Conclusion:3 願い
3章に入って、文字数が減ったと思います
「ん…………」
目を覚ますとそこは、真っ暗闇だった。
「ここは…………?」
「お前の心理、魂の在処さ」
「マルカ!」
「お前自信がこちらに来るのは初めてだな」
「お前は違うのかよ」
「戦闘時は、いつもここにいるからな」
マルカは辺りを見回して、ため息を付く。
「しかし、ここまで殺風景なのは初めて見たな」
そして、その言葉に答える声があった。
『それはそうさ。ここは深層心理。深海に光が届かないように、ここにも希望という光は届かない』
「誰だ!」
『誰だ、とはまた奇っ怪な事を訊く。オレはお前だと言うのに』
闇から滲むように出てきたのは、一人の魔人。その姿は、オレの屍魔人と瓜二つ。
『ここはお前の、いや、オレ達の絶望の溜まり場、悲嘆の坩堝、そして………』
ただ違うとすれば、髪は白ではなく白銀、眼は黒紅ではなく、真紅。
彼は両手を拡げ、高らかに言った。
『オレ達の願いの苗床だ』
◆◆◆
ベッドの上で眠っているカルマを見ながら、大介は小さく呟く。
「桐久保くん、君の深層心理では、きっとここと時間の流れが違うのだろうね」
そう言って席を立ち、身支度を整える。
「必ず勝って、戻ってきておくれ」
ドアに手をかけ、出ていく直前に、カルマの方へ顔を向ける。
「決して、自分の魔神なんかに負けてはいけないよ」
そしてドアはパタンと閉められた。
◆◆◆
「お前は、なんだ」
『オレはお前だ』
「それは分かっている」
「だから、誰だ、ではなく何だ?」
『オレはお前の願いだ』
「願い?」
『お前が力を欲し、己の無力を嘆き、弱さに絶望し、それでも尚、希望を持ったが故に生まれた、いわばお前の力の塊だ』
その答えに、ならば、とオレはまた問いを重ねる。
「どうすれば、オレは力を得られる?」
『簡単だ。オレを倒せばいい。オレはお前自身が無意識に作り出した、力の箱だからな』
「だったら…………」
言おうとした言葉の先は、ただし、と彼に遮られる。
『言ったよな。ここは絶望の溜まり場、悲嘆の坩堝だって。つまり、オレは、パンドラの箱だぜ?』
不敵に笑う。
『オレには、お前の絶望、怒り、悲しみ、そういった感情がギッシリ詰まっている。オレと戦いながら、それに耐えられるかな?』
翼も無いのに浮かび上がる彼を見上げる。
『今回はお前一人だ。誰もお前を支えてくれないぞ? もちろん、マルカもだ』
「え?」
気がつけば、マルカはどこにも居なかった。
「てめえ! 何しやがった!」
『嫌だなぁ、マルカはオレにとっても妹だからね。彼女はただ、ここへの道案内役だったからね。今は退場してもらった』
「変身、できなくなるぞ?」
『ここはお前の中だということを忘れたか? マルカがいなくても、変身はできる』
「そうかよ。魔人変躯!」
確かに、オレ一人でも魔人に成ることができた。それを見て、もう一人のオレが笑う。
『さあ、始めようか! お前の、いや、オレ達の願いを掴む為に!』
『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ! 魔を狩り、己が業を纏う者なり!』
オレの名乗りに、〈オレ〉も応える。だが、その名乗りはオレの物と全然違った。
『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ! 名は業を現し、其の罪を抱きて神へと成る者なり!』
『神だと!?』
『そおら、ボケッとする暇は無いぞ!』
圧倒的な魔力を撒き散らし、〈オレ〉は肉薄してくる。拳が振るわれる。それを避けると、右から回し蹴りが飛んでくる。
『くっ!』
『おおー、流石オレ。避けるねー』
『けっ、舐めんな』
『いやいや、自分の実力くらい知ってるよ。ただ、今は〈オレ〉の方が強いんだけどね』
『チッ、やっぱりそうかよ…………』
〈オレ〉の猛攻を防ぎながら、オレは後退する。
『逃げんなよ! 力を手に入れたきゃ、〈オレ〉を、お前自身を超えて見せろ!』
『ああ!? 言われなくても、そうするつもりだボケナスが!』
オレは駆け出す。
奴に届かせるにはどうしたらいい?
考えろ!
攻撃を転位で避け、背後を取るが、それすらも簡単に対処される。
『ああそうだ、考えろ!』
〈オレ〉が叫ぶ。
『その試行錯誤が、オレ達の力になる! 時間はタップリあるんだ! うんと考えて、〈オレ〉を超えろ!』
そして、オレ対〈オレ〉の永くて一瞬の戦いが始まった。
よーし、色々と、頑張るぞー




