Conclusion:6 歯車
この小説を書きはじめてもう一年…………
早かったような短かったような…………
そこは、暗く湿った、獣臭い部屋だった。
ピチョン、ピチョン、と水滴が落ちる音と、この部屋で『造られた』獣たちの呼吸音が重なる。
そんな部屋で、『彼』は目を覚ます。
『やっほー、ようやくお目覚めだね。調子はどうだい?』
体を起こした彼に、少年のような声がかけられる。その声に、彼はフッと笑う。
『最高だ。良い仕事するじゃねぇか、〈奏でし獣〉』
彼の呼び掛けに姿を表したのは、小柄な魔人、〈奏でし獣〉テイム。
『そーだよ、寝坊助さん』
『仕方ないだろう。体の半分を持っていかれたんだから』
『みたいだね。まあ、だからこそ、体の半分を魔獣で補った君は〈天翔空羅〉よりも強くなれた訳なんだけどね』
『ほう…………』
それに、と、テイムは笑う。
『君の『秘密』も知ることができたわけだし』
『……それはよかったな』
『これからも協力してくれるなら、黙っていてあげるけど?』
『はっ、そんな忠告なんざ、必要ねーよ』
『あっはは、だよねー』
軽口を叩きあうと、彼は部屋の出口へと足を向けた。
今の彼には力が漲っていた。『大願成就のために命を捨てる』覚悟と力が。
『それじゃあ、行こうか、〈覇拳〉』
『ああ』
彼の名は〈覇拳〉フィスト。
力に酔い、戦いのみを己が至高とし、その上で一度カルマに敗北したものの、体の半分をテイムの魔獣とすることで、これまで以上の強靭な肉体と、意思を得た者…………
そして、歯車が動き出す。
その運命が導く結末がどのようなものか、まだわからない…………。
◆◆◆
ここは暗闇だ。どこまでもどこまでも、光の差さぬ、深淵の闇。
けれど、そんな闇の中でも、オレ達は互いを認識する。
その中で、オレ達は拳を交わす。殴り、殴られ、技を出しあい、オレの技量を磨いていく。
そんな、いつまで続くかわからないような戦いにも、遂に終わりが訪れる。
『冥道開通!』
『冥道開通!』
同じ技を、同時に展開する。
直後、互いの冥道が互いを飲み込もうとぶつかり合う。
『おおおお!』
『ああああ!』
バシッ! という意外と軽めの音と共に、オレの冥道が競り勝ち、『オレ』の冥道が飲み込まれる。
『さすがオレ。やるじゃねえか』
『ありがとよ、色々と教えてくれてさ』
『知らねぇな。それは元々、お前の中に眠っていた力なんだぜ?』
ゆっくりと眼前へ迫り来る冥道を眺めながら『オレ』はオレに言う。
『時間も無いみたいだし、一回しか言わないぞ? 質問も無しだ』
そう言うと、『オレ』はやや早口で告げる。
『オレは魔人の力でもなければ、人魔でもない。オレは屍魔人そのものだ』
『は?』
『屍魔人は魔人とも人魔とも違う存在だ。故にお前が魂術と思っていたあれは魂術ではなく、ただ冥界の鍵を開ける儀式だったんだ。出なければリスクが有るとはいえ、あんな反則じみた能力が使える訳がない』
『は? え? あ、ちょ…………』
怒濤の勢いで何だか物凄く重要な事を聞いているような気がするが、脳内処理が追い付かない。
冥道が『オレ』の体を半分ほど飲み込む。
『オレ』は最後にオレを見て、笑いながらこう告げた。
『そして、屍魔人ってのはな――――』
――――なるほど…………なるほどな。あの姿を見てもしや、と思ったが、まさか的中していようとは。
『でもよ、親父。オレはあんたが望んだこの力で、あんたの望みを叩き潰してやる』
オレの意志が確固たる物になった瞬間、暗闇の空間に光が炸裂した。
これからも頑張るゾー!
とか言いつつ、この章はもはやラストスパートなので、物凄く短いと思われます。




