真柴恭慈の称号は〈狂戦士〉です




