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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第三章 決着
74/100

Conclusion:10 罪咎

魔人というこの物語の根幹をようやく話せる回です。

「これが罰だと言うのなら、オレ達の罪って、一体なんなんだよ!?」


 つい荒らげてしまったオレの声に、彼は落ち合いて答える。


「その話をする前に、1つ質問だ。君たちは、あの世というものを信じているかい?」


 突拍子もなく掛けられた質問は、少しおかしな物だった。


「信じるも何も、僕達は神騎と魔人。最もその、あの世に近い者ではありませんか?」

「そうだぜ? オレは冥道の力を通じて、その世界を認識している」


 すると、彼はまた質問する。


「じゃあ、天国と地獄は、信じるかい?」


 その質問には、誰も答えない。なんせ、誰も見たことがないのだ。

 でも、オレは答えることができる。


「信じない。というか、存在しない」

「何故、そう言い切れるんだい?」

「この冥道の力の先にあるのは、1つだけだ、天国も地獄も無い。ただ、魂の回帰点と創始点があるだけだ」


 その言葉に頷いた彼は、一呼吸置いて、言う。


「それを理解した上で、説明を始めよう」



◆◆◆


 落ち着いた場所で話そうと言うことになり、全員がオレん家に集合した。

 そして、席についたのを確認して、大介さんが口を開く。


「さて、この世界には『魂魄』と呼ばれる物があるね?」

「ああ…………」

「心を司る魂、存在を司る魄。この二つが共存する事によって、この世の全ての生命は『命』をその肉体に宿すことができる」


 それは、魄が無ければ戦えない屍魔人(オレ)だからこそ、良くわかる。


「でも、あの世、つまり彼岸の物である魂が、輪廻の流れで不滅だとしても、この世、此岸の物である魄は、いずれ消える」

「ちょっと待て、つまり人間は、彼岸と此岸、両方の存在と言うことか?」


 オレの問いに、大介さんは首を横に振る。


「いや、『生きている』魄と共にある限り、魂は此岸の物になる。

 けど、拠り所である魄を失った魂は、この世を離れ、冥界へと回帰する」


 すると今度は、ルルが声を上げる。


「それは解りました。では、他の皆さんがキースの事を忘れているのは何故ですの?」


 そして答えるその言葉は、衝撃的な物だった。


「いいや、彼らは忘れているんじゃない。本当に知らないん」

「え?」

「彼らは、キースリア君とも、神谷くんとも、一度も会ったことが無いんだ」

「そんなバカな!?」


 それは余りに不可解で、それでいて理解したくない物だった。


「正確には『生きている彼ら』と会ったことが無い、かな?」

「それは、どういう…………」

「キースリア君が人魔になったのはいつ頃だい?」

「…………3~4年前ですわ」


 ルルが答えると、大介さんは別の質問を、ゆっくりと投げ掛ける。


「そんな前に死んだ人間が、どうやって現在(いま)の人間に会うと言うんだい?」

「…………っ!」


 オレ達は息を飲み、言葉を失う。


「本来、人は死ぬと魄と魂が乖離し、その肉体から魂が抜け、魂は彼岸へと帰属する。だけど、僕達魔人は、その世界の『理』を拒絶する。

 そして魂を核と成し、魔力で無理矢理、此岸へと引き留める。

 けどそこに、存在の証である魄は無く、真の存在は無い。故に、死後、つまり魔人と成って以降に出会った人間からは忘れ去られる」


 その説明に、


「で、でも、私たちは生前のキース君を知らなくても、覚えているよ?」


 と、ヒナタが少し慌てたように質問する。

 それにも、彼は落ち着いて答える。


「それは、君達が神騎だからだ。神に認められ、いわば合法的に彼岸の力を得ている神騎だからこそ、魔人の事を覚えていられる」

「そんな…………」

「そしてカルマ君、君にまた質問だ。君は名乗りを上げるとき、『魔を狩り、(おの)(つみ)を纏う』と言うそうだね?

 じゃあ、その君の言う『(つみ)』ってなんだい?」


 問われて、オレは考える。

 確かに、言われてみれば、この言葉の意味など、考えたことが無いかもしれない。

 それを伝えると、彼は深く頷いた。


「まあ、そうだろうね。〈称号〉を含め、その文言は、この世界で不安定な自らの在り方を確認し、確固たる物にするためなんだ。詠唱と一緒さ」


 オレはまた考え、答えを出すために、確認をとる。


「これまでは、屍魔人(しかばね)とはいえ、同じ魔人を狩る、〈同胞喰らい〉の業だと思っていた。でも、話を聞く限り、違うんだな?」

「ああ、そうだよ」


 確認が取れたことで、オレは答えを導き出す。


「その(つみ)は、オレ達魔人の罪は、彼岸の者でありながら、此岸に存在している。それこそが、罪なんだな?」


 頷く。

 すると、また、ヒナタが声を上げる。


「そんな! カルくん達人魔は、魔人と戦って、人間を助けて来たんだよ?」

「それでも、オレ達が世界の理を犯し続けていることには変わり無い」

「そして、その中でもカルマ君。君が、君たち屍魔人(しかばね)が、最も罪深いんだ」

「…………」


 それはなんとなく自覚していた。

 だって、他の魔人も同じ罪を犯していると言うのなら、なぜ、屍魔人(オレたち)だけがその文言に罪を組み込み、確認しているのか、さっきから疑問に思っていたんだ。


「君達は肉体を持ち、魄を持つ。だから死んでも人々に記憶は残る。

 でもね、忘れちゃいけない。君は一度死んでいるんだ。魔人なんだ。

 そして、君達は他の生命の魄を喰らう。つまり、彼岸の者が此岸の物を奪っているんだ」


 一瞬の沈黙の後、今度は、佐伯先輩が質問を投げ掛けた。


「魔人だって、人を殺しているではありませんか?」

「確かに、それは心情的にも、『理』的にも罪だ。でも、彼らは魄を喰らわない。彼岸の魂を喰らう。だから、屍魔人(しかばね)よりも罪が浅い」

「人を殺すのが、罪ではないと?」

「それは、僕達の視線から見ているからだ。世界にとって、人の命も、虫の命も、草木の命も、皆等しいんだ」


 今度こそ、この空間を沈黙が包み込む。

 誰も、何も言わない。言えない。

 だからこそ、オレはそんな空気を笑い飛ばす。


「それがどうしたよ?」


 皆の視線が集まる。


「例えどんなにオレの罪が深くても、結局やることなんて何一つ変わんねぇじゃねぇか」


 すると、ふふ、と笑い声が漏れる。


「全くその通りだな。たまには良いことを言うな、我が愚兄は」

「たまには余計だ」

「仕方ないわね。仕方ないから、協力して上げるわ」

「そうですね。確かに、目的は変わりません」


 そう言って、みんなが賛同する。

 横を見やると、微笑んでいるルルと、涙を貯めて微笑むヒナタがいる。


「あなた様がそれを望むと言うのであれば、わたくしはあなた様に従います」

「うん、私達が、君を支えるよ。私の心は、君と共にある。だから…………」


 遠慮はしないで、と彼女は涙を流しながら笑う。


「ああ、ありがとう」


 そしてオレ達は、その決意を新たにするのだった。



この物語を書き始めて、2度目のクリスマスシーズン。


それでは皆さん、良いクリスマスを。


メリークリチュマチュ!(噛みまみた)

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