Resolution:19 ハッピー・アンバースデイ
あれぇ?
なんか、スッゴい長くなったよ?
アスカの死より長いぞ?
あっれぇ?
部活終わり、オレ、ヒナタ、マルカ、キース佐伯先輩、梶原と、それなりの人数でオレ達は帰路についた。
「あー、疲れたー!」
「お疲れ、マルカちゃん」
「久々の運動は楽しかったですね、カルマ義兄さま」
「ん? ああ、そうだな。ただ、剣はあまり使えなかったがな」
「しかし桐久保君、やはり実戦を経験しているせいか、凄まじい反応速度でしたね」
「神谷が殺す気で来るからな…………嫌でも反応するって」
「カルくん全部捌いてたねー」
「しかも桐久保、トドメ刺すしね」
「見事な正拳突きだったな。ルール違反だが」
わざとじゃないんだ、ついウッカリだったんだ………あれは不可抗力だ。
「にしても、あそこまでキースと神谷が相性悪いなんてね」
梶原が苦笑混じりに言う。確かに悪かった。
「あれは神谷先輩が悪いんです! カルマ義兄さまに酷いことをするから!」
「桐久保嫌いと桐久保大好きが一緒にいたら、そーなるわ」
「しみじみ言うなよマルカ。お前も桐久保だからな?」
「まぁまぁ、これから二年間一緒なんですから、仲良くしてくださいね? それじゃあ僕らはここらで」
「ヒナタはどうする?」
「カルくん家で晩御飯作ってくね」
「やめろ、やめてください!」
こ、殺される!
しかし梶原と佐伯先輩の二人は「頑張ってね」と言い残し、そそくさと去っていった。
「それじゃあ行こうよ、カルくん、マルカちゃん」
「はい…………」
家、到着。
「ただいm…………」
「お帰りなさいm…………」
バタン! オレはドアを勢いよく閉める。
おかしいな、疲れてんのかな? オレ。
幻覚が見えた。エプロン姿の金髪お嬢様が見えた。
よし、気合いを入れて、今度は幻覚を見ぬよう、ゆっくりと………決して、恐る恐るではない。
「お帰りなさいませカルマ様。おf…………」
バタン!
あっれー!?
あっれぇー!?
「どうしたのだカルマ? ドアを開け閉めしてからに」
マルカがドアを開ける。
バタン!
マルカがドアを閉める。
「あっれぇぇー!?」
マルカが目を擦る。
ヒナタが首をかしげ、ドアに手を伸ばす。
「ちょっと待った!」
ヒナタがあれを見たら戦争勃発確定だぞ!
「ヒナタ早まるな! まずはカルマを矢面に立たせて…………」
「おいこらマルカ!」
何はともあれ、ドアに手をかけ、意を決して開く。
「お帰りなさいませカルマ様。お風呂にします? ご飯にします? いいえ、わたくしですね!」
「せめて選ばせて!?」
「カルマ様ー!」
ルルが抱きついてくる。
「カルくん危ない!」
ヒナタが飛び付いてくる。
「うおあ!」
オレが横に飛び退く。
直後、頭と頭のぶつかる鈍い音が響いた。
「痛いですわ!」
「い、痛い…………」
「最低だな、カルマ」
「What's !?」
「最低ですね、カルマ義兄さま」
「キースまで!?」
な、なぜオレがディスられる!?
いや、確かに痛そうなのは可哀想ではあるけれど、それは自業自得と言うか…………。
と、そこへ家の奥の方から声が聞こえて来た。
「それが理解できないのなら、カルマ君はまだまだガキんちょって事だね」
「親父!?」
「やあ、メウ・フィリョ。思ったよりも元気そうだね」
「しばらく帰って来れないんじゃ…………」
「アスカ君の訃報を聞いたからね…………急いで帰ってきたのさ」
「そうか…………」
「それでね、これからについて話したいんだけど、上がったら?」
「おう」
靴を脱いで、スリッパに履き替えたとき、とあることに気が付いた。
確か親父、家の鍵持って無かったよな?
「なあ、聞いていいか、親父?」
「なんだい?」
「どうやって家に入ったよ?」
「僕が来たときにはもう開いていてね、ルルちゃんがいたよ」
「…………………おいマルカ、今日鍵かけて出たよな?」
「あ、ああ、間違いない」
「………ルル?」
「なんでしょう?」
「どうやって入った?」
「合鍵ですわ」
彼女が懐から合鍵を取り出し、目の前に掲げる。
「ちょっと待て! いつ作ったそんなもん!」
「まあカルマ様ったら、プライベートの侵害ですわ」
「だからそれはこっちのセリフだ!」
何でこう、こいつはこんなに行動力ありすぎるかなぁ!
すると、予想通りと言うかお馴染みのパターンと言うか、とりあえずヒナタがニッコリと笑う。
「破っ!」
ヒナタの拳が振るわれる。
バガン!
