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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
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Resolution:32 拳冥と拳王

冥道開通に始めてルビ振って見ました

『ぬんっ!』

『せいっ!


 繰り出された右の剛拳を、右の手で後ろへ受け流し、その自分の右手を鞭のようにしならせ、裏拳を放つ。

 しかしそれは、左腕で受け止められ、フィストの右腕と挟み込まれ、ホールドされる。同時に、フィストの右の蹴りが足下、オレの軸足を狙ってくる。

 かわすためにとは言え、単調に跳ぶとそのまま投げられるので、回転を加え、ホールドを外しながら距離を取る。ついでに蹴りも入れておく。避けられたが。


『はははは! 愉しいな、カルマぁ!』


 フィストが笑う。愉しそうに、嗤う。


『うっせ、この戦闘狂(バトルジャンキー)が』


 また、接近し、拳を、脚を交える。

 力は互いに拮抗。

 響くのは、互いの体を打撃し合う、鈍い音のみ。


『行くぜぇ、【覇拳】!』

『洒落臭え、【狩魔(ハンティング・イーヴィル)】!』


 互いの名付魔術(ネームドフォース)が衝突し、相殺され、その反動で、地面が大きく抉れる。

 そこからまた、乱打戦が始まる。


 強い。

 スコッパーよりもフレイよりも、ずっと強い。

え? パーム? そんなやついたっけ?

 とにかく、強い。

 向こうの攻撃にはなんとか耐えているが、こちらの攻撃も上手く入らない。恐らく、先に集中力を切らした方の負けだ。


『フィスト! 今はひk…………』

『だが、断る!』

『やっぱりかよ! 予想通りだなおい!』


 ハイキックを放つと、バック転で回避され、距離が開く。


『オレは今、お前と戦っている暇はない! オレは〈代行者〉と…………』

『知らんな、そんなこと!』

『これが終わったら、いくらでも相手してやる!』

『ここまで来て終わるとか、お前、俺、不完全燃焼で暴れるぜぇ!』


 フィストが近くにあった木を鷲掴みにし、こちらへ投げつける。

 それを、アスカさん空間転移で回避し、突き刺さった木の上に立つ。


『ああくそ! 結局こうなるのかよ!』

『カルマ! 冥道を使え! 今はやむを得ん!』


 オレが苛立たしげに叫ぶと、マルカが応えた。


『そうだな…………フィスト! 悪いが、これで終わらせる!』


 木の上から飛び上がり、フィストの頭上へ躍り出る。


『喰らいな! 【冥道開通】!』


 空間が捻れ、次元が歪み、全ての魂の回帰点への道が開かれる。

 開かれた黒い孔は、そのままフィストの頭上から迫り、彼を飲み込む……………………はずだった。


『【破邪拳正(はじゃけんしょう)】!』


 しかし、その冥道への扉は、フィストの技によって砕かれる。


『んな!?』

『ふぅー、危ない危ない』

『何しやがった!』

『【破邪拳正(はじゃけんしょう)】―――魔力に由来するものを打ち砕く拳だ』

『魔力に、由来するもの…………?』


 それができたとして、魔術で冥道が砕けると言うのか?

 だが、現にできている。しかし、冥道に相対できるのは、オレの知る限り魂術(・・)だけ…………。

 待てよ? 『破邪拳正』? …………正しくは『破邪顕正』。意味は不正を砕き、正義を明らかにする。

 転じて、コイツの能力は、魔を打ち砕く。

 だがなぜ、コイツが魔を壊さねばならない?


『さあ、さっさと来いよ、カルマ』 

『おいフィスト。一つ、聞いていいか?』

『あん?』

『お前はなぜ、魔人に協力する?』

『は?』


 この戦闘狂なら、魔を打ち砕く力を作ったコイツなら、もしかしたら…………。


『オレ達の側に付けば、他にも、様々な魔人と戦えるぞ?』

『え? やだ』

『即答…………っ!』


 やっぱりダメかー。


『じゃあ、今度は質問だ』

『次はなんだよ』

『お前、魂術って使えるか(・・・・)?』

『…………はっ! 何を言い出すかと思えば。オレは魔人だぜ? 魂術は人魔の専売特許じゃねえか』

『そう、だな』


 やはり、あれは思い違いのようだ。

 ならそれは頭から捨てろ。まずは目の前に集中だ。


『カルマ! もっと盛り上げようや!』


 フィストが魔力を練り始める。


『【打ち砕け!】【我が王位の拳よ!】』


 フィストが詠唱を始める。

 オレには、詠唱による最強の能力、なんて物はない。ただ、代償は大きいが、冥道を強化することができる。

 なら、


『【廻れ】【巡れ】【輪廻よ!】』


 オレ達の声が交差する。


『【この拳で】【我が覇を示せ!】』


 フィストは何を思って、詠唱するのだろう?

