Recllection:4 戦人
初体験な戦闘シーン。少し自信は無いですが頑張ってみました。
「う…ん」
オレが目を覚ますと、灯りの点いていない蛍光灯と、既にオレンジ色へ変わった黄昏の陽の光が目に入った。
「目が覚めたか?」
横を見ると、窓から外を見ていたらしいマルカが声をかけてくる。
「…おー…」
「ヒナタの…神騎の言霊に中てられたようだが、調子はどうなんだ?」
「悪くないな。全く持って最高な事に、何があったかは全部憶えてる」
そんな苦し紛れのオレの皮肉に、マルカは困ったように苦笑する。
「そんな軽口が叩けるなら、大丈夫だな」
鈍い頭痛に顔をしかめながら体を起こす。体がだるい。
「余り無茶をするな、カルマ。魔人に遭ったとき、私がいない時はすぐに退け」
そんな事を、何でも無いように、むしろ、冷たく突き放すように言ったマルカに、オレはつい声を荒らげる。
「逃げろってのか!? 魔人相手に!? ふざけ――」
「自惚れるな、戯けが!」
マルカの一喝が、オレの言葉を遮る。
「お前は、私がいなくては戦えぬのだぞ! 私はそれを自覚しろと言っているのだ!」
マルカは椅子から立ち上がり、オレの目の前に立つ。
「この国、この町に来た理由を忘れたか! いいか、ここでお前が死ねば、全てが水泡へと帰すのだぞ! それこそ、本末転倒と言うものだ、馬鹿者め」
彼女の言葉に、オレは一切の反論が出来ず、押し黙る。確かに、あの選択、あの行動は間違っていたのかも知れない。
いや、建て前では、マルカが来るまでの時間稼ぎと言ったが、本心ではきっと、魔人から逃げたくなかっただけなのだろうな。
コンコン、と扉を叩く音が聞こえたのは、マルカが深々とため息を付いた時だった。
「桐久保君、大丈夫? 貧血だって聞いたけど」
保健室に、ヒナタが入って来る。彼女は、オレがあの出来事を忘れていると思っているので、何事もなかったように接して来る。
――私はね、神騎なの――
神騎。魔人を討ち取るための存在。魔人が、魔なる神に魅せられ、支配された存在であるならば、神騎とは、神に祈り、愛された者達。
つまり、光と闇のように相反し、殺し合う存在同士。
ハハハ、なんて笑える、最悪な運命なのだろうか。かつて愛し、未だ尚、少なからず想っている女性が、オレの対極にある存在だったなんてな。
「じゃあ私は部活があるから、もう行くね。桐久保君、お大事に」
ヒナタが去ると、マルカがそっと、オレの頭を抱く。
「こんな時くらいは、胸を貸してやる。今は好きなだけ、思う存分泣くといい」
「……ツルペタでまな板のクセに、なに言ってやがる」
そして、出来るだけ声を押し殺して、ただただ無言で涙を流し続けた。
◆◆◆
ここは、人目につかない空き地。
そこの真ん中に、オレとマルカがいた。
「カルマ、ここでいいのか?」
「ああ、あの魔人は恐らくまだ死んでない。だとすれば、オレを狙ってくるハズだ」
そしてオレは、再びあの魔人の気配を感じ取り、すぐにバックステップをする。すると、目の前がの地面が抉れる。
『また避けたか』
「よう、スコッパー。不意打ちが好きとは、全く良い趣味してるよ」
まるで影に潜んでいたかのように現れる魔人を、油断無く見据える。
『吾が名を知っているのか、人魔よ』
「まあな、意外と博識だろ、オレ?」
マルカが隣に立ち、その矮躯から紅い輝きが放たれ、それに呼応するように、オレの左胸も輝き始める。
『貴様、ただの人魔ではないな?』
「ご名答。腰抜かすなよ?」
オレは皮肉ったらしく笑い、マルカに触れる。
「行くぜマルカ」
「ああ、カルマ」
オレとマルカ、二人の言霊が重なる。
「「魔人変躯!」」
紅い輝きがオレ達を包み込み、マルカが実体の無い光となって、オレの左胸へ吸い込まれる。
声も、魔人のようなくぐもった物へ変わり始める。
「始めようぜ、魔人さんよぉ!』
輝きが晴れたとき、オレの姿は変化していた。
髪は銀に近い白、目はルビーのような猫目、躯は乾いた血のような黒ずんだ紅の甲殻に覆われていて、顔は目元以外、口も鼻もマスクのように隠されている。
『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ。魔を狩り、己が業を纏う者なり』
魔人は戦う際、名乗りを上げる事を最低限の礼儀としている。オレもそれに従う。
『吾が名は〈抉りし鬼〉スコッパー。ありとあらゆる物を抉り殺す者なり』
互いが互いに名乗り終えたとき、オレは強く蹴り出した。それにより、地面は少々陥没したが、オレは刹那とも言える速度でスコッパーへ接近し、一瞬だけ視界から外れる。
『な―――ッ!』
スコッパーが反応した時には既に拳を握り、踏み込み、腰を捻り、抉るように上へベクトルを向けた、スピードとパワーの乗ったボディブローが、彼のわき腹へ突き刺さる。
『ゴハッ!』
一撃でその体は宙へ舞い上がる。
彼も、スコッパー〈抉りし鬼〉の名に相応しく、飛ばしてくる魔力はオレの甲殻を抉り、削ってくる。しかし、オレの甲殻は自動修復する。スコッパーの魔力にそれを破り、皮膚へ届く程の力は無い。
ジャンプする事で、宙に浮いていたスコッパーの頭上へ位置取り、踵を勢いよく振り下ろした。
『セラァ!』
踵は見事に魔人の胸部へねじ込まれ、魔人はその身を構成する魔力を撒き散らしながら落下し、地面へと叩きつけられた。
『なんだ…これは? 圧倒的過ぎる。勝てるわけが……』
スコッパーは、叩きつけられ、血を吐きながらうわごとのようにそう呟く。
『案外、大したことなかったな』
その姿を見かけながら、オレの人魔化に際して同化したマルカに話しかける。
『確かにな。だが、最後まで油断は無しだ』
『わかってるって』
スコッパーにトドメをさすべく、拳に魔力を篭め、近づいて行く。
『ッ! カルマ!』
『わかってる!』
マルカの警告と同時に、スコッパーから距離を取ると、突然その体が爆散し、粉々に弾け飛ぶ。
『誰だ!』
周囲へ神経を張り巡らせ、闖入者を探す。そして、それは直ぐに見つかった。
そこに現れたのは、二人の神騎だった。
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