Resolution:27 空の戦場
総力戦、意外と大変ですね…………
でも愉しいから僕やっちゃう!
反省はする、後悔はしない! 多分!
「全力で行かせて貰う!」
僕は双剣を逆手に構え、聖力を練る。
「【白翼斬光】!」
発動によって現れたのは、背に生える純白の輝きを持つ双翼。
『ほお、貴様も翼を持つ者だったか』
「無駄口を叩いている暇は…………無いっ!」
迫り、振るう。
銀閃が疾り、黒翼が受け止め、火花が散る。
「おおおお!」
そこから更に畳み掛ける。息をつく暇もなく斬りつける。だが、その全てを叩き落とされ、防がれる。
神速の戦いの中、僕達は言葉を交える。
『こんなものか? 熾神騎!』
「まだまだ!」
『ふははは! 楽しい、愉しいなぁ!』
「意外だ! あなたはもっと冷静な人だと思ってましたよっ!」
『同感だ! 我とて、まさかここまで自らが昂るとは、思わなんだっ! 【羽刃衝】!』
黒翼が刃として突き込まれる。
「【刃光円護】! くうぅっ!」
双剣で円を画き、それをもってラウンドシールドの様に展開する。
だが、スカイの翼撃は重く、その衝撃で後方へと吹き飛ばされ、体勢を崩す。
『まだ加速するぞ!』
そう言ってその通り加速し、上下左右前後からまさに縦横無尽に、絶え間なくスカイは攻撃を与えてくる。
何とか避け、防ぐものの、徐々に押され始める。なら―――、
「【神光加速】!」
叫んだのは、単純な加速術。
だが、単純だから扱いやすく、故に渡り合える。
スカイが笑う。楽しそうに。
『ククククク…………フフハハハハハ!』
「何がおかしい!」
『いや、これまで〈覇拳〉の事をやれ戦闘狂だの、やれ本能的だなどと言っておきながら、こと空中戦においては、まさか我も戦闘狂だったとはな! だが、悪くない! 貴様もそうだろう? 熾神騎!』
「そんなこと…………」
――――本当に?
不意に、脳内で声が響く。
――――本当に、戦いは愉しくない?
当然―――
答えようとすると、声が遮る。
――――嘘だね。僕は楽しんでいるはずだ。この戦いを。命をかけたこの殺し合いを、僕は何よりも楽しんでいるはずだ。
やめろ。
しかし声は止まらず、魔人との戦いも激化する。
――――不思議だね。子供の頃から破壊衝動に苛まれて来た僕が、神騎なんて物になれるんだから。僕は魔人の方が向いているんじゃないの? そうやって柔和な笑顔と物腰で隠しても、結局、根本的なところは無くせないよ?
そんなことは、分かってる!
でも、そんな僕を敬遠せず、手を差しのべてくれるの人達がいた!
――――ああ、いたね、そんな物好きな人達が。でも、その人達死んだよ? 僕のせいで。
心の傷を、破壊衝動が抉って来る。
――――彼らは恨んだだろうね? よくも恩を仇で返したなってさ。
黙れ
――――ほんと、僕って薄情な人間だね。
黙れ黙れ
――――いや、もうこれは機械――
「黙れぇ!」
『ぬぅ!?』
怒号と共に放った強撃が、スカイを吹き飛ばす。
黙れ、黙れよっ!
僕はもう誰も傷付けない、殺さない! あの人が、僕の叔母さんが教えてくれた、大切な物を、僕はもう傷付けない!
――――だったら、その剣も捨てなよ。或いは僕の―――
嫌だ! 僕はもう破壊衝動の力を借りないし、この剣は敵にのみ向ける!
ああ、愉しいさ! でもな! 俺は自分の目的を見失っちゃいない!
俺はこの戦いを楽しんだ上で、こいつを倒してやる! それなら文句ねぇだろうが!
