Resolution:31 剣姫と剣鬼
最近なんかちょっとうまく書けていないような気がする…………
振るわれる。交差する。火花が散る。遅れて。金属同士の打ち合う音が鳴り響く。
『【影刃】』
虚空に振るわれた二刀は闇に溶け、ヒナタの背後に現れる。
ブレイドの能力は影を操る力。そして夜は、地球の影、転じて、夜の空間を操る力。
「【閃光灯火】!」
対して、ヒナタは神騎。光に属し、光を操る能力を持つ。彼女は一時的に闇を払いのけ、刃を影ごと消し飛ばす。
『ふっ!』
「やっ!」
互いに発する言葉は気合いのそれのみ。会話は無い。
ブレイドが右の剣を下から振り上げる。それをヒナタが横に反れることで回避し、反撃の剣をがら空きの右脇腹へ真一文字に振り抜く。
体を捻りながら左の剣で受け止め、弾き、二刀同時に斬り上げる。
バックステップで回避し、剣を突き込む。交差した剣で受け止める。
こうした戦いが、長く続いていた。その戦いはまさに舞い、まさに剣舞。
『そろそろ、いいか』
ポツリと呟いたブレイドのセリフに、ヒナタは身構える。
『【影写】』
空間がグニャリと歪み、影が形を成す。生まれたのはブレイドの分身体。
それを見て、ヒナタは微笑を浮かべる。
「ようやく、本気?」
『ふん、強がるのも今のうちだ』
彼は知らない。
『もらった!』
「ううん、甘いよ!」
ヒナタもまた、複数の剣を操る者だと言うことに。
『なに!?』
空中に浮かぶのは、白金に薄く輝く四本の刃。正眼に構えた彼女の背後に、翼のように展開していた。
「【踊る剣翼】。佐伯先輩の双剣と、サナちゃんの武器生成から学んで作り出した、あなたの四刀流を凌ぐ五刀流」
『五刀流だと? とんだハッタリだ。そんなもの操れる訳が…………』
「できたのだから仕方ないじゃない。でも、確かに難しいけどね」
思考力、判断力、それらを五本の剣へと使う集中力。これらが無ければ、使用どころか展開すら難しい術だ、とブレイドは考え至り、敵ながら感嘆してしまう。
そして、美しいとも。
『ふふふっ、見事だ』
「ありがと、じゃあ、行くよ!」
そして、再び剣舞が始まる。
闇夜に銀閃が舞う。
方や二人一対の魔人の剣、方や四枚の剣翼と一本の太刀を振るう神騎の剣。
常人には到底目では追えない剣戟。音すらも、遅れ始める。
『くっ! 少々分が悪いか!』
四本の剣で打ち付けるも、それを四本の剣が防ぎ、五本目の剣が叩きつけられる。
…………やむを得ないか。
ブレイドは分身を解く。その行動に、ヒナタが警戒する。
そして彼は唱える。
『【我は鬼】【我は影】【そして我は刃】』
彼に、戦う理由など無い。
『【我が欲す物】【それは愉悦】』
強いて言うなれば、娯楽。その一言だ。
『【影に潜み】【刃を振るい】【獲物を喰らう】』
〈覇拳〉程では無いが、自分もまた、戦闘狂だと自覚している。
『【故に嗤え】【哄笑せよ】』
だから、嬉しい。自らとまともに剣を打ち合えるような者が現れたのだから。
『獲物は目の前にいるぞ! 【狩り踊れ我が刃の狗】!』
影が、乱舞する。
現れた分身は五体。本体も含めた計六体。
手にはそれぞれ二本の剣。合計十二本。
それが、ヒナタを襲う。
◆◆◆
押されている。
それもそうだろう。何せ向こうの方が手数、速度で上回っているのだ。
剣を交える中、ヒナタは考える。
カルくんともっと一緒にいたい。
いきなり、脈絡の無いことだけど、そう思った。
この戦いで、結果はどうあれ戦況は大きく動く。そうなれば、戦いは激化し、カルくんへの負担とダメージも大きくなる。
直接は聞いていないけど、わかる事がある。カルくんは、今凄く弱っている。前のように発作や症状は見せなくなったけど、でも、彼は弱っている。
暇があれば彼を見ている位なのだ。彼がどれだけ隠していても分かる。
この先、力を付けなければ、彼に負担をかけるだろう。
そんなことを考えていたからだろうか、油断した。
彼の、彼らの斬撃を受けきれなかった。
1度喰らえば、そこから崩されるように、立て続けに攻撃を喰らう。
「かはっ…………っ!」
膝から力が抜け、立つのも辛い。
『お前は、よく頑張った。よく楽しませてくれた。だが、ここまでだ』
頭上から、ブレイドの声がする。
これで、終わり…………?
