Conclusion:10 罪咎
魔人というこの物語の根幹をようやく話せる回です。
「これが罰だと言うのなら、オレ達の罪って、一体なんなんだよ!?」
つい荒らげてしまったオレの声に、彼は落ち合いて答える。
「その話をする前に、1つ質問だ。君たちは、あの世というものを信じているかい?」
突拍子もなく掛けられた質問は、少しおかしな物だった。
「信じるも何も、僕達は神騎と魔人。最もその、あの世に近い者ではありませんか?」
「そうだぜ? オレは冥道の力を通じて、その世界を認識している」
すると、彼はまた質問する。
「じゃあ、天国と地獄は、信じるかい?」
その質問には、誰も答えない。なんせ、誰も見たことがないのだ。
でも、オレは答えることができる。
「信じない。というか、存在しない」
「何故、そう言い切れるんだい?」
「この冥道の力の先にあるのは、1つだけだ、天国も地獄も無い。ただ、魂の回帰点と創始点があるだけだ」
その言葉に頷いた彼は、一呼吸置いて、言う。
「それを理解した上で、説明を始めよう」
◆◆◆
落ち着いた場所で話そうと言うことになり、全員がオレん家に集合した。
そして、席についたのを確認して、大介さんが口を開く。
「さて、この世界には『魂魄』と呼ばれる物があるね?」
「ああ…………」
「心を司る魂、存在を司る魄。この二つが共存する事によって、この世の全ての生命は『命』をその肉体に宿すことができる」
それは、魄が無ければ戦えない屍魔人だからこそ、良くわかる。
「でも、あの世、つまり彼岸の物である魂が、輪廻の流れで不滅だとしても、この世、此岸の物である魄は、いずれ消える」
「ちょっと待て、つまり人間は、彼岸と此岸、両方の存在と言うことか?」
オレの問いに、大介さんは首を横に振る。
「いや、『生きている』魄と共にある限り、魂は此岸の物になる。
けど、拠り所である魄を失った魂は、この世を離れ、冥界へと回帰する」
すると今度は、ルルが声を上げる。
「それは解りました。では、他の皆さんがキースの事を忘れているのは何故ですの?」
そして答えるその言葉は、衝撃的な物だった。
「いいや、彼らは忘れているんじゃない。本当に知らないん」
「え?」
「彼らは、キースリア君とも、神谷くんとも、一度も会ったことが無いんだ」
「そんなバカな!?」
それは余りに不可解で、それでいて理解したくない物だった。
「正確には『生きている彼ら』と会ったことが無い、かな?」
「それは、どういう…………」
「キースリア君が人魔になったのはいつ頃だい?」
「…………3~4年前ですわ」
ルルが答えると、大介さんは別の質問を、ゆっくりと投げ掛ける。
「そんな前に死んだ人間が、どうやって現在の人間に会うと言うんだい?」
「…………っ!」
オレ達は息を飲み、言葉を失う。
「本来、人は死ぬと魄と魂が乖離し、その肉体から魂が抜け、魂は彼岸へと帰属する。だけど、僕達魔人は、その世界の『理』を拒絶する。
そして魂を核と成し、魔力で無理矢理、此岸へと引き留める。
けどそこに、存在の証である魄は無く、真の存在は無い。故に、死後、つまり魔人と成って以降に出会った人間からは忘れ去られる」
その説明に、
「で、でも、私たちは生前のキース君を知らなくても、覚えているよ?」
と、ヒナタが少し慌てたように質問する。
それにも、彼は落ち着いて答える。
「それは、君達が神騎だからだ。神に認められ、いわば合法的に彼岸の力を得ている神騎だからこそ、魔人の事を覚えていられる」
「そんな…………」
「そしてカルマ君、君にまた質問だ。君は名乗りを上げるとき、『魔を狩り、己が業を纏う』と言うそうだね?
じゃあ、その君の言う『業』ってなんだい?」
問われて、オレは考える。
確かに、言われてみれば、この言葉の意味など、考えたことが無いかもしれない。
それを伝えると、彼は深く頷いた。
「まあ、そうだろうね。〈称号〉を含め、その文言は、この世界で不安定な自らの在り方を確認し、確固たる物にするためなんだ。詠唱と一緒さ」
オレはまた考え、答えを出すために、確認をとる。
「これまでは、屍魔人とはいえ、同じ魔人を狩る、〈同胞喰らい〉の業だと思っていた。でも、話を聞く限り、違うんだな?」
「ああ、そうだよ」
確認が取れたことで、オレは答えを導き出す。
「その業は、オレ達魔人の罪は、彼岸の者でありながら、此岸に存在している。それこそが、罪なんだな?」
頷く。
すると、また、ヒナタが声を上げる。
「そんな! カルくん達人魔は、魔人と戦って、人間を助けて来たんだよ?」
「それでも、オレ達が世界の理を犯し続けていることには変わり無い」
「そして、その中でもカルマ君。君が、君たち屍魔人が、最も罪深いんだ」
「…………」
それはなんとなく自覚していた。
だって、他の魔人も同じ罪を犯していると言うのなら、なぜ、屍魔人だけがその文言に罪を組み込み、確認しているのか、さっきから疑問に思っていたんだ。
「君達は肉体を持ち、魄を持つ。だから死んでも人々に記憶は残る。
でもね、忘れちゃいけない。君は一度死んでいるんだ。魔人なんだ。
そして、君達は他の生命の魄を喰らう。つまり、彼岸の者が此岸の物を奪っているんだ」
一瞬の沈黙の後、今度は、佐伯先輩が質問を投げ掛けた。
「魔人だって、人を殺しているではありませんか?」
「確かに、それは心情的にも、『理』的にも罪だ。でも、彼らは魄を喰らわない。彼岸の魂を喰らう。だから、屍魔人よりも罪が浅い」
「人を殺すのが、罪ではないと?」
「それは、僕達の視線から見ているからだ。世界にとって、人の命も、虫の命も、草木の命も、皆等しいんだ」
今度こそ、この空間を沈黙が包み込む。
誰も、何も言わない。言えない。
だからこそ、オレはそんな空気を笑い飛ばす。
「それがどうしたよ?」
皆の視線が集まる。
「例えどんなにオレの罪が深くても、結局やることなんて何一つ変わんねぇじゃねぇか」
すると、ふふ、と笑い声が漏れる。
「全くその通りだな。たまには良いことを言うな、我が愚兄は」
「たまには余計だ」
「仕方ないわね。仕方ないから、協力して上げるわ」
「そうですね。確かに、目的は変わりません」
そう言って、みんなが賛同する。
横を見やると、微笑んでいるルルと、涙を貯めて微笑むヒナタがいる。
「あなた様がそれを望むと言うのであれば、わたくしはあなた様に従います」
「うん、私達が、君を支えるよ。私の心は、君と共にある。だから…………」
遠慮はしないで、と彼女は涙を流しながら笑う。
「ああ、ありがとう」
そしてオレ達は、その決意を新たにするのだった。
この物語を書き始めて、2度目のクリスマスシーズン。
それでは皆さん、良いクリスマスを。
メリークリチュマチュ!(噛みまみた)




