表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
61/100

Resolution:31 剣姫と剣鬼

最近なんかちょっとうまく書けていないような気がする…………

 振るわれる。交差する。火花が散る。遅れて。金属同士の打ち合う音が鳴り響く。


『【影刃(えいじん)】』


 虚空に振るわれた二刀は闇に溶け、ヒナタの背後に現れる。

 ブレイドの能力は影を操る力。そして夜は、地球の影、転じて、夜の空間を操る力。


「【閃光灯火(フラッシュ)】!」


 対して、ヒナタは神騎。光に属し、光を操る能力を持つ。彼女は一時的に闇を払いのけ、刃を影ごと消し飛ばす。


『ふっ!』

「やっ!」


 互いに発する言葉は気合いのそれのみ。会話は無い。


 ブレイドが右の剣を下から振り上げる。それをヒナタが横に反れることで回避し、反撃の剣をがら空きの右脇腹へ真一文字に振り抜く。

 体を捻りながら左の剣で受け止め、弾き、二刀同時に斬り上げる。

 バックステップで回避し、剣を突き込む。交差した剣で受け止める。


 こうした戦いが、長く続いていた。その戦いはまさに舞い、まさに剣舞。


『そろそろ、いいか』


 ポツリと呟いたブレイドのセリフに、ヒナタは身構える。


『【影写(かげうつし)】』


 空間がグニャリと歪み、影が形を成す。生まれたのはブレイドの分身体。

 それを見て、ヒナタは微笑を浮かべる。


「ようやく、本気?」

『ふん、強がるのも今のうちだ』


 彼は知らない。


『もらった!』

「ううん、甘いよ!」


 ヒナタもまた、複数の剣を操る者だと言うことに。


『なに!?』


 空中に浮かぶのは、白金に薄く輝く四本の刃。正眼に構えた彼女の背後に、翼のように展開していた。


「【踊る剣翼(ブレード・ダンサー)】。佐伯先輩の双剣と、サナちゃんの武器生成から学んで作り出した、あなたの四刀流を凌ぐ五刀流」

『五刀流だと? とんだハッタリだ。そんなもの操れる訳が…………』

「できたのだから仕方ないじゃない。でも、確かに難しいけどね」


 思考力、判断力、それらを五本の剣へと使う集中力。これらが無ければ、使用どころか展開すら難しい術だ、とブレイドは考え至り、敵ながら感嘆してしまう。

 そして、美しいとも。


『ふふふっ、見事だ』

「ありがと、じゃあ、行くよ!」


 そして、再び剣舞が始まる。

 闇夜に銀閃が舞う。

 方や二人一対の魔人の剣、方や四枚の剣翼と一本の太刀を振るう神騎の剣。

 常人には到底目では追えない剣戟。音すらも、遅れ始める。




『くっ! 少々分が悪いか!』


 四本の剣で打ち付けるも、それを四本の剣が防ぎ、五本目の剣が叩きつけられる。


 …………やむを得ないか。


 ブレイドは分身を解く。その行動に、ヒナタが警戒する。

 そして彼は唱える。


『【我は鬼】【我は影】【そして我は刃】』


 彼に、戦う理由など無い。


『【我が欲す物】【それは愉悦】』


 強いて言うなれば、娯楽。その一言だ。


『【影に潜み】【刃を振るい】【獲物を喰らう】』


〈覇拳〉程では無いが、自分もまた、戦闘狂だと自覚している。


『【故に嗤え】【哄笑せよ】』


 だから、嬉しい。自らとまともに剣を打ち合えるような者が現れたのだから。


獲物(てき)は目の前にいるぞ! 【狩り踊れ我が刃の狗(ブレード・ハンター・ハウンド)】!』


 影が、乱舞する。

 現れた分身は五体。本体も含めた計六体。

 手にはそれぞれ二本の剣。合計十二本。

 それが、ヒナタを襲う。


◆◆◆


 押されている。

 それもそうだろう。何せ向こうの方が手数、速度で上回っているのだ。

 剣を交える中、ヒナタは考える。

 カルくんともっと一緒にいたい。

 いきなり、脈絡の無いことだけど、そう思った。

 この戦いで、結果はどうあれ戦況は大きく動く。そうなれば、戦いは激化し、カルくんへの負担とダメージも大きくなる。

 直接は聞いていないけど、わかる事がある。カルくんは、今凄く弱っている。前のように発作や症状は見せなくなったけど、でも、彼は弱っている。

 暇があれば彼を見ている位なのだ。彼がどれだけ隠していても分かる。

 この先、力を付けなければ、彼に負担をかけるだろう。


 そんなことを考えていたからだろうか、油断した。

 彼の、彼らの斬撃を受けきれなかった。

 1度喰らえば、そこから崩されるように、立て続けに攻撃を喰らう。


「かはっ…………っ!」


 膝から力が抜け、立つのも辛い。


『お前は、よく頑張った。よく楽しませてくれた。だが、ここまでだ』


 頭上から、ブレイドの声がする。

 これで、終わり…………?


