Resolution:20 情報
今回はガッツリ説明回ですが、飛ばさないでいただくと幸いです。
翌朝の早朝、不意に目が覚めたオレがリビングに降りると、親父がソファーでテレビを見ていた。
「こうして見ると、休日の親父だよな。今日は平日だけど」
「あはは、朝から辛辣だね」
「ところで親父」
「なんだい?」
「この間から気になってたんだけど…………『トガナ』さんは、どうしたよ?」
トガナ。それは親父のビジネスパートナーであり分身体の名前だ。
そう、あの事故の日、オレだけではなく親父も屍魔人になっていたのだ。
分身は基本的に本体の側を離れない。一度だけ、オレとマルカが離ればなれになったことがあるが、その時オレは死にかけた。つまり、オレ達、屍魔人は、分身とも本体とも離れられないのだ。
だから、聞いた。
「彼女は今、職場にいるよ」
「職場? 倒産したのに?」
「酷いなぁ…………ほら、僕新しい仕事に就くって言ったじゃないか。そこにいるよ」
「離れても大丈夫なのか?」
「うん、なんか大丈夫だったみたい」
「適当だな、おい」
「多分、この町内なら離ればなれでも大丈夫なんじゃないかな?」
「危ないな…………」
「心配してくれるのかい?」
「いや? オレとマルカの行動範囲が増えるかなーって」
「冷たいねぇ…………まぁ、また今度会えるさ」
「そうか、ならいいんだ」
オレがそういうと、親父はオレの顔を真面目な顔で覗いて来る。
「なんだよ」
「カルマ君、君は、魔人とこれからも戦い続けるつもりかい?」
「なにをいまさら…………」
「僕は知っているよ。君の躯が、もう限界に近いって」
「それは…………」
「それでも、戦うのかい?」
確かに、躯はもうボロボロだ。魄も残り少ない。戦わない方が得策だって、そんなことは知っている。でも、それでも、
「もちろん戦うさ」
「何故だい? あの事故の原因が魔人だったからかい?」
「それだけじゃない。ルルやキースを殺したのも魔人だし、それに託されたからな、アスカさんに」
「そうかい………それじゃあカルマ君。僕が知り得た情報を君に渡そう」
「へえ、毎日遊んでいるだけだと思ってたら」
「ねえ君ちょっと酷すぎやしないかい!?」
ゴホン、と咳払いして親父は姿勢を正す。
「魔人の目的はね、自分達の創造主である魔神の復活」
「アスラ?」
「そう、魔人を創りし、生命の改変者、魔神。その力は死した者すらも甦らせるという」
「そんなことをしていいのか?」
「ダメに決まっているだろう、世界のバランスとしては」
「魔人はその魔神を復活させて、どうするんだ? そもそも、どうやって復活させるんだ?」
「沢山の魂と、〈代行者〉つまり、屍魔人の冥道の力。何故かは僕ではなく、彼らに聞くといい」
「魂!? 人間が殺られているってのかよ!」
憤ったオレに、親父はそれだけじゃないさ、と言葉を繋ぐ。
「使えない、戦えないと判断された魔人も、その贄となっている」
「仲間を!?」
「いいや、カルマ君。勘違いしちゃいけない。彼らは基本的に仲間を持たない。それを今、魔神復活という大願成就のために〈代行者〉がまとめているに過ぎない」
「…………やけに詳しいな」
「倒産前に財力と権力とコネを使って調べまくったからね」
「それで潰れたんじゃないの?」
「いやいや、まさか…………多分」
「ダメだこの親父」
親父が立ち上がり、
「まあとりあえず、そんな感じ。で、君は戦い続けると」
「勿論だ」
「…………はぁ、一人の親父として言わせてもらえばね、君にはもう戦って欲しくないんだが、言っても無駄だよね?」
「ああ、そうだな」
それを聞いた親父はしばらく瞑目し、ため息の後顔を上げ、
「わかったよ。…………さて、そろそろ時間だし、僕はもう行くよ」
「もうか。早いな」
「遅れたらトガナに怒られちゃうからね」
「相変わらず、オレ達の分身は厳しいな」
「親子だからね」
「…………」
「なんだいその顔!?」
そんなやり取りのあと、親父は荷物を背負い、玄関に立つ。
「それじゃあね、カルマ君」
「おう。さっさと出世して仕送り増やしてくれよ」
「ははは、お父様愛してるって言ったら…………」
「オトーサマアイシテルー」
「凄まじく棒読みだね?」
そう言って親父はドアを開けて外へ出る。と、そこで親父は何かを思い出したように、ああそうそう、とオレを振り返る。
「カルマ君、こんな言葉を知っているかい? フランスの小説家、アーベルク・カミュの物語の一節なんだけどね」
そう言って、その顔に笑みを浮かべ、
「『真実は、光同様に目を眩ます。虚偽は反対に美しい黄昏時であって、すべてを大した物へ見せる』ってね」
「は? どういうことだよ」
「さあね。ただ、これだけは言える」
親父は一瞬笑みを深め、そしてオレに背を向けて、
「君が見ているもの、信じているものは、本当に真実かい?」
そういうと、それじゃあね、と言って親父は歩いていく。
オレは親父の意図が掴めず、ただ呆然とそれを見送った。
今回は親父がまともな動きをしていた…………だと!?




