Resolution:17 受け継ぐモノ
強化ターイム!!!
↑おいこら不謹慎!
アスカさんが、倒れていた。血はすでに液体から魔力となり、大気に溶けはじめている。
それは、魔人や人魔が死に近づいている証。
「アスカさん!」
「アスカ!」
「松岡先生!」
オレ、マルカ、ヒナタが叫び、駆け寄る。
うつ伏せで倒れる彼を抱き起こし、名を呼ぶ。
うっすらと、目を開けた。
「………やぁ、カルマ君」
発せられた声は酷く小さく、弱々しく、掠れていた。
「待ってろ! 今、薬を持ってくるから! キース、頼めるか!?」
「わ、わかりました!」
アスカさんは手を上げて、オレの頬に触れる。オレの顔に付いた血は黒く、そして大気へ溶けて行く。
「………いいかい? よく、聞くんだ」
彼の手を取り、強く握る。
「ああ、ちゃんと聞く! だから今は喋るな!」
「ルル! お前の蝶でどうにかならんのか!」
「あれは、誰かから魔力なり生命力なりを吸いとらなくては! ですがカルマ様のは……」
「なら、カルくんの替わりに私たちのを!」
後ろで、女性陣の会話が聞こえる。
アスカさんが何かを必死に伝えようとしていた。だから、口元に耳を近づける。
「魔人の、居城は………」
彼女たちの生命力を吸った紫色の蝶が一頭、孔の空いたアスカさんの腹にとまり、譲渡を開始する。
「あの、桜の丘の、枝垂れ桜の、向こう側…………」
―――!
どんな因果か、魔人の居場所はあの森の奥、オレとヒナタの思い出の場所だった。
あの桜の向こう側は、緩やかな坂だが、その奥は崖で、山岳が見渡せる。
恐らく、何重にも練り織られた言霊と魔術で隠しているんだろう。
「そして、代行者は、君の――――」
その先は、声が掠れて聞き取れなかった。
オレの、なんだ?
アスカさんが血を吐く。
「アスカさん!」
「忠、告だ…………冥道の力だけじゃ、敵わない。力を………魂術と、魔術を…………」
「約束する! どれも身に付けてやる! だから、死なないでくれ! あんたに死なれたら、誰がオレの体を診てくれるんだよ!」
血が止まらない。ルルの蝶が効いていないようだ。
「もう、無理だよ。魔力を………魂を失い過ぎた」
肉体を持つが故に魄を得れば一時的とは言え、永らえることの出来る屍魔人と違い、魔力で体を構成している魔人や人魔は、その魔力の素となる核に蓄えられた魂を失えば、死に至る。
「でもね、カルマ君。君の、相手の……魂を喰らう業は、魂術を、奪えるんだ…………」
「アスカ………さん?」
「だから、だからね…………」
彼は、弱々しく笑う。
何となく、彼の意図がわかった気がして、涙が溢れる。
「カルマ君、〈同胞喰らい〉カルマ君。君が、僕を…………喰って、くれないかい?」
「なに、言ってんだよ!」
「君が、僕の核を喰えば、僕の魂術を、受け継げる…………」
「出来ねえ、出来ねーよ!」
「お願いだ…………どうか、僕の遺志を、受け継いでおくれ? 重荷に、なるのは、わかる…………でも、でも…………」
声が、どんどん弱くなっていく。
彼の体から、力が抜けていく。
「君に、送って欲しいんだ」
「――――!」
ああ、そうか、もう、助からないのか…………。
そう、悟った。
「カルマ……アスカは、もう…………」
「わかっているさ、マルカ。だから、了解したよ、アスカさん」
「「魔人変躯」」
屍魔人へと成る。
『ゆくぞ、カルマ』
『ああ…………』
アスカさんの胸へと手を突き込む。その心臓部には心臓は無くて、赤い珠の〈核〉、つまり〈核珠〉を取り出す。
そして、その〈核珠〉を飲み込む。
取り込まれて行く。核が分解され、魂を抽出し、その特性が体に、オレの魂に馴染んで行く。
そして、この力に込められた意味を理解した。この人は、逃げたかったのだ。怖いことから、辛いことから。なのに、自分たちを支えてくれた。
だから、感謝しなくてはならない。
『ありがとう、飛鳥さん』
『ありがとう、飛鳥』
『あんたの遺志ははこの桐久保狩魔が引き継いだ』
『だから、安心して、眠れ』
『【冥道開通】』
冥道の波動が、彼を飲み込む。そして、殺した。
◆◆◆ヒナタ視点
「ヒナタ、ルル、キース……………オレに、魔術を教えてくれ」
「これじゃ、足りぬのだ」
「オレ達の魂術じゃ、まともに戦えないんだ」
カルくんとマルカちゃんが哭いていた。私も、泣いていた。
私は彼らほど松岡先生のことを知らない。
それでも、知っている人が死ぬのは、凄く、凄く辛かった。医者と知って警戒していたインデリア姉弟も、嗚咽を漏らしている。
「カルくん…………」
「頼むよ、この人の遺志を継ぐには、もっと強くならなくちゃ…………」
インデリア姉弟が前にでる。
「わたくしでよければ」
「僕も」
私は躊躇った。だって私は神騎で、彼は魔人なのだから。私に何か出来るのだろうか…………。
すると、インデリアさん(姉)が私の腕を取る。
「何を呆けておりますの? 自称彼女さん」
「だって、私は神騎で………」
「それで?」
「え?」
「それで躊躇うほど、貴女のカルマ様への愛は浅いのですか?」
「そんなことは!」
「なら、躊躇うことなど無いではないですか。それでもわたくしの恋敵ですか?」
その言葉に、私ははっ、となった。この人は、私をそう思ってくれていたのか…………。
キース君も、私に声をかける。
「そうですよ、ヒナタ先輩! 一緒にカルマ義兄さまを助けましょう!」
「お前ら…………」
カルくんも、こちらを見ている。
そうだよね、この程度で揺らいでちゃ、インデリアさん………いいや、ルルさんに取られちゃう。
「うん、私も協力するよ」
すると彼は、泣きながら、笑った。
悲しみを乗り越えて、主人公は強くなると思うのです。