頭が回らない、思考ができない。
剣を落とし、地に手を付く。
―――彼と、一緒にいたい。
頭の中に、声が聞こえた。私の声だ。
―――たとえ、その時間が短くとも。
胸元から、何かが零れる。
首にかかった、青い石のペンダント。
彼から貰った、宝物。
―――だから、負けられない。
そうだ、負けられない。
私は空っぽだった。
小さい頃、物心付く頃には、泣くという感情はなかった。
嬉しいも、悲しいも、腹立たしいも、そう言った感情を理解できない、人として欠陥だらけの子供だった。
私はそれを、半ば本能的に、五才にして理解していた。
そんな、空っぽな私は、誰とも仲良くなんてできなかった。喧嘩する理由も、仲良くなる理由も、感情を知らない私は理解できず、常に一人だった。
だけど、私の隣には、いつの間にかカルくんがいた。彼は私に笑いかけ続けた。仲良くなろうとしてくれた。
そんな彼に、私は初めて、興味という感情を抱き、そして初めて笑った。
だけど、ある日突然、彼はいなくなった。家庭の都合だって、分かっていたのに、解りたくなかった。
そして、私の心は再び空っぽになった。
それからまた再会して、少しずつ私の心は埋められていった。
だから、私が失った物を、すべて取り戻す!
そして、彼と共に生きる!
『何!?』
降り下ろされた剣を、掴んだ剣で弾き飛ばし、展開していた剣翼で牽制する。
そして唱える。
自らの想いを。
「【私は!】【全てを取り戻す!】」
ありきたりで、月並みだけれど、
『【あの日失って】【諦めた物を!】』
私は、カルくんが好き。
それは、一方的な物かもしれない。
ルルさんの様に尽くす事はできないかもしれない。
それでも、
『【やっと出会えた!】【やっと見つけた!】』
幼い頃の恋心を、ずっと抱き続ける。
それは異常なのかも知れない。おかしいのかも知れない。
『【もう失いたくない!】【取り戻したい!】』
だったら、私は壊れてていい。
それでも、彼が好きなのだから。
だから―――
「舞え、信念の刃よ、【愛しき戦姫の剣舞】!」
―――ここで、負けられない!!
展開したのは、幾千にも及ぶ剣。
それぞれが白金に輝き、夜闇を照らし出す。
『なんだ…………それは…………』
ブレイドは思った。勝てるわけが無いと。
そして同時に思った。
『美しい…………見事だ!』
剣の波が襲う。いや、波ではない。これは舞だ。剣の舞。
『おおおおおお!』
剣で剣を弾く。
五体の分身が集まり、弾いていく。だが、足りない。
隙間から、剣が入り込み。切り裂いていく。一体、また一体と斬り伏せられていく。
「あああ!」
そして、その舞いに、ブレイドは飲み込まれた。
剣の舞いが終わり、光の本流が終わったとき、そこにはブレイドがいた。
体の四肢を切り裂かれ、数多の刃が刺さって尚、彼は生きていた。
『…………重ねて言う、見事だ、〈太刀の神騎〉朝霧ヒナタ』
「あなたも、とても強かった、〈剣影〉ブレイドさん」
『もう満足だ。最期に素晴らしい剣士、いや、剣姫と相対することができたのだから』
「…………そう」
その言葉を最期に、ブレイドは消滅した。
「…………はぁっ、はぁっ」
ヒナタも、すべての体力を使いきり、座り込む。さすがに、体力が持たない。それに、ダメージも大きい。
だが彼女は立ち上がる。
大好きな人が守ろうとする、自身にとっても大事な後輩を守るために。
あと2戦、あと2戦♪