――――あーあ、折角隠してた本性、出てるよ? まあ僕だからいいんだけどね。
まったく仕方ないね。じゃあ僕は引っ込むけど、隙があればまた乗っとるから、そのつもりで。
はっ、やれるんならな。
そして僕、いいや、俺は魔人へと顔を向け、マスクを脱ぎ捨て嗤う。
「さあ、楽しい愉しい殺し合いと行こうか?」
『…………雰囲気が変わったな。なるほど、そっちが本性か』
「だったらどうしたよ」
『より、楽しめるなと思ってな』
「ああ、愉しませてやるよ、覚悟しときな!」
そして俺達は加速する。
黒と白の軌跡が空を舞い、空間を縫い、交差し、火花を散らす。
それは、音速にも迫る、圧倒的な高速空中戦。
それは、黒と白の織り成す、美しい演舞。
黒が直進し、白がその周りを回る。
『【羽刃弾】!』
「【翼刃白連】!」
黒の羽が数多も飛来し、それを高速ライドで避けながら叩き落とす。その後、急上昇し、
「【白翼斬光】!」
高高度からの白い斬撃。
それに相対するは、黒き翼。
しかし、その反応は遅れている。
『くっ! 【羽盾】!』
翼が鋼の如き強度をもって、斬撃を受け止めようとする。だが、超速による長時間の戦闘は、スカイの集中力を削り、体力を削いでいた。
『ぬおおお! まだまだぁ! 熾神騎ぃ! 吾が名を呼んでみよ!』
「スカイ! 〈天翔空羅〉のスカイ! お前は、俺が倒す! だからお前は、俺の名を呼べぇ!」
『佐伯ショウタ! 〈双刃の熾神騎〉佐伯ショウタ! 我と同じ翼を持つものよ!』
互いの名を呼ぶ。それは、互いを宿敵と認めた証。故に彼らは出し惜しみをしない。
距離を取り、互いに沈黙する。その静寂は、次の一合で全てが決すると言うことだ。
『【我は天を翔る者】【我は空を網羅する者】』
唱えるのは、自らの全て掲げる最大級の名付魔術。それは自らの全てであり、存在の証明。
故に詠唱に対する躊躇も、淀みも無く唱え続ける。
『【我は望んだ】【この空に至る疾さを】』
それに正々堂々相対するべく、俺も唱える。
「【翔太は人間だ!】 【破壊衝動なんかじゃない!】」
それは、自らの願い。
心のそこから願う、心願。
「【だから人間は叫ぶ!】【俺は神騎だ!】」
それは慟哭。或いは歓喜。
身に余る物を得たとき、人は堕ちるか、悟る。そして俺は、悟った。
自分は弱い人間だから、だからこそ、バケモノでは無いのだと。
『闇より来たれ、【夢幻夜行梟撃】!』
それは漆黒の狩人の如き一撃。
闇に溶け、音もなく迫る梟撃。
対するは、
「闇をも切り裂け、【白夜の白騎士】!」
恐ろしい迄の無垢で純白な騎士。
闇を切り裂く、誇り高き一撃。
黒と白がぶつかり、拮抗し、すれ違い、そして光と闇が収まる。
「…………少し、痛いですね、これは」
『ふん、その程度なら、充分だろう。熾神騎ショウタ、貴様の勝ちだ。楽しかったぞ、礼を言う』
「ええ、こちらこそ」
俺…………僕がお辞儀をすると同時に、スカイの魔力の羽が消え、墜ちていく。
「勝ったよ、桐久保君、神谷君!」
僕は体力を使い果たし、しかししっかりとした足取りで、神谷君の病室を目指した。
そして意識が暗転する。
…………くそう、こんなことなら、もっと前に各キャラクターの過去も掘り下げて置くべきだった! 僕のアホー!
でももう時すでに遅し!
これでやるしかない!
というわけで、見苦しいですが、何卒、お付き合い下さい。
次は絶対、同じ轍は踏まないぞ…………っ!