 頭が回らない、思考ができない。

 剣を落とし、地に手を付く。


 ―――彼と、一緒にいたい。


 頭の中に、声が聞こえた。私の声だ。


 ―――たとえ、その時間が短くとも。


 胸元から、何かが零れる。

 首にかかった、青い石のペンダント。

 彼から貰った、宝物。


 ―――だから、負けられない。


 そうだ、負けられない。

 私は空っぽだった。

 小さい頃、物心付く頃には、泣くという感情はなかった。

 嬉しいも、悲しいも、腹立たしいも、そう言った感情を理解できない、人として欠陥だらけの子供だった。

 私はそれを、半ば本能的に、五才にして理解していた。

 そんな、空っぽな私は、誰とも仲良くなんてできなかった。喧嘩する理由も、仲良くなる理由も、感情を知らない私は理解できず、常に一人だった。

 だけど、私の隣には、いつの間にかカルくんがいた。彼は私に笑いかけ続けた。仲良くなろうとしてくれた。

 そんな彼に、私は初めて、興味という感情を抱き、そして初めて笑った。

 だけど、ある日突然、彼はいなくなった。家庭の都合だって、分かっていたのに、解りたくなかった。

 そして、私の心は再び空っぽになった。

 それからまた再会して、少しずつ私の心は埋められていった。


 だから、私が失った物を、すべて取り戻す!

 そして、彼と共に生きる!


『何!?』


 降り下ろされた剣を、掴んだ剣で弾き飛ばし、展開していた剣翼で牽制する。

 そして唱える。

 自らの想いを。


「【私は!】【全てを取り戻す!】」


 ありきたりで、月並みだけれど、


『【あの日失って】【諦めた物を!】』


 私は、カルくんが好き。

 それは、一方的な物かもしれない。

 ルルさんの様に尽くす事はできないかもしれない。

 それでも、


『【やっと出会えた!】【やっと見つけた!】』


 幼い頃の恋心を、ずっと抱き続ける。

 それは異常なのかも知れない。おかしいのかも知れない。


『【もう失いたくない!】【取り戻したい!】』


 だったら、私は壊れてていい。

 それでも、彼が好きなのだから。

 だから―――


「舞え、信念の刃よ、【愛しき戦姫の剣舞(ソード・プリンセス・ダンシング)】!」


 ―――ここで、負けられない!!




 展開したのは、幾千にも及ぶ剣。

 それぞれが白金に輝き、夜闇を照らし出す。


『なんだ…………それは…………』


 ブレイドは思った。勝てるわけが無いと。 

 そして同時に思った。


『美しい…………見事だ!』


 剣の波が襲う。いや、波ではない。これは舞だ。剣の舞。


『おおおおおお!』


 剣で剣を弾く。

 五体の分身が集まり、弾いていく。だが、足りない。

 隙間から、剣が入り込み。切り裂いていく。一体、また一体と斬り伏せられていく。


「あああ!」


 そして、その舞いに、ブレイドは飲み込まれた。





 剣の舞いが終わり、光の本流が終わったとき、そこにはブレイドがいた。

 体の四肢を切り裂かれ、数多の刃が刺さって尚、彼は生きていた。


『…………重ねて言う、見事だ、〈太刀の神騎〉朝霧ヒナタ』

「あなたも、とても強かった、〈剣影〉ブレイドさん」

『もう満足だ。最期に素晴らしい剣士、いや、剣姫と相対することができたのだから』

「…………そう」


 その言葉を最期に、ブレイドは消滅した。



「…………はぁっ、はぁっ」


 ヒナタも、すべての体力を使いきり、座り込む。さすがに、体力が持たない。それに、ダメージも大きい。

 だが彼女は立ち上がる。

 大好きな人が守ろうとする、自身にとっても大事な後輩を守るために。



あと2戦、あと2戦♪



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