Conclusion:12 嵐の前の安息
あまけしておでめとうごいざます。
それにしても…………ああ、よかった!
短くならなかった!
これで助かった!
ちなみに、この話を書いてる時に頭の中で流れていた曲は「世界でいちばん頑張ってる君に」でした
翌朝、這い寄ってきた混沌はオレのベッドで金糸の髪を広げていた。
「…………ルル、何をしている?」
「ふぁ……あ、Bom dia、カルマ様」
「ああ、おはよう…………って、そうじゃなぁい!」
「もう、ダメですよ? 朝からそんな大声を出しては」
「誰のせいだと…………」
と、そのとき、部屋のドアがノックされる。
よかった、マルカが来たらこっちのもんだ。
そして、女神が現れる。
「カルくーん、朝だよー」
そう、女神が…………。
あぁ、戦争が始まる。
「カルくん?」
「待て! オレは無実だ!」
「そうですよ、ヒナタさん」
おお! 珍しくルルが己の非を認めるのか!?
「男性が複数の女性に惹かれるのは、仕方の無いことですわ」
「何でそうなる!? や、待て、ヒナタ落ち着け!」
「ふふふ、大丈夫だよぉ? カルくん」
「だ、大丈夫じゃない! その笑顔は大丈夫じゃない!」
そこへ、マルカが訪れる。
「全く、朝っぱらから騒がしいな、お陰で寝不足だ」
「おお、マルカ、助けて!」
「…………ほほぅ」
この時、オレはマルカの口がイタズラっぽく歪んだのを見逃さなかった。
「全く、カルマよ、昨日はお楽しみだったな」
「おのれマルカぁー!」
「ふ、ふふ、うふふふふ!」
「ご、誤解だヒナぎゃぁぁぁあ!」
そして、オレのベッドが鮮血で染まった。
「し、死ぬかと思った…………」
「大丈夫ですか? カルマ様?」
「誰のせいだと…………」
その後、何とか誤解を解き、今は朝食の席。
目の前には芳しい香りを漂わせる見事な和食が。
「これは旨そうだな」
「マルカ、よだれよだれ」
「あう……」
確かに、美味しそうだ。
鮭の切り身、味噌汁、白米、漬物。決して豪華とは言えない物だが、それがいいんだ。
「この朝食は誰が作ったんだ?」
「あ、私。ちゃんと美味しくできたんだ!」
ヒナタが手をあげる。
「ありがとな、ヒナタ」
―――多分、この時、ここにいる誰もが忘れていたんだ。
「「「いただきます」」」
「はい、召し上がれ」
―――だから、こんな悲劇が起きたんだと思う。
「「「ぎゃぁぁぁあ! 甘い辛い苦い酸っぱいしょっぱい!?」」」
「ど、どうしたの、皆!?」
―――ヒナタの味覚は、ヒトのそれじゃないっ!
「ふ、ふふふ、や、やりますわね、ヒナタ…………さん」
「る、ルル! それはお箸だ! ヒナタじゃない!」
「そ、そういうカルマこそ、それはルルでは無いぞ。それは鮭の切り身だ」
「あら、マルカさん、それはお茶碗でしてよ? ふふふ…………」
故に、繰り広げられたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図。
やっぱりヒナタに料理を作らせては行けなかった…………。
その後、登校途中に梶原達と合流し、いつも通りの道を歩く。
「まさか、朝っぱらから二度も死にかけるとは…………」
「うぐぅ、頭が痛い…………」
「あら、おはようございます」
「…………ルル、それは電柱だ」
「なんか、彼女が一番ダメージを受けてませんか?」
「流石ねヒナタ。ライバルに一番ダメージを与えるなんて」
「あぅぅ…………ご、ごめんなさい…………」
ヒナタが申し訳なさそうに眉尻を下げて謝る。
オレはそれを笑って許す。
「いいって。また今度、一緒に作ろうぜ? 教えるのはマルカだけどさ」
オレの言葉の意図を理解したのかは不明だが、その言葉にヒナタは喜色満面の笑みで頷いた。
学校に着いた瞬間、オレとマルカは、拉致られた。
正確には、怪しげな集団に囲まれ、身動きが取れないままその人の波に押し流された。
よくよく見ると、胸に桐の木で出来たバッジが付いている。
…………なんだかスッゴい久々に見たなぁ…………
「桐久保兄妹ファンクラブ、ここに推参!」
ザッ、と一糸乱れぬ動きで男女別に整列する彼ら。
…………いやもうその錬度は親衛隊か軍隊って言われても違和感ねえよ。
とりあえず、眩しい笑顔を浮かべておくと、彼らは興奮したようにそれぞれ挨拶したあと、オレ達を教室まで送ってくれた。
…………しかし、あの御輿は回避できてよかった。
そして、その後もヒナタVSルルの戦争が勃発したり、田中が滂沱の血涙を流したり、クラスメイトのテンションがおかしくなったりなど、とても充実した時間を送ったのだった。
その夜、梶原達や大介さんも含めた全員で食事を取り、今、家にはオレとマルカ、家が隣のルル、そしてヒナタの四人がいる。
「いよいよ明日、でございますね」
「ああ」
「うむ」
ルルのそんな、感慨のような何かを含んだその声に、オレとマルカは短く頷きを返す。
「ねえ、カルくん、お話をしようよ」
「そうだな」
微笑みと共に出された提案に、オレは笑顔で同意する。
「どこから話しましょうか…………」
「それじゃあ…………」
「んーと…………」
「なあ、カルマ、ヒナタ、ルル」
思案を始めたオレ達に、マルカがおずおずと声をかける。
「うん? どうした、マルカ」
「お前ら、やけに落ち着いているな。怖くないのか?」
マルカのその台詞に、オレ達は顔を見合せ、プッ、と吹き出す。
「な、なんだ」
「らしくねぇな、マルカ」
「ホントにね」
「そうですわよ」
「だ、だが、明日なんだぞ? 結果がどうあれ、明日で終わるんだぞ?」
焦るように、怯えたようにそう言ったマルカに、オレは穏やかに応える。
「だからこそ、だよ」
「え?」
キョトン、と解っていないような顔をしたマルカにオレはため息を吐く。
「全く、本当にらしくないな。オレの分身体なんだから、察しろよ」
「む…………」
「お前の言う通り、明日で全てに決着が着く。それこそ、結果がどうあれ、な」
「だからこそ、私達は今この瞬間を大切にして、明日に備えるの」
「そうして、明日に悔いが残らぬように」
「そう、か…………」
マルカはそう呟き、一度顔を伏せ、そして、上げる。
「そうだな、その通りだ。よし、辛気くさくしてしまったお詫びとして、カルマの知られざる赤裸々な秘密を暴露してやろ」
「なんだと!?」
「わー! なになに!? 聞きたい!」
「是非とも聞かせて下さいな」
「おいやめろ!」
「カルくん「カルマ様「静かに!」」
「実はな…………」
「やめろ……やめろぉぉ!」
こうして、オレの絶叫と共に始まった夜は、ゆっくりと更けて行ったのだった。
そして、朝がやって来る。
決戦前に限らず、何か大きな事を控えた緊張感、あなたはどう過ごしますか?
僕ですか?
僕はですね~…………ゴーヤーチャンプルーを食べる!
そしてみなさん!
ハッピーの貴方も、そんなにハッピーでもない貴方も含めて、とりあえずニューイヤー!
あけおめでござい。
今年も何卒、宜しくお願い致します。




