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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
63/100

Resolution:33 代行者

長っ! なにこれなっが!

フリムン史上最も長い話です、今話。


いよいよ二章もクライマックスでござーい!

◆◆◆


 時は少々遡り。

 病院から少し離れた木の上、一組の男女がいた。

 男は木の幹に腰を下ろし、遠くで繰り広げられられている戦いを観戦していた。


「お? カルマくん、しっかり戦っているね。ガンバレー」

「マイマスター、それはどちらへの応援ですか?」

「んー、どっちもかな?」


 そう言って、男は笑う。

 すると、女がふと顔を上げ、上空を指差す。


「マイマスター、〈奏でし獣〉が予定通りに到着致しました」

「やあ、お帰り」

『〈代行者〉! 戦況は!?』

「そうだねぇ、今戦っている〈覇拳〉と君を除いて、全滅かな?」

『どうするのさ』

「〈奏でし獣〉、マイマスターの計画に変更はありません」

「そゆこと。だから僕の分の魔獣も出してよ。これから『(かれ)』を(うば)いに行くから」

『わかった』

 

 〈奏でし獣〉の影から現れた巨大な鴉が、翼を広げる。

 それを見て、男は笑みを浮かべる。


「それじゃ、行こうか『咎那(トガナ)』」

「Yes my master」


『『魔人変躯(イーヴィル・トランス)』』


 そして男は魔人へと成る。


◆◆◆


「カルくん!」

『カルマ様!』

「桐久保!」


 軋む体に鞭を打ち、神谷の病室へ急ぎ走ると、通路の方でヒナタ、ルル、梶原と合流する。


『佐伯先輩とキースは!?』

『わかりませんが、彼らなら大丈夫でしょう』

「急ごう!」


 彼女らの姿は、オレ以上に満身創痍だった。


『いや、お前らはここで休め。その身体ではまともに戦えない』

「そんなこと無いわよ桐久保。それにね、私たちの大切な後輩なの。アンタが止めようと、アタシ達は行くわよ」

『のようだぞ、カルマ』

『はぁ……わかったよ』




 オレ達が病室に着いた時、既に護衛の人魔達は全滅した後だった。


『カルマ、これは………』

『嘘、だろ………?』

「そんな…………」

『わたくし達より手練れもおりましたのに』

「……それだけ、相手は強いって事ね」


 急いで病室へ入る。

 そこで一番最初に目に映ったのは、


『〈代行者〉!』

「神谷くんから離れて!」

「なんでアンタもいるの、テイム!」

『お二方、動かないで下さいまし?』


 神谷の近くに立つ〈代行者〉と、その後ろに立つ〈奏でし獣〉は、こちらを見やり、〈代行者〉は笑い声を上げ、楽しそうに言う。


『やぁ、来たね、カルマくん』

『何故オレの名前を知っている!』

『ふふふ、どうしてだろうね?』


 〈代行者〉がイタズラっぽく嗤う。


『神谷から、離れろ!』


 オレが飛びかかると、〈奏でし獣〉が動こうとするが、それを〈代行者〉が止める。

 奴はオレの攻撃を避けると、一歩下がり、構える。


『折角だから、相手して上げるよ』


 野郎、完全に舐めてやがる!

 オレがまた飛び出そうとすると、すぐ後ろから黒蝶が舞い、〈代行者〉が怯んだ隙に剣撃と銃撃が入る。


『カルマ様、落ち着いて下さい』

「桐久保、あまり飛び出さないで! 間違って撃ちそうになる!」

「大丈夫、皆いるよ」


 オレ達四人が構えると、それを見た〈代行者〉が楽しそうに笑った。


『いいよ、全員で来るといい』

『言われなくても、そのつもりだ! 【狩魔(ハンティング・イーヴィル)!】』

『私も! 【悪魔を喰らえ(デビルス・イーター)!】』


 駆け抜け、拳を振り抜いた。

 それを援護するように、銃弾と黒蝶がそれぞれ〈代行者〉の体を撃ち、意識を反らす。

 オレの拳に合わせて、ヒナタの剣も振られた。二つは入れ違いに奴の顔面へ当たる。


『なっ!?』

『ふふふ、痛いじゃないか』


 だが、奴はなんとも無さそうに立っている。

 確かに、顔の甲殻には、攻撃を受けた後があり、ヒビが入っている。


『【斥力(リパルション)】』


 たった一言。言葉一つで、強烈な衝撃がオレ達を襲う。


『がはっ!』


 オレ達は壁に打ち付けられ、倒れる。

 なんだ、この力量差は…………。


『全く、駄目じゃないか』


 ため息交じりにそういった彼は、次の瞬間、信じられない言葉を放った。


『まだまだだね、メウ・フィリョ(わがむすこ)


 ――――――


 ―――――――――


 ――待て。


 ―――今、


 ―――――なんと言った?