鍵が粉々に粉砕。
僕たちびっくり。
「うぉあ∑(゜ロ゜;)」
あ、この驚きかた久しぶりだなぁ………。
って、いやいやいや!
いつからこの子は武闘派に!?
「よし」
「フフフ、甘いですわねヒナタさん?」
ジャラ!
と音がしてルルが取り出したのは、鎖に大量に付けられた数多もの合鍵。当然全てオレん家の。
「こんなこともあろうと、大量に発注してましたの」
「絶対に金の無駄遣いだ!」
「なん…………だと!?」
「なぜマルカが戦慄する!? いや確かに怖いけど!」
はぁ……つ、疲れた。
そこで、親父が手を鳴らした。
「はいはい、仲がいいのは麗しき事だけど、そろそろ中に入らない?」
そう言って、オレ達を中へ促す。
「今、晩御飯を用意いたしますわ。席に座っていて下さいな。ヒナタさんも食べていきます?」
「あ、うん、食べる」
何気ない二人のこの会話に、オレは驚きを禁じ得なかった。
「マルカ、この二人がいつの間にか仲良くなっていた件について」
「そこはまあ、女子にしかわからないシンパシーだ」
「そういうもの…………か…………」
リビングのドアを開け、オレは硬直した。
「これは、すごいな…………」
マルカも感嘆の声を上げる。
「部屋がスッゴい綺麗になってる!」
「カルマ! 洗濯物が干されている!」
「カルくんカルくん、台所も凄い綺麗だよ」
「義兄さま義兄さま! お風呂がピカピカ!」
なんだこれ。家中が片付いて、掃除がされている。確かにマルカも高い家事能力は持っているし、オレも余り散らかしはしないが、それでも汚れるところは汚れるのだ。
つまり、これは…………
「申し訳ありません、カルマ様。勝手に片付けさせていただきました」
「ルル、お前すごいな。センさんには?」
「すべて自力ですが?」
「なあ、カルマ? ルルって、こんなキャラだっけ? こんな家事万能キャラだっけ?」
「料理は確かに上手かったが…………まさかここまでとは」
オレ達は困惑していた。普段のあんなキャラからは想像も出来ないルルの真相に、どう反応していいのかわからないのだ。
「なんか、お二方酷くはありませんか?」
憮然とした表情でルルがそう呟くが、驚くものは驚くのだ。
オレが口を開こうとしたとき、
「ほらほら、ご飯を食べよう。僕はお腹がすいたよ」
「そうですね。ほら、カルくんもマルカちゃんも座りなよ」
親父とヒナタに促され、オレ達は席に座る。すると、台所から料理が運ばれてくる。
メニューはコーンポタージュ、サラダ、そしてバカリャウ(ポルトガル風コロッケ)にアロス・デ・アトゥン(ポルトガル風リゾット)というポルトガル料理だ。
「時間ありませんでしたので、このくらいしか作れなかったのですが…………」
「いや、充分だって」
すべての品が揃い、全員が席に着いたところで、親父が手を合わせる。
「それじゃあ、食べようか。いただきます」
「「「いただきます」」」
「「?」」
首を傾げたルルとキースを見て、オレはふと思いだした。そういえば、これは日本の風習だったな。
「ルル、キース、日本では食事の時に、作ってくれた人、犠牲になった家畜や植物に対して感謝を述べる言葉を言うんだ。こうやって手をあわせて、『いただきます』ってな」
「ああ、時たまカルマ様がやるのを見ておりましたが、そういう事でしたか」
「じゃあ姉さま、やりましょうか」
「「いただきます」」
そして一口…………。
「ウマー!」
「なんか、負けた気分だな」
「私も…………」
「ヒナタは料理に関しちゃ完敗だな…………いや、同じ土俵にすら立ってないか」
「カルくん酷い! で、でも! 料理以外なら負けないんだから!」
「アッハハハ、僕の息子は将来安泰だね! 恋人が二人もいるんだから」
「いやここ日本だから!」
「ポルトガルに行けばいい」
「同じだよ!」
そこからの食事は混沌を極めた。
テンションの上がりまくった親父が年甲斐もなくはしゃぎ、旨い料理に対抗したヒナタが『ポイズン・コロッケ(マルカ命名)』を作って、親父が逝去したりなど、かなり騒がしかった。
だけど、
「楽しいな、カルマ」
「ああ、そうだな」
「嬉しいか、カルマ?」
「ああ、勿論だ」
「それは良かった」
「お前はどうなんだよ?」
「愚問だな。私はお前の分身で、双子の妹だぞ?」
「はは、確かに愚問だったな」
嗚呼、願わくば、こんな日常が長く永く続きますように―――――――――。
カルくんが建てましたよ
え? 何をだって?
やだなぁ、そんなのアレに決まってるじゃないですかー、フ・ラ・グ(*ゝ`ω・)




