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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
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Resolution:30 黒蝶と魔弾


連続で書きすぎたせいかなぁ?

どんどん浅い戦いになっているような…………


どーすればいいんだ-っ!



 バシィ! という音を響かせて、何度目かわからない死蝶と魔弾の対消滅が起きる。


『わたくしの蝶が魔弾を吸い込んで、奪おうとしても、貴方の魔弾がそれを消滅させる、と』

『今更何だよ?』

『いえ、リップサービスですわ、お気になさらず』

『なんのだよ!』


 にしても、とわたくしは思考する。

 このままでは埒が明きませんわね。ですが、あの力は代償が大きいし、この後に戦いが無いとも限りませんし。

 困りましたわ、負ける気もしませんが、勝てる気もしません。


『【消弾雨(ルイン・レイン)】!』


 消滅の雨が、わたくし目掛けて降り注ぐ。それに対応するために、わたくしも蝶を生み出す。


『【天蓋覆蝶(セウス・タンパ・ボルボレータ)】!』


 黒と紫の蝶が、幕のように広がり、魔弾の雨を受け止める。


『【死誘弾(デス・バレッド)】』

『【死黒蝶(モラート・ボルボレータ)】』


 本当に、キリがない。

 こんな不毛な戦いを、いつまで続けるのか。そう考えていると、ルインが口を開く。


『なあ、セルルトよ、どうしてお前ら人魔は、俺達魔人と敵対する?』

『カルマ様が望むから、ですわ』

『はっ、相変わらずブレねえな』

『あら、お褒めに預かり光栄ですわ』

『だがよ、お前、空っぽだな』

『空っぽ?』

『全てを〈同胞喰らい〉に任せて、それに従う。それって空っぽじゃねえか』


 空っぽ、か。確かにそうかも知れませんわね。ですが、


『何を今更』

『へ?』

『わたくしが空っぽなのは、周知の事実でしてよ?』

『んな!?』

『わたくしはカルマ様に救われ、意味を貰いました。故にわたくしは、わたくしの中には、カルマ様しか無いのですわ』

『家族愛とか、友人はどうしたよ』

『それとこれとは別ですわ』

『…………相変わらずの暴論だな』


 ルインは苦笑して、そして言った。


『さーて、決着を着けますか!』

『この膠着状態からどうやって?』

『【詠唱】に決まってんじゃねぇか』


 そして、彼の魔力が膨れ上がり、詠唱が始まる。

 魔人の詠唱。それは、その魔人の存在を証明する為のもの。


『【吾は全てを消し去る者】【全てを妬み、羨み、愛す】』


 消滅の魔力が、目に見える程に濃密に、巨大になり、ルインの体を覆う。


『【故に吾は消し滅ぼす】【手に入らぬから】【嫉妬が、羨望が、愛情が煩わしいから】』


 覆った魔力は鎧となり、風となる。


『【其は魔弾に非ず】【其は嵐なり】』


 そして、完成する。


『消し滅ぼせ【消滅の災厄(ルイン・カタストロフィ)】』


 消滅の嵐が吹き荒れる。蝶達が消されて行く。

 体を飲まれ、甲殻が消されていく。


『きゃぁぁぁぁあ!!』


 なんとか持ちこたえるも、体のあちこちは素肌が見え、血が出ている。


『余り抵抗するな。苦しくなるだけだぜ?』

『余計なお世話ですわ』


 このままでは、負けてしまう。

 負けたら、どうなる? 勿論、死だ。


『それだけは、だめ…………』


 そしたら、あの方は悲しむ。


 確かに、カルマ様の真の愛はわたくしではなく、ヒナタさんに向いている。

 見ていてわかる。あの二人は、心…………いえ、魂の奥底で繋がっているような、そんな感じがする。

 そこに、わたくしが入り込む余地が無いことも。


『ですが…………』


 それでも、構いません。

 あの方のお側にいられるなら、それ以上は求めません。


 だから、唱える。


『【愛しております】【いつまでも、いつまでも】』


 存在証明ではなく、在り方の誓約。

 詠唱と言うには余りに拙く、身勝手な、カルマ様に捧げる、愛の言霊(うた)


『【貴方が道に迷ったのなら】【わたくしが灯火となりましょう】』


 カルマ様が、わたくしを導いてくれた。光へ、連れ出してくれた。


『【貴方が傷つくのなら】【わたくしが癒しましょう】』


 カルマ様が、わたくしを守ってくれた。笑いかけてくれた。


『【かつて貴方が】【わたくしにしてくれたように】』


 だから、届け。


『【愛しております】【心から】【魂から】』


 この体が引き裂かれようとも、貴方に、届け。


『【この愛よ】【永久(とわ)に】』


 蝶が、溢れだす。

 わたくしを、空を、この場を多い尽くす勢いで溢れだし、そして背中に、黒蝶の翅が生える。


『舞い踊りなさい【天覆う黒蝶の乱舞(ダンサ・セウス・ボルボレータ)】!』


 そして相対する。


『おおおおお! 俺の魔力に、消されて滅べぇ!』

『気高く愛しき蝶に抱かれて、眠りなさい!』


 無色の靄のような、消滅の魔力が吹き荒れ、全方位から迫り来る。

 黒と紫の蝶が、その嵐のなかを突っ切り、ルインを包み込む。


『無駄だぁ! 俺の体は、消滅の魔力で覆われている!』


 体を、肉を、消滅が襲う。翅を丸め、盾のようにしても、空いた孔を塞いでも、隙間から襲い来る。

 わたくしの蝶は、ルインに触れる度に消されていく。

 戦況は絶望的。勝ち目はない。 


『まだ…………まだですわ!』


 防御に回していた力をも、攻撃に回す。

 わたくしが死ねば、カルマ様は悲嘆に暮れる。ですが、もし刺し違えてでも、倒せたのなら…………!


『我が勝利を、貴方に!』


 膨れ上がった蝶が、溢れだした蝶が、ルインを包み、飲み込む。

 直後、とてつもない激痛が襲う。


『ああぁぁぁぁあ!』


 絶叫。

 その叫びは、痛みのそれか、気合いのそれかは分からない。ただ、沸き上がるままに叫んだ。





 あれから、どれ程の時間が経ったのかは分からない。多分、数秒だったのだろう。いや、もしかしたら数日かも知れない。

 とにかく、気がつけば、消滅の嵐は既に消え去っていた。


『はぁ、はぁ、はぁ…………』


 全身は血まみれ、まさに満身創痍の状態で、立つのがやっとだった。


『よう、セルルト』


 目の前に、ルインが立っていた。

 彼は無傷だった。


 そうか、負けてしまったのですね。


『申し訳ありません、カルマ様』


 わたくしがそう呟くと、ルインが苛立ったような、楽しんでいるような、不思議な声をかけてくる。


『あぁ? なに言ってんだよ。俺の負けだ』

『え?』


 顔を上げると、ルインが立っている。だが、その体は徐々に灰になっていく。

 彼は腕を組んで、楽しそうな声でこう言った。


『てめえの勝ちだ。楽しかったぜ、セルルト』


 その言葉を最期に、彼は灰と散った。


『…………ふふっ、わたくしも、ですわ』


 わたくしは踵を返し、ふらふらとしながらも、病室へ向かうのだった。




残りあと3戦です

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