Conclusion:8 乗り越える為に
…………前々から思ってましたけど、ルルが一番ヒロインしてませんかね?
作者の僕が言うのも何ですけどね
大介さんのところで修行した日の夜、オレ達は三人で食卓を囲んでいた。
オレと、マルカと、そしてルル。
「ふー、ごちそうさま」
「お粗末さまですわ」
今日の晩飯はマルカとルルの合作。不味い訳がない。
「相変わらず、ルルとマルカは料理が上手いな。二つの意味で」
「あんまり上手いこと言えてないな、それは」
オレとマルカのそのやり取りに、ルルは小さく笑う。
けれど、その笑顔は、今までの屈託の無い笑顔とは違う。
「さて、それではわたくし、そろそろお暇いたしますわね」
食後の片付けが終わり、他愛の無い会話をして、時計の短針が9を指し始める頃、ルルがそう言って立ち上がる。
そんな彼女に、オレは声をかける。
「ルル」
「はい?」
「今日は泊まって行け」
「え?」
いきなりのオレの提案に、ルルは少し驚いた顔をする。
しかし、ルルは申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。
「カルマ様、お誘いは嬉しいのですか…………」
これまでなら、即答で承諾していたその提案を、彼女は断る。
それでも、オレは諦めない。
「センさんの了承も得た。いいから、泊まって行け」
「カルマ様…………ふふ、今日は積極的ですわね」
「ああ、積極的さ。だって、お前のそんな泣きそうな顔を見て、オレが放っておけるかよ」
彼女は笑顔を浮かべていた。でも、その目の奥には、堪えきれない悲しみと涙が見てとれた。
「………何でも、お見通しですのね」
「どれだけ一緒にいると思ってんだよ」
「そう、ですね…………」
呟く彼女の頬を、一筋の雫が零れ落ち、そして、声を上げて泣いた。
「落ち着いたか?」
ソファーに座る彼女の頭を撫でつつ、オレは隣に座る。
すると、こてん、とルルはオレの肩に頭を乗せる。
「カルマ様、わたくしは、姉失格ですわね」
ぽつりと、そう呟く。
「どうしてそう思うんだよ?」
「だって、大切な家族を、守ることが出来なかったのですから」
「…………」
「たった一人の、大切な………弟を、わたくしは…………」
「失格なんかじゃないさ」
「カルマ、様?」
「薄情に聞こえるかも知れねーけどよ、オレ達は今、命のやり取りをしているんだ。そしてここは現実で、漫画やゲームの世界じゃない。だから、味方が皆生き残る、なんて奇跡はそう簡単には起きないんだ」
オレの言葉に、ルルは下唇を噛む。
きっと、ルルにも分かっているのだろう。それでも、解っていても、認めたくないものは誰にだってある。
「それでも、わたくしは…………っ!」
それでもいい募ろうとする彼女は、再びその双眸に、涙を溜めていた。
しかし、そこから先は、言葉にならなかったのだろう。そのまま、オレにしがみつき、再び泣く。
「オレは、不器用で口下手だからさ、今、お前に掛けるべき言葉が浮かばない。でも、この胸くらいはいくらでも貸してやる。だから、今は泣け」
そっと、彼女を抱き締める。
ヒナタにやるような、愛を表す抱擁ではない。労るような、慰めるような、慈愛に溢れた抱擁。
「オレは、ここにいる。オレ達は、ここにいる。ルル、お前は独りじゃない。だから…………」
安心して、今は泣け。その涙を流しきり、振り切った時、お前はきっと、キースとの思い出に微笑む事ができる。
言いながら、頭を撫でる。
それから、どれくらい経っただろうか、ルルも泣き止み、オレ達は沈黙の中にいた。
不意に、彼女が顔を上げる。
「ありがとうございます、カルマ様」
「オレは何もしてねぇよ」
「それでも、ありがとうございます」
彼女は、両の眼を赤くしたまま微笑む。
―――しかしこの時、オレは忘れていたんだ。
―――ルルが〈雰囲気粉砕〉だと言うことを。
「…………ルル、何をしている?」
「何、とは?」
「そうだな、まずはオレのベッドにお前が入っている理由を聞こうか?」
「同衾ですわ」
「何でやねん!」
「先程の流れですと、当然の結果かと…………」
「うん、違う。全然違う!」
「ああもう、焦れったいですわね! 折角下着姿でベッドに入っていると言いますのに」
「マルカ、マルカー! ちょっとこの娘どうにかしてー!」
まったく…………。
服を着せられマルカに連行されるルルの姿を、ため息混じりの苦笑で見送る。
ま、完璧にとまでは行かなくても、ルルが普段の調子を取り戻す事ができたんだ。今はそれで良しとしよう。
そんな事を考えながら、オレは部屋に入る。
「そういえば、アイツ、下着姿でこのベッドに…………」
…………こう見えても、僕は思春期なんです。
翌朝、オレの目元に濃い隈が出来ていたのは、当然の帰結といえよう。
カルマ君が口下手=僕が口下手な訳ですよ。
しかし、誰かを慰めるかのがこんなにも難しいとは…………