 オレの事をフィリョ(むすこ)なんて呼ぶ奴なんか、一人しか……………

 彼が、ヒビの隙間から甲殻を剥がしていき、最初に口が見えた。


「それにしても、僕も怒るよ?」


 発せられたのは、よく知る声。

 どんどん甲殻は剥がされ、遂に顔が露になる。



 そして、そこにあったのは―――――



父さん(・・・)の顔面をあんなに強く殴るなんて。地味に痛かったよ。ヒナタちゃんも、痛かったよ?」


 嘘…………だろう?

 だって、まさか、そんな…………

 だってだって、松岡さんを殺したのも、神谷を殺そうとしているのも〈代行者〉で、その〈代行者〉が……………………


『親…………父?』

「うん? どうしたのカルマくん?」


 親父は笑っている。どこまでも笑顔だ。朗らかな、明るい、欺瞞に満ちた笑み。

 震える声で、オレは問う。


『全部、嘘だったのかよ…………』

「ん?」

『全部、オレに見せてきた物全部! 言葉も、想いも、全部、嘘だったのかよ! 親父!』

「僕は言ったはずだよ? 君の見ているもの、信じているものは、本当に、真実(ホンモノ)かい? ってね」

『こういう…………ことかよ』

「こういう事さ」


 オレは立ち上がろうと、体に力を込める。が、急に全身の力が抜け、上手く立てない。


「ああ、無理はしない方がいい。〈覇拳〉との戦いでかなり消耗しているでしょ。多分、今こうして話しているだけでも精一杯のはずだ」


 その言葉に、絶句のあまり動けなかったヒナタとルルが、驚いた声を上げる。


「だから、そこで見ているといい」

『何をだ…………』

「おいおい、僕がここに来た理由、忘れたのかい?」

『―――っ! やめろ!』

「バカだなぁ、ここでやめたら、全く持ってムダじゃないか」


 そう言って、親父は神谷に近づく。


「〈獣〉、カルマくんはほっといていいから、残りの3人、動けないようにしといて」

『はいはい』


 完全にオレ達は動きを封じられた。


「じゃ、始めようか」

『やめろ…………』


 そして、親父は―――――





 神谷の心臓を、鷲掴みにする。


『やめろぉぉぉおお!!!』

「ぅぅううああああああ!!!」


 オレと神谷の絶叫が、交差する。


「いやぁぁぁあああ!!」

『やめて、お願いします!!!』

「神谷、神谷ぁぁぁあ!!」


 彼女達の声も重なる。

 そして親父は、紅い光に照らされるなか、狂喜に満ちた顔で笑う。


「ハハハハハハハ!! ようやくだ! ようやくこれで次の段階へ行ける!」


 絶叫と悲鳴と哄笑の入り乱れる中、オレは神谷と目が合った。

 目には苦悶の涙が浮かび、救いを求めるかのようにこっちを見ている。


「やめろ、親父! やめてくれ! 神谷ぁぁぁあ!」


 いつの間にか変身は解け、マルカは隣で気を失っていた。


「あああぁぁがぁぁ!!」


 身体中から紅い光を放つ神谷の身体が薄れ始める。


「さあ、来たれ『器』よ! 我らが下に!」


 親父の右手が引き抜かれる。

 その手には、拳大の紅い宝玉。魔人の核、いや、魔神の器。

 そして、それがその手にあると言うことは、つまり……………


「…けて………先輩…………」


 神谷の体が、光となり、宝玉へと吸収された。


「そんな…………」


 呆然とするオレ達に、親父が声をかける。


「ああそうそう、これ(・・)拾ったから、返しておくね」


 そう言われて、魔獣が口から放り出したのは、二つの人影。


 キースと佐伯先輩だった。


「キース! 先輩!」

「先輩とやらは大丈夫そうだけど、キースはそろそろヤバイかもね」


 それだけ言うと、親父は踵を返し、魔獣に股がる。


「待てよ…………親父」

「じゃあね、カルマくん。すぐに会えると思うけど」

「待てよ、親父ィ!!!」


 だが、親父はそれ以上止まることも、振り向く事もなく、飛び去って行った。





「キース、キース!」


 ルルが泣いていた。

 それもそうだろう。


「キース、しっかりしろ!」

「ああ、義兄(にい)さま、姉さま…………」


 キースは息も絶え絶えで、言葉も弱々しい。


「僕は、役に立てたでしょうか? 厄介者では、無かったでしょうか?」

「バカ! わたくしのたった一人の弟が、厄介者な訳無いでしょう!!」

「キース、お前は、オレの義弟(おとうと)なんだ! ここで死ぬな!」


 オレとルルは左右からキースを抱きしめ、言葉を交わし合う。

