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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
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Resolution:17 受け継ぐモノ

強化ターイム!!!

↑おいこら不謹慎!

 アスカさんが、倒れていた。血はすでに液体から魔力となり、大気に溶けはじめている。

 それは、魔人や人魔が死に近づいている証。


「アスカさん!」

「アスカ!」

「松岡先生!」


 オレ、マルカ、ヒナタが叫び、駆け寄る。

 うつ伏せで倒れる彼を抱き起こし、名を呼ぶ。

 うっすらと、目を開けた。


「………やぁ、カルマ君」


 発せられた声は酷く小さく、弱々しく、掠れていた。


「待ってろ! 今、薬を持ってくるから! キース、頼めるか!?」

「わ、わかりました!」


 アスカさんは手を上げて、オレの頬に触れる。オレの顔に付いた血は黒く、そして大気へ溶けて行く。


「………いいかい? よく、聞くんだ」


 彼の手を取り、強く握る。


「ああ、ちゃんと聞く! だから今は喋るな!」

「ルル! お前の蝶でどうにかならんのか!」

「あれは、誰かから魔力なり生命力なりを吸いとらなくては! ですがカルマ様のは……」

「なら、カルくんの替わりに私たちのを!」


 後ろで、女性陣の会話が聞こえる。

 アスカさんが何かを必死に伝えようとしていた。だから、口元に耳を近づける。


「魔人の、居城は………」


 彼女たちの生命力を吸った紫色の蝶が一頭、孔の空いたアスカさんの腹にとまり、譲渡を開始する。


「あの、桜の丘の、枝垂れ桜の、向こう側…………」


 ―――!

 どんな因果か、魔人の居場所はあの森の奥、オレとヒナタの思い出の場所だった。

 あの桜の向こう側は、緩やかな坂だが、その奥は崖で、山岳が見渡せる。

 恐らく、何重にも練り織られた言霊と魔術で隠しているんだろう。


「そして、代行者は、君の――――」


 その先は、声が掠れて聞き取れなかった。

 オレの、なんだ?

 アスカさんが血を吐く。


「アスカさん!」

「忠、告だ…………冥道の力だけじゃ、敵わない。力を………魂術と、魔術を…………」

「約束する! どれも身に付けてやる! だから、死なないでくれ! あんたに死なれたら、誰がオレの体を診てくれるんだよ!」


 血が止まらない。ルルの蝶が効いていないようだ。


「もう、無理だよ。魔力を………(こん)を失い過ぎた」


 肉体を持つが故に(はく)を得れば一時的とは言え、永らえることの出来る屍魔人(しかばね)と違い、魔力で体を構成している魔人や人魔は、その魔力の素となる核に蓄えられた魂を失えば、死に至る。


「でもね、カルマ君。君の、相手の……魂を喰らう(わざ)は、魂術を、奪えるんだ…………」

「アスカ………さん?」

「だから、だからね…………」


 彼は、弱々しく笑う。

 何となく、彼の意図がわかった気がして、涙が溢れる。


「カルマ君、〈同胞喰らい〉カルマ君。君が、僕を…………喰って、くれないかい?」

「なに、言ってんだよ!」

「君が、僕の核を喰えば、僕の魂術を、受け継げる…………」

「出来ねえ、出来ねーよ!」

「お願いだ…………どうか、僕の遺志を、受け継いでおくれ? 重荷に、なるのは、わかる…………でも、でも…………」


 声が、どんどん弱くなっていく。

 彼の体から、力が抜けていく。


「君に、送って欲しいんだ」

「――――!」


 ああ、そうか、もう、助からないのか…………。

 そう、悟った。


「カルマ……アスカは、もう…………」

「わかっているさ、マルカ。だから、了解したよ、アスカさん」


「「魔人変躯(イーヴィル・トランス)」」


 屍魔人(しかばね)へと成る。


『ゆくぞ、カルマ』

『ああ…………』


 アスカさんの胸へと手を突き込む。その心臓部には心臓は無くて、赤い珠の〈核〉、つまり〈核珠〉を取り出す。

 そして、その〈核珠〉を飲み込む。

 取り込まれて行く。核が分解され、魂を抽出し、その特性が体に、オレの魂に馴染んで行く。

 そして、この力に込められた意味を理解した。この人は、逃げたかったのだ。怖いことから、辛いことから。なのに、自分たちを支えてくれた。

 だから、感謝しなくてはならない。


『ありがとう、飛鳥さん』

『ありがとう、飛鳥』

『あんたの遺志ははこの桐久保狩魔が引き継いだ』

『だから、安心して、眠れ』


『【冥道開通】』


 冥道の波動が、彼を飲み込む。そして、殺した。






◆◆◆ヒナタ視点


「ヒナタ、ルル、キース……………オレに、魔術を教えてくれ」

「これじゃ、足りぬのだ」

「オレ達の魂術じゃ、まともに戦えないんだ」


 カルくんとマルカちゃんが哭いていた。私も、泣いていた。

 私は彼らほど松岡先生のことを知らない。

 それでも、知っている人が死ぬのは、凄く、凄く辛かった。医者と知って警戒していたインデリア姉弟も、嗚咽を漏らしている。


「カルくん…………」

「頼むよ、この人の遺志を継ぐには、もっと強くならなくちゃ…………」


 インデリア姉弟が前にでる。


「わたくしでよければ」

「僕も」


 私は躊躇った。だって私は神騎で、彼は魔人なのだから。私に何か出来るのだろうか…………。

 すると、インデリアさん(姉)が私の腕を取る。


「何を呆けておりますの? 自称彼女さん」

「だって、私は神騎で………」

「それで?」

「え?」

「それで躊躇うほど、貴女のカルマ様への愛は浅いのですか?」

「そんなことは!」

「なら、躊躇うことなど無いではないですか。それでもわたくしの恋敵(ライバル)ですか?」


 その言葉に、私ははっ、となった。この人は、私をそう思ってくれていたのか…………。

 キース君も、私に声をかける。


「そうですよ、ヒナタ先輩! 一緒にカルマ義兄(にい)さまを助けましょう!」

「お前ら…………」


 カルくんも、こちらを見ている。

 そうだよね、この程度で揺らいでちゃ、インデリアさん………いいや、ルルさんに取られちゃう。


「うん、私も協力するよ」


 すると彼は、泣きながら、笑った。



悲しみを乗り越えて、主人公は強くなると思うのです。



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