 いや、多分、戦うこと意外、考えていないのだろう。

 そして、オレは、


『【そこは全ての回帰点】【全ての創始点】』


 みんなの顔が浮かぶ。

 守りたい。

 失いたくない。


『【さあ刻め!】【さあ穿て!】【我が覇道は】【(ここ)にあり!】』


 もう、独りぼっちで戦うのはやめだ。

 オレにはもう、仲間がいるから!


『【開け!】【喰らえ!】【彷徨える魂よ!】【冥府へ回帰せよ!】』


 これで、フィストとの決着を着ける!


(オレ)の一撃、受けてみよ! 【黎明の王拳(キングフィスト・オブ・ジ・ダウン)】!』


 青白い魔力を纏ったフィストの拳が、振り抜かれる。すると、その魔力が膨れ上がり、巨大な拳の大砲となってオレに迫り来る。

 オレも、術を放つ。


『輪廻の回廊へ誘われろ! 【冥道開通(アブリンド・デ・インフェルノ)】!』


 先程よりも大きく、強力な冥道が開かれる。

 その黒い冥道は、フィストへ向かって飛んでいく。


 そして、フィストの拳とオレの冥道がぶつかる。

 火花…………いや、魔力同士がぶつかり、相殺し合い、光が飛び散る。


『負けねぇぜ! カルマぁぁぁあ!』


 向こうの圧力がさらに増した。

 徐々に押され始める。


『マルカぁ! 出し惜しみは、無しだ!』

『しかし!』

『このままだと、負けるぞ!』

『くっ、やむを得ん!』


 体の魂だけでなく、魄がゴッソリ持っていかれる。それにより、オレの存在が薄れ、体から力が抜け落ちる。

 だがそれに反比例して、(わざ)の力は強くなる。


『く、ぉぉお!』

『『らぁぁぁあ!』』


 どちらからともなく、前へ進む。

 一歩、また一歩と、徐々に彼我の距離は狭まって行く。

 そして、互いに近づける極限まで近づいた時、均衡が崩れる。


『カルマぁぁぁあ!』

『『フィストぉぉお!』』


 互いが拳を限界まで振り抜き、そして、


『『貰った!』』


 フィストの拳を、オレの拳が打ち砕く。

 直後、魔力の奔流と収束が同時に起こった。


 打ち砕かれたことによる、フィストの魔力暴走と、冥道の吸引だ。

 そして、その奔流が、二人を襲った。




 それが収まった時、立っている者はいなかった。だが、その状態でも、勝敗は決していた。


『カルマ…………カルマよぉ』

『なんだよ、フィスト』


 弱々しく掠れた声に、カルマが体を起こす。


『お前、強いなぁ……やっぱり、最高だ』


 フィストは、理解している。もう死ぬのだと。

 彼には、右半身と左足が無かった。右は冥道に喰われ、左は魔力の奔流に飲み込まれた。


『愉しかったぜ、カルマ』

『そうかい』

『来世ってのが、本当にあるんなら、またやろうや』

『来世は確かにあるが、お断りだ』

『はは、連れねえ…………な』


 オレはトドメを刺すべく、拳を握る。

 だが、それをフィストが止める。


『カルマ、このまま、死なせてくれ』

『ん?』

『こんなに静かな気持ちは久しぶりだ。もう少し、味わいたい』

『…………わかった。じゃあ、オレは行くぞ』

『おうよ…………あば、よ』


 その言葉を背に、オレは踵を返した。


 ―――――直後、神谷の病室が、爆発した。


さて、もう直ぐ二章も終わりです。


次回、〈代行者〉の正体が明らかになります。

まあ、勘づいているひともいると思いますが…………

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