 マルカも、ヒナタも、梶原も、目を覚ました佐伯先輩も後ろで見ている。


義兄(にい)さま…………お願いが…………」

「なんだ?」

「僕を、喰って下さい…………」

「何を言ってんだよ! できるわけ…………」


 オレのその言葉を、キースが遮る。ルルは何も言わない。


「あのお医者様のように…………! 義兄(にい)さまの手で、送って貰いたいんです。そうすれば、僕の魂術は、義兄(にい)さまの中で、ずっと生き続ける…………」

「ふざけんなよ…………っ! なんで、そんなこと言うんだよ! ルルも、何か言ってやれ!」


 しかしルルは、涙を流しながら、静かに首を振る。

 嫌だよ…………


「カルマ様、わたくしからも、お願いです」


 嫌だ…………


「この子を、送って下さい」

「嫌だ! なんで、なんでオレばっかりに、こんな重責(おもい)なんか遺して逝くんだよ! 辛いんだよ!」


 オレのその叫びに、全員が沈黙する。

 だが、一つの声がオレに喝を入れる。


「だが、その修羅の道を選んだのは他でもない、お前だ、カルマよ」

「マルカ…………」

「お前のその我儘で、キースの想いを無駄にするのか、それとも、我儘を圧し殺して己が道を突き通すか、今はこの二つだ。選べカルマ。」

「なら…………」

「ただし、お前がすべてを放棄し、逃げ出すと言うのなら、私はお前と共に戦わない。それを踏まえた上で、選べ」


 ……………………ああ、わかったよ。

 思い出す。これまで手を差しのべてくれた人たちを。その想いを。

 オレは、逃げたくても、逃げられない。

 だから、


「ああ、選んでやるさ!! オレは、逃げないよ! 逃げてたまるかよ、逃げられるかよ!」


 止めどなく流れる涙を乱暴に拭い、キースの手を強く握る。


「キース、お前の願い、そして想い、このオレが受け取った!」


 声が震える。詰まりそうになる喉を、無理矢理拡げ、声を出す。


「だから安心して、眠れ、安らかに」


『『魔人変躯(イーヴィル・トランス)』』


 そして、拳を握る。

 それを見たキースが、小さく、微笑んだ。


『【冥道開通】』

『ありがとうございます、カルマ義兄(にい)さま…………』





 神谷、そしてキースの消えた病室で、オレは哭いた。

 ルルも、泣いた。

 オレにしがみつき泣くルルを受け止め、その背を摩りながら、オレも哭いた。声をあげて、泣いた。


「何も……………何も、守れなかった…………っ! 大切なものを、何一つ!」

「キース! ぁぁぁあ! キース!」

「カルくん…………ごめんなさい、守れなくて、ごめんなさい…………」


 ヒナタも泣いている。

 梶原も、佐伯先輩も、あのマルカでさえ、涙を流している。


 オレ達は慟哭した。心の底から、魂の深奥から、嘆いた。

 己の無力を、弱さを、剥離の痛みを。

 オレは、オレ達は、一体何の為に、戦ったと言うんだ…………っ!




 嘆き、怒り、そしてオレの中に、親父への憎しみが生まれた。

 その瞬間、オレの中の魔人の力が――――変質(・・)した。

 だが、オレがそのときそれに気付くことは無かった。















◆◆◆


 体の半身を失い、静かに星空を見ていたフィストの頭上に、人影が現れる。


『やっほー、生きてる、〈覇拳〉?』

『…………なんだよ、〈奏でし獣〉』

『うわ、ホントに生きてる。ゴキ×リ並の生命力…………』

『クソ、万全ならぶん殴ってるのに』

『それより、大人しく僕に運ばれてよね』

『あ? ってなんだ〈天翔空羅〉もいるのか』

『ま、完全消滅した〈消滅〉と〈剣影〉、もともと当て馬のスコーピオンは回収できなかったけどね』

『なんだよ、これ治してくれんのかよ』

『〈代行者〉からのお達しでね、君たちは最高峰の戦力なんだから、死ぬなってさ』


 どっこいせ、と無造作に魔獣の上にフィストをのせ、飛び立つ。

 月明かりの照らす星空の中、一体の黒竜が飛び去って行った。



次の話で二章も完結となります。


ハッピーエンドを期待していた方々、申し訳ありません。

しかし、自分の中ではすでにストーリーも固まっており、このバッドエンドは回避不可でした。



それと、この作品で多くの人が死ぬのは、戦いにおけるリアリティを出すためなのです。


異論は認める。

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