Recllection:3 魔人と神騎
バトルシーンの前話です
※加筆修正しました
翌日、オレは体育の時間に、注目を集めていた。
「ど、ドリブル五人抜きだと!? サッカー部のエースと部長と補欠の三人も抜かれたぞ!」
「何モンだ、あの転入生!? あ、補欠がまた抜かれた!」
……補欠に対する扱いが些か可哀想ではあるが、恐らく気にしたら負けなのだろう。
「見て見て、あの転入生の桐久保君、すごいよ!」
騒ぎを聞きつけたのか、体育館で授業をしていた女子もチラホラと出てくる。
「カッコいいね、あの人」
「桐久保カルマ…ハァハァ……あ、やべ、鼻血出ちまった」
男子からは、驚愕と嫉妬と羨望と、一部の特殊な熱い視線。
女子からは、いわゆる黄色い声援が。
しかし今日、注目を集めているのは、オレだけでは無い。
なぜなら、この高校の理事長はなかなかどうして、趣味がよく、女子の体操着は今どきブルマなのだという。しかも女子は今日、マットを使った器械体操なのだ。
「うおおお! マルカちゃーーん! …も、萌え…」
「ヒナタさーーん! め、メロンが、そのおムネにたわわに実ったメロンが揺れてまっせー!」
「か、梶原ー! オレ達を踏んでくれー!」
……あぁ、同じ男子としてアイツらをぶん殴りたいような、なんとなく頷けるような。
そんな事を考えていた時、オレは『気配』を感じとった。
全身の毛が粟立つような、ヌメリとした不快な怖気。
――魔人が来る――
「――ッ!」
オレは即座にその場から飛び退いた。すると、オレがさっきまで立っていた場所が綺麗に抉り取られ、ボールは見るも無残な姿になり果てていた。
『まさか、ここに来ていたとはな、〈同胞喰らい〉よ』
「てめぇは!」
最悪だ、何だってこんな時に! オレは誰も巻き込みたくないってのに!
皆を避難させようと、慌てて周囲を見回すが、皆、異常な程に静かだった。
「なんだ?」
クラスメートたちは、皆一様に虚ろな目をし、ゾロゾロと校舎へ向かっていた。
『言霊だ。邪魔者どもには退場して貰う。吾の狙いは、貴様ただ一人。有象無象にかまけている時間は無い』
「……そりゃどーも」
良かった、巻き込まないで済むようだ。
『死ね、その身を吾が魔力に抉られて』
魔人が魔力の塊を放つ。
「そいつは、遠慮したいねっ!」
飛び退いき、辛うじて攻撃を躱しながら、思考を巡らす。
マルカなしでどこまでやれる? 恐らく…否、撃破は確実に不可能だ。ならば、オレに残された選択肢は、マルカが来るまで生き延びる事だ。
冷静に魔力の質、特徴を理解しながら、攻撃を躱す。
「カルマ!」
向こうからマルカが走って来るのが見える。
よし!
その時だった。恐らくは油断。マルカが見えた事による気の緩み。それらが原因で、オレは着地のバランスを崩した。
「しまっ――!」
反応できないタイミングで、魔人の魔力塊が飛来する。
「させない! 彼は、私が、護る!」
オレの眼前に、一つの人影が映りり込む。
少し高めの身長、長く艶やかな黒髪、大きめの胸と、そこに輝く、青い石。
「ヒナタ!」
ヒナタが、オレを庇うように、オレの前に立ち、両手を広げる。
咄嗟に彼女へ手を伸ばす。このままじゃ、大切な少女が…例え一緒に居られずとも、守ると決めた人が、死んでしまう。
「神騎変躯」
しかし、彼女に手を触れる寸前に、オレの手は聖浄なオーラに弾かれ、彼女を眩い黄金色の光が包み込む。
「……この輝きは……そんな……」
光が四散し、その中から出てきたのは、青をメインに白金をあしらったフルフェイスマスクの鎧を纏う、一人の騎士。
「その姿は………」
「桐久保君、私はね、人じゃなくて、神騎なの。アレを、魔人を討つ存在」
その言葉に、オレは衝撃を受けた。
はは、運命ってのは、本当に、度し難い程に、残酷だ。
「ごめんね、そんなこと、わかんないよね。だから、『忘れて』、『眠って』」
彼女の放った言霊で、オレは崩れるように意識を失う。
次は11/30 6時の予定